最近、忍者ではないかと疑われている長瀬楓でござる


なぜ忍者と疑われるのか甚だ疑問なのでござるが、それは置いておくでござる


刹那の依頼で横島殿に戦いを挑んだのはいいのでござるが、結果は完敗


まさに先日のピエロ殿に迫る力量の御仁でござった


なにやら他にも何か隠しているようでござるが・・・・まあ、いいでござる


しかし、あの鉄甲作用という技術


知って置いて損はないものでござったな











ピエロが踊るは麻帆良の地 第13話「ピエロ、家庭訪問をする」










「おはよーございまーす!!エヴァンジェリンさんいますかーー!?」



家出騒動が治まった翌日、いつもよりも早起きしたネギは二度寝を貪っていた明日菜を置いて一人学校へと来ていた。

教室に元気よく入るといつもより早い時間にもかかわらず、すでに何人かの生徒たちが談笑しておりネギに挨拶をしてくる。



「お、おはようございますネギ先生」

「「「おはよーー!!」」」

「おはよーーネギ君、エヴァちゃんなら今日休みだって連絡来たよ〜。何でも風邪だってさぁ」

「か、風邪ですか?」



ネギは不思議そうな顔をした。

吸血鬼である彼女が風邪を引くなんて普通は考えられない。

きっといつものようにサボりだろうと決め付けたネギは小さく息を吐いた。

せっかく明日菜と正式に手を組むこととなり決意を新たにして、果たし状を書いてきたのにその本人がいないのでは意味がない。

こうなれば向こうが来ないのであれば、こっちから行くまでだ。



「じゃあちょっと僕、エヴァンジェリンさんの所に行ってき「ちょい待ちな」ゲフッ!?」



そう思い立ったネギは教室を飛び出した。

しかし、入り口の前にいたメドーサによって襟首を捕まれ教室へと引き戻されてしまう。

その時にゴキリッ、と気持ちいい音が聞こえたのは気のせいではないだろう。



「メ、メドーサさん・・・・い、いきなり何を?」

「横島から伝言だ。『授業のあるおまえに代わって、俺がエヴァちゃんの様子を見てくる。おまえは授業が終わってから来るように。そう言うわけだからあとのことは頼む。』」

「そ、そんなぁ〜・・・・」



意気込んで果たし状を書いてきたのにその本人がいないうえに、渡しにも行けない。

出鼻を挫かれるとはまさにこのことである。










「ここか・・・・」



ネギがメドーサに捕まって伝言を聞いている頃、横島はエヴァ宅まで着ていた。

ネギへの言付けはメドーサに頼んできたので、授業を放り出して此処に来るコトはないだろう。

最も、つい二三日前に茶々丸を襲撃したばかりなので正直来るかも怪しいが。

などと考えながら横島は呼び鈴を鳴らした。



「しかし、自宅がログハウスとは・・・・なんか極悪会の組長の別荘を思い出すな。」



しっかりとした木で作られた扉を眺めながらそんなことを口にした。

事務所に依頼に来るたびに肉体的よりも精神的に疲れていった組長を思い出して小さく笑う。

懐かしい思い出に浸っていると目の前のドアがゆっくりと開けられた。



「どちら様でしょうか。」

「あぁ茶々丸さんおはよ・・・・!?!?」



ドアが開いたことで現実に戻ってきた横島は茶々丸に挨拶をする。

しかし本人を視界にとらえた瞬間、横島は口を開けたまま固まってしまった。



「おはようございます横島さん、ようこそいらっしゃいました。本日はどのようなご用件でしょう。」



そんな横島に気付いた様子もなくただ淡々と尋ねる。

しかし当の横島は茶々丸を見たまま放心状態で返事一つしない。



「あの横島さ「茶々丸、誰が来た。」あ、マスター寝てなくては・・・・」



返事がないことに小さく首をかしげながら横島に話しかける。

その時、いつまでたっても戻ってこない茶々丸を不審に思ったエヴァが降りてきた。



「・・・・ん、おまえは横島忠「エヴァちゃん!!」な、なんだその眼は。」



横島はエヴァを見つけると直ぐ様駆け寄り肩をつかんできた。

それを振り解こうとするが、じっと見てくる横島にそれも出来なくなり顔を赤らめて黙ってしまう。



「・・・・いくら学校に行きたくないからって、茶々丸さんにこういうことをさせるのはどうかと思うぞ?」

「・・・・なんのことだ。」

「しらばっくれたってネタは揚がってるんだ!・・・・いくら従者だからといって茶々丸さんにこんな格好をさせて世話をさせるなんて・・・・羨ましいぞ!!」

「羨ましいのかっ!?」

「当たり前じゃないか!!見ろ彼女を!あんなに尽くしてくれる美少女がメイドさんをしてくれるなんて羨ましい他に何がある!?」

「うるさい黙れ!!黙らんと消し炭に、して、やる・・・・きゅう。」










「風邪に花粉症・・・・エヴァちゃんってホントに吸血鬼か?」

「仕方ないだろう。力が封印されているおかげでそこらの小娘とたいした代わらない身体になっているんだ。」

「花粉症はともかく風邪は年齢とか関係ない気がするんだが・・・・。」

「う、うるさいっ!そんなことわかっている!第一貴様に言われる筋合いは、ゴホッゴホッ!!」



あの後、意識が朦朧として倒れたエヴァをベッドまで運んで寝かせてやった。

茶々丸はエヴァ用の薬を取りに席を外している。



「あ〜わかったから叫ぶなって。文句は治ったらいくらでも聞いてやるから今は寝てろ。」

「うぅ〜〜」



咎められたエヴァは布団を鼻先まで被り横島を睨むが、迫力などなくむしろ可愛いだけである。



(ぐっ・・・・お、落ち着くんだ横島!可愛いなんて思ってないぞ・・・・そう、これは猫が可愛いとかそういう類でおまえはロリじゃないはずだ!そうだ、そうなんだ。そう思っていればいいんだよな!?ってそれじゃ意味ねえーーーー!!」

「か、可愛い・・・・」



声に出していることを気付かずに一人悶える横島に都合のいい部分だけを聞いて顔を赤くするエヴァ。

傍から見ると何とも奇妙な光景である。

そのとき、扉を控えめにノックされた。

一拍置いて扉を開けた茶々丸は小さく頭を下げ、その奇妙な光景を目の当たりにして首を小さくかしげた。



「失礼します。・・・・マスターどうなさいました。」

「な、なんでもない気にするな!それより薬はどうした?」

「はい、それはこれから大学の病院で薬をもらってきます。ですので横島さん、その間マスターを見ていて頂けませんか?」

「おい茶々丸何を「わかった任せとけ。」っておい!?」

「ん、どうした?」

「どうしたもあるか!!私は貴様の敵だぞ!?」

「俺がいつエヴァちゃんと敵対したっていうんだ?」

「なっ!?貴様はあのぼうやの味方だろうが!?」

「ん〜確かにネギの味方だけど、病人のエヴァちゃんに攻撃するほど卑怯じゃないぞ?まあ、野郎なら話は別だが。というわけだから、エヴァちゃんのコトは俺に任せて行ってきていいよ。」

「わかりました横島さん。それではマスターのことをお願いします。」

「何がと言うわけだ!?茶々丸、おまえも納得するな!!」



横島に礼を述べる茶々丸にエヴァが叫んでいるが誰も聞いていない。

結局エヴァの言い分は宙へと消えていき、茶々丸も出掛けていった。

それを見送った横島も椅子から腰を上げる。



「・・・・さて、茶々丸さんの代わりにはならないだろうけど、俺にできることなら何でもするから、何かしてほしいことがあったら呼んでくれ。」



横島も茶々丸の後を続くように部屋を出ようとする。

しかし、扉に手を掛けたときエヴァが声をかけてきた。



「まて、貴様は何が目的だ。ジジイに雇われたくせにぼうやの血を狙ったときも助けようとしない。いったい何を企んでいる。」

「あの時は俺が手を貸す前にアスナちゃんが助けに入っただけさ。それに企んでいるなんて、だいそれたことは考えてないよ。ただ、エヴァちゃんにはエヴァちゃんの、ネギにはネギの考えがあるように俺にも俺の考えがあるってことさ。」

「・・・・ふん、そういうことにしといてやる。ただし、私の邪魔をするなら容赦はしないぞ。」

「ははは、その時はお手柔らかに頼むよ。」



そう言い残し、横島は部屋を出ていった。



「・・・・まったく、あの男はわけがわからん。」



一人文句を言っていたエヴァだったがしばらくすると黙り込み、にやりと口を歪ませた。

一方、横島はそのまま一階に戻ってくると部屋をぐるりと見回した。

部屋を飾るのは色とりどりの人形。

そんな趣味を持ち合わせていない横島にとって正直居心地が悪いが文句を言っても仕方がない。

ソファに腰を掛けて暇つぶしにテレビでも見ようかとチャンネルに手を伸ばしたとき、上からエヴァの声がした。

どうしたのかとエヴァの部屋へ向かう。



「寒い、布団を掛けろ。」

「・・・・は?」

「聞こえなかったか?寒いから布団を掛けろと言ったんだ。」

「いや、聞こえたけどよ・・・・それぐらい自分でやれよ。」

「ほう?貴様は先ほど『出来ることなら何でもする』と言ったではないか。だから、貴様に出来ることを頼んでやったんだ。つべこべ言わず、さっさと掛けろ。」

「・・・・ったく、わかったよ。やればいいんだろ?ほら、横になれ。」



そう言われてしまっては何も言えなくなってしまった横島は渋々布団を掛けてやる。

エヴァはエヴァで勝ち誇った表情で見ている。

はっきり言って子供である。



「それじゃあ、下に行くからな。今何か頼むことはあるか?」

「ふむ・・・・今はまだ何もないな。」



そうか、と言って横島は部屋を出ていった。

しかし、この時エヴァの顔が笑っていることに気付かなかったのは失敗と言えよう。



「陽射しが強い、カーテンを閉めろ。」

「雑誌が読みたい、下にある雑誌を持って来い。」

「空気が悪い。窓を開けて換気をしろ。」

「ええ加減にせやーーー!!!」



我慢の限界に達した横島がおたけびをあげる。

それも仕方ないことだ。

なにせ毎度、下に降りてから呼び付けるのだから。



「何をわめいているんだ。」



すでに笑うことを隠すつもりがないエヴァはニヤリと口を歪めている。



「おまえのせいじゃ!毎回毎回下に降りてから呼びやがって、一回で済ませたらどうだ!?」

「仕方なかろう。貴様が降りてから気付くのだからな。まぁもう呼ぶことはないから安心しろ。」

「そう願うね。・・・・んじゃあな。」

「あぁ、最後に一つあったな。」

「・・・・はぁ、なんだ?」

「そのあからさまなため息がカンに触るがまあいいだろう。貴様の血を寄越せ。」



気怠そうにエヴァを見ていた横島だったが、血を寄越せと言われると、頬を掻きながら言いづらそうに答えた。



「あ〜俺の血はうまくないぞ?」

「なんだ?怖気付いたのか。別に血を全部飲もうってワケじゃない。少し分けてもらうだけだ。それとも自分が普通の人間じゃないのがばれるのが恐いのか?」

「気付いていたのか?」



エヴァの挑発にも乗らず、むしろ意外だと言わんばかりに聞き返す。

その反応が嬉しかったのか勝ち誇った表情で横島を見てきた。



「私が何年生きていると思っているんだ。それぐらい雰囲気でわかる。あとおまえと一緒にいる蛇神メドーサもあのキツネも普通ではないのだろ?」

「まあ、エヴァちゃんほどの実力者ならわかって当然か。別にそれが嫌なワケじゃないぞ?」

「それならつべこべ言わずさっさと飲ませろ。」



一向に引きそうのないエヴァにため息を吐きながら腕を差し出す。



「ほどほどにしてくれよ?」

「安心しろ貴様の血は不味そうだからな。味見をするだけだ。」



呆れた眼で横島の顔を見ると、差し出された腕に牙を立てる。

じゃあ飲むなよ、という横島の言葉は風に乗ってどこかへ消えていった。



「うむ、普通の人間とは違う味だがそこまで悪くもない。気が向いたらまた飲んでやらないこともないぞ。」

「不味そうって言ったのは誰だよ。」

「さあ、誰だったかな。」

「まったく素直に美味いと言えばいいのに・・・・所でエヴァちゃんは自由になったら何をしたいんだ?」

「なんだ藪から棒に・・・・別にしたいことなんてない。ナギに復讐しようにもあいつはすでに死んでしまっている。もともと私は望んで吸血鬼になったわけじゃない。」

「違ったのか?確か真祖って失われた秘術を用いて吸血鬼になったヤツのことを言うんだよな?」

「ああ、確かにそうだが私の場合は自ら進んでなったわけじゃない。10歳の誕生日、朝目覚めたときにはこの身体にされていた。おかげで身体の成長は止まり必要もない永遠の命を手に入れた。人として、いや生きるものとして当たり前の"死"を奪われた私は周りにとっては恐怖の象徴だったよ。不死だと判っていながらも幾度となく命を狙ってくる輩を払い除け、時には殺し・・・・気が付けば冷酷で残虐な最強の悪の魔法使いとして賞金首になっていた。別に悪の魔法使いというのが嫌いなわけではない。むしろこの身体が吸血鬼だということよりも誇りに思っているよ。そしてアイツに封印されて15年・・・・最初のうちは反発しながらも心のどこかで思っていた。『あぁ、ようやく誰からも狙われる事無く平穏な日々が送れる。』とな。しかし、時が経つにつれ私が吸血鬼だということが改めて突き付けられた。周りのヤツらが成長していく中、一人残されていく。タカミチがいるだろう。あいつとも同級生だったこともある・・・・おまえにこの気持ちが分かるか。」

「・・・・分かると言っても信じないだろ?」

「分かる・・・・だと?普通の大人になり自由を謳歌出来るおまえに、永遠の生き地獄を宿命付けられた私の苦しみなどわかるものか!?知ったような口をするな!!・・・・・・・・出ていけ。」



苦痛に満ちた表情で叫ぶと布団を深く被り込んでしまった。

明らかな拒絶。

横島はそんなエヴァに追い出されるように部屋を出ていく。

階段を降りる音を聞きながらエヴァは自分の言動を振り返っていた。



(何を私はあの男に話しているのだ。あの男なら私の気持ちを理解してくれるとでも思ったのか?バカな!!あの男に分かるはずがない!いつもヘラヘラと笑って日常を過ごすあの男に私の気持ちが分かってたまるものか!!・・・・わかって、たまるものか。)



まるで自分に言い聞かせるかのように膝を丸めて心の中で繰り返す。

そのとき、エヴァの頬を一筋の何かが零れ落ちたことに気づくことはなかった。










部屋から追い出された横島は、居間のソファに深く腰を掛け思考にのめり込んだ。

実際、横島はエヴァの何倍もの時を生きている。

だがエヴァのように一人で生きてきたわけではない。

小龍姫やヒャクメ、ワルキューレなどの神魔族の知り合いがいたし、ハルマゲドン勃発後もタマモやメドーサが常に隣にいた。

だから本当の孤独というのを味わったことがない。

その自分がエヴァに気持ちが分かると言ったところで届くことはないだろう。



「だからと言って放っておけないしな・・・・学園長には許可も得たし、今回の件が終わったらやってみるか。」



誰に言うわけでもなく呟いていると、玄関の扉が開く音が聞こえた。

茶々丸が帰ってきたのかと視線をやるとそこには茶々丸の他にもネギが立っていた。



「お帰り、茶々丸さん。それにネギ、おまえ授業は終わったのか?」

「あ、はい午前中の授業はもうないんで来たんですけど、その途中で茶々丸さんと一緒になったんです。それで・・・・エヴァンジェリンさんは?」



そう聞かれて最初に思い浮かんだのは、先程から頭から離れないあの言葉。



『普通の大人になり自由を謳歌出来るおまえに、永遠の生き地獄を宿命付けられた私の苦しみなどわかるものか!?』



こんなことを10歳の子供に話すことでもないし、話すつもりもない。

だから適当な嘘を吐き話を逸らすことにした。



「あ、ああ、さっき寝付いたばかりだからなんか用事があるならまた今度にしたほうがいいぞ。症状は茶々丸さんに聞いたか?」

「あ、はいそれは。でも吸血鬼って病気にもかかるんですね。」

「まぁ今のエヴァちゃんは封印のおかげでそこらの女の子と変わらないからな。と言うわけだから、帰るぞ。」



ネギの頭を軽く叩き、玄関へと向かっていく。



「え、でも僕はエヴァンジェリンさんに用事が・・・・」

「そのエヴァちゃんは眠ってるんだからまた今度にしとけって。急ぎの用事なら茶々丸さんにでも伝えておけ。」

「あ、横島さん!それじゃあ茶々丸さん、エヴァンジェリンさんにお大事にとお伝えください。待ってくださいよ〜横島さ〜ん!!」



ネギは一人スタスタと帰っていく横島を慌てて追い掛けていく。

追い付くと横島は優しく頭を撫でてやる。

まるで仲のいい兄弟である。



「さようなら横島さん、ネギ先生。」



それを玄関から見送る茶々丸はどこか残念そうな雰囲気を纏っていた。

二人の姿が見えなくなると薬を持ってエヴァの寝室へと向かった。



「失礼しますマスター。」

「ん、茶々丸か。下が騒がしかった誰が来ていた。」

「はい、先程ネギ先生がお見えになったのですが、横島さんがマスターは寝ていると仰られて学校の方に戻られました。」

「そうか・・・・あの男め、余計なマネを。」

「それでマスター、ネギ先生から伝言があるのですが。」

「なんだ?この間あれだけ怯えていたのだから降参でもしてきたか?」

「いえ、『お大事に』とのことです。」



茶々丸の予想外の答えにエヴァはしばし理解ができなかった。



「つまり何か?あれだけ怯えていたくせに私のお見舞いに来ただと?・・・・あの男といい、坊やといい、いったい何を考えているんだ。」



茶々丸はその問いに答える事無く、静かに横にたたずんでいた。










その頃、横島たちは午後の授業のために学校に戻る道を歩いていた。



「学校の方は何かあったか?」

「いえ、これといって特にありませんでした。マジメに授業を聞いていますし・・・・ただハルナさんたちとしか会話をしてないみたいで、まだ他の人とは馴染めていないようです。」

「そうか・・・・ま、しょうがないか。あいつはこういう風に学校に通ったコトがなかったからな。時間が経てば他の皆とも仲良くなれるだろう。」

「え、メドーサさんって学校に行ったことなかったんですか?」

「ああ、ずっと俺と一緒にあちこち飛び回ってたからな〜。それにしても、念のために伝言を頼んでおいたけど、まさか本当に来るとは思わなかったよ。」

「え、あ、はい。今日はこれをエヴァンジェリンさんに渡そうと思って。」



そう言って懐から取り出したのは"果たし状"と書かれた手紙。

横島は予想外に古風な行動に若干苦笑いを浮かべた。



「こ、これまた古風にきたな。だけど、吹っ切れたみたいだな。」

「はい!僕は今までたいした壁もぶつからずに生きてきました。・・・・今回のエヴァンジェリンさんのことは初めてぶつかる壁なんです。だから精一杯出来ることをやろうと思うんです。」



真剣な瞳で語るネギに横島は感心しながらあることを思った。



『あの時、俺にもこんな意志があれば歴史は変わっていたかもしれない。』



そう思った瞬間、首を横に振った。



(いまさら何を言ってやがる。あの時はあれ以外方法がなかった・・・・いまさら悔やんだところで何が変わるっていうんだ。)

「・・・・さん?」

(あれだけキーやんたちに力説しておきながら、いまさら後悔してるなんてバカにも程があるぞ。)

「横島さん!!」

「おわっ!?な、なんだネギ脅かすなよ。」

「脅かすなって、急に怖い顔して黙り込んじゃったからびっくりしましたよ。僕の話聞いていました?」

「あ、悪い聞いてなかった。何の話だったっけ?」

「えっと、横島さんに言われた覚悟っていうのがなんとなく判るような気がしてきたって言ったんです。」

「・・・・そうか。」

「はい。この間横島さんの家から逃げ出したあと、アスナさんが山奥まで探しに来てくれたんです。不謹慎かもしれませんがとても嬉しかったです。僕にあそこまで親身になって心配してくれたのは故郷にいるネカネお姉ちゃんとアーニャだけでしたから。それに、今日一日授業をしながらクラスの皆を見て改めて思いました。アスナさんの、皆のあの笑顔を守りたいって。」



ネギの決意を静かに聞いていた横島は心底感心した。

その結論に達するまでに自分は何度挫折を仕掛けたんだろう、と。

それに比べ自分よりも遙かに年下のネギがこうも決意を固めるとは思ってもいなかったのだ。



「そうか、後悔はしないんだな?」

「はい。」

「この先、自分のせいで仲間が危険にさらされてもか。」

「その時は全力で助けます。」

「そうか・・・・なら困ったことがあったら言うんだぞ。」

「はい。ってあれ?横島さんは何もしないんじゃ。」

「何もしないなんて言ってないぞ。全面的に助けないと言っただけで、作戦を練ったりとかは協力してやるよ。それに戦いはアスナちゃんがいるから心配ないだろ?」

「はい、本当はアスナさんを危険な目に遇わせたくはないんですけどボク一人の力じゃエヴァンジェリンさんには到底敵いませんし、だから今回だけ協力をお願いするつもりです。変ですよね、さっきと言っていたことが逆なんですよ。守りたい人の手を借りるなんて・・・・」

「気にすることはないぞ。誰の手も借りずに全てができるやつなんていやしないんだから。それにもし借りないで負けちまったらそれこそ元も子もない。それに正義感の強いアスナちゃんのことだ。子供が危ない目にあってるのに自分だけ安全な場所になんていられないだろうさ。」



そう言って横島はネギの頭を撫でた。

最初は驚いたネギだが、次第に気持ちよさそうな表情でされるがままになった。

結局その話はそこまでとなり、教室にたどり着くまで二人は日常の会話に花を咲かせていた。










横島たちがお見舞いに行った翌日、エヴァは風邪も治り学校に来ていた。

普段ならばサボるのだが、今日はめずらしく授業に参加している。

本人曰く、昨日の礼らしい。

それに横島は嬉しそうに頭を撫でて蹴られ、機嫌を損なわせそうになったりもしたがおおむね順調に一日が過ぎていった。

そして放課後、エヴァたちはパソコン室に来ていた。

目的は呪いの他にエヴァ自身の魔力を封じる結界の有無と横島忠夫の正体。

暗く静かな教室の中でキーボードを叩く音が響きわたる。



「・・・・どうだ?」

「予想どおりです。やはりサウザンドマスターのかけた呪いの他にマスターの魔力を押さえ込んでいる"結界"があります。この"結界"はマスターにかけられている呪いと連動しており、どちらか一方を無力化すれば解かれる仕組みのようです。尚、この結界は学園全体に張りめぐらされていて魔力の変わりに電力を利用しているようです。」

「ふん、10年以上気付かなかったとはな・・・・しかし、魔法使いが電気に頼るとはなー。」



エヴァは自分を封印するだけために張られている結界に妙な感心を示した。

彼女自身、生まれが中世なだけあって機械類には弱く、茶々丸の整備も本人かクラスメイトのハカセに任せっきりである。

しかし、エヴァ一人に何とも無駄な金の使い方である。



「それで、あの男は?」

「はい、それがそのほとんどがunknownです。」

「何、どこにも載っていないのか?」

「はい、唯一こちらに赴任されてからの情報のみです・・・・しかし、少し気になる点があります。」

「なんだ?」

「横島さんが赴任されたと同時期にある人物が裏の仕事を請け始めています。」

「それはあの男ではないのか?」

「はい、横島さん本人が受けた依頼とは別にランクA以上の依頼を受けています。」



依頼は基本D〜SSの6段階に別れている。

そして自分の戦闘ランクにあった仕事を請けるのが普通なのだ。

もっともこのランクは魔法世界ムンドゥス・マギクスの上層部が決めているので、自分たちの理念に反する人物には高い評価が与えられない。

傭兵や賞金稼ぎを生業としている者たちは総じて正当な評価をされないことが多々ある。

この裏には傭兵や賞金稼ぎを減らし、魔法使いの尊厳を守ろうとする思惑があるのだがうまくいっていないらしい。

逆に賞金首となるとその危険度を表すために正当な評価を与えたりする。

そのことを知っているエヴァはその男がランクを超えた実力を有していることに気づき、小さく驚嘆した。



「ほう、なかなかの腕前じゃないか。そいつの画像は。」

「それが、麻帆良の監視カメラや人工衛星からも巧妙に姿を隠しており確認されておらず、唯一見つけた映像もこれだけです。」



そういって映し出されたのは、深紅の外套を羽織りピエロの面をかぶった人影。

その画像自体も小さく、茶々丸が画像処理をしてようやく見える程度だった。



「なんだこのふざけた格好は。こいつの正体は?」

「本名、性別ともに不明。ピエロの面をいつもしていることから"死神のピエロ"と呼ばれています。」

「死神だと?ずいぶんと物騒な呼び名だな。」

「それには由来があるようです。出会った敵はすべて倒されており、他にも依頼者自身も依頼自体は覚えているのですが、容姿や声など本人に繋がる記憶が消されていることです。」

「なるほど、どうやって記憶を消したかはわからんがよほど知られたくなかったか、あるいは別の理由があったか・・・・こいつが横島忠夫である可能性は?」

「およそ30%です。ですが、横島さんと死神のピエロへの依頼は重なっておらず、少なくとも関係者である可能性は高いと思われます。」



その時、エヴァの脳裏に横島の顔が思い浮かんだ。

あの時は、自分の十分の一も生きていないやつにわかられてたまるかと頭ごなしに反発したが今思えば、自分の気持ちをわかると言ったときの表情は優しく、上辺だけで言っているのではないことはエヴァ自身理解していた。

もしかしたらあの男ならば私の気持ちをわかってくれるかもしれない。

そうとさえ思っていた。

しかし、今はネギの血が目的だ、そう心の中で言い聞かせる。



「そうか・・・・まぁいい。今回の目的は坊やの血だ。あの男は注意しておけばいい。予定どおり今夜決行するぞ・・・・フフフ、坊やの驚く顔が目に浮かぶわ。クククク・・・・ハハハハハ!!!」



教室から出て屋上に向かったエヴァは一人高笑いをあげる。

しかし、茶々丸は浮かない顔をしていた。

それに気付いたエヴァは茶々丸に問い掛けた。



「どうした茶々丸。何か気になることでもあるのか。」

「い、いえ・・あの・・その・・・・・・・・申し訳ありませんマスター。」



挙動不振にだった茶々丸はエヴァに頭を下げて謝りネギとの間に出来たことを話した。



「ネギ先生はすでにパートナーと仮契約を結んでいます。」

「何!?それは聞いていないぞ!なぜ黙っていた!?相手は誰だ!?」

「相手は神楽坂明日菜です。何故報告しなかったは・・・・自分でもわかりません。申し訳ありません。あともう一つ、早乙女ハルナもこちら側の人間です。」

「なんだと!?アイツは一般人のはずだ!!何故おまえが知っている!?」

「実は数日前、ネギ先生とアスナさんの二人と戦った際、ハルナさんがネギ先生の魔法の射手を防いで私を助けてくれました。」

「なっ!?坊やの魔法を防いだだと!?そんなバカなことがあるか!」

「いえ、事実です。どうやら横島さんを師事しているらしく私を助けてくれたのも横島さんの指示のようです。・・・・申し訳ありませんでした。マスターどうか、いかなる罰も受けます。」

「いやいい、今夜おまえがいないと私も困る。早乙女ハルナまでもこちら側の人間だったとは予想外だが、そのおかげで今回の作戦に支障をきたすことがなかったのだから感謝せねばならんな。・・・・開始まであと5時間だ、行くぞ茶々丸。」



そういうとエヴァは茶々丸を連れ校舎の中へと消えていった。










「でも、よかったわねネギ。エヴァちゃんが教室に戻って来てくれて。」

「あ、はい。でもまだ油断できません。エヴァンジェリンさんの目的は僕の血なわけですし・・・・でも教室に戻ってきてくれたのは、アスナさんやカモ君、長瀬さんに横島さんのおかげです。」

「ん、楓ちゃんが何かやったの?」

「あ、いや別に・・・・」

「それに横島の旦那だって何もしちゃいないだろ。むしろオイラたちの邪魔しただけだし。」

「違うよカモ君、横島さんは僕に大切なことを教えてくれたよ。」

「大切なこと?」

「はい。まだ完璧に掴んだ訳じゃないけど力を持つものの在り方っていうか、考えっていうか・・・・言葉には表現しづらいですけどそういうものを教えてもらいました。」

「ふーん、まあいいわ。これでもうあの訳のわからない契約とかに付き合わされることはなさそーね。」

「あ、そ、それは・・・・まだわからないです。」

「えーーっ!!なんでよ!?」

「まだエヴァンジェリンさんは僕の血を狙ってるわけですし・・・・もしアスナさんの迷惑でなければ力を貸してくれませんか?本当はこんな危ないことには巻き込みたくはないんですけど・・・・僕一人ではどうあがいたってパートナーのいるエヴァンジェリンさんには勝てません。こんなこと頼めるのはアスナさんしかいませんし・・・・ダメでしょうか?」

「もーしょうがないわね。これも乗り掛かった船だし、あんたを放っておくと一人で戦いそうだしね。」

「あ、ありがとうございます!!」



アスナの返事に、ネギは勢い良く頭を下げる。

それを見ていたカモは驚きを隠せないでいた。

普段から背負い込みがちなネギが自ら他人を頼ったのだから。



(マ、マジか!?あの頑固なアニキが他の人を頼った!?・・・・どうやら本当に横島の旦那に感謝しなきゃならんみたいだな)

「ん、あれ?」



一人驚くカモをよそにアスナは店に出来た人集りを見つけた。

そこには"停電SALE!"と書かれてたのぼりと、見知った顔、そして。



「さあ、寄ってらっしゃい見てらっしゃい!スタンドライトに懐中電灯、蝋燭、お得なセットまで多種多様に取り揃えてこの値段なのは麻帆良でもこの店だけっ!!ここで買っていかないと絶対損っ!!そこのお姉さんおひとつどうだい?」

「お兄さん、セットって何あるの?」

「よく聞いてくれましたっ!!例えばこの1人暮らしセット!暗闇に1人という孤独感を和らげるために精神安定を促進させるアロマキャンドルを採用。さらにただの蝋燭と一緒にしちゃいけないのが光の強さとその持続時間っ!他の蝋燭に比べて1.5倍(当社比)の輝きと、この大きさで48時間という長時間使用を可能とした優れものだっ!ここでしか手に入らない貴重な品だ、さあ買った買った!」

「お兄さん、2人部屋セット二つください。」

「あいよ、毎度有り。お姉ちゃん可愛いからおまけでもう一本つけてあげるよ。」



なぜかエプロンをして鉢巻をした横島である。

鉢巻にはご丁寧に『安さ麻帆良1への挑戦』と書かれている。

しかし、丸二日も持続する蝋燭など防災用ならともかく今回は必要ないと思うのだが。

そんな人ごみの中から抜け出してくる一団がいた。

図書館探検部とメドーサ、タマモである。



「あ、アスナ〜ネギ君。ちゃんと今日の蝋燭買ったで〜。」

「このか、一つ聞いていい?なんで横島さんが店員なんてやってるのよ?」

「なんか人手が足りなかったらしくて見かねた師匠が手伝うって言ったらしいんだよね。」

「それにしても違和感がまったく感じられないのは気のせいでしょうか?」

「あいつは元々、関西出身らしいからね。」



夕映の疑問に買い物袋を提げたメドーサが答える。

そんなやり取りをよそに横島の売り文句は続く。



「暗闇でやるといえば、ご存知怖い話っ!!今日それをやろうとする方にはこれの『百物語セット』がオススメだ!ろうそく百本に蜀台もつけてこの値段っ!もうこれは買うっきゃない!!もし百物語を終えて本当に怪奇現象が起こった時は龍宮神社の巫女さんがお払いに来てくれるというオマケ付き!!これを逃したら後悔間違いなし!さあ、買った買った!!」

「ふっ、仕事代は弾んでもらうよ。」



そう言われて横島の隣に現れたのは巫女服姿の龍宮。

その余裕溢れる表情に男どもの目は釘付けだ。



「「「「「ウオォォォォォォォ−−−−−!!!!!!」」」」

「巫女服キターーーー!!」

「店員さん1つくれっ!!」

「こっちは2つだっ!!」

「甘いぞ、こっちは3つだーーーっ!」

「あいよ、毎度有り!!」



"停電SALE!"という今回の目的から逸脱した商品なのだが気にしてはいけない。

そのセットを2つも3つも買って百物語を何回やる気なのかも聞きたい気もする。

だが聞いてはいけないのだろう。

なぜなら言わずして気づくのが人としての優しさだからだ。

決して、予想を超えた答えが返ってくるのが怖いわけではない。

その後、何気に乗り気な龍宮も『百物語セット』のみの売り子として仕事を続けた。

その影響かさらに売り上げが伸びていき、横島の仕事は当分終わりそうもなかった。






〜〜あとがき〜〜
そろそろ大学が始まる龍牙の想いです
前期の単位を一つも落とさなかったのは奇跡と言うべきかw
来月には検定試験も迫ってきていて本腰入れて勉強しなきゃなりません(;つД`)

さて今回は巫女服を、じゃなくて家庭訪問を書いてみました
アニメ版のエヴァが言った台詞がひどく印象的で今回使ってみましたが違和感あるでしょうか?
さて次回はハルナ大活躍の予感!?





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