世間ではツッコミキャラやロリキャラ、ツンデレだの鳴滝3号などと呼ばれている
今一度言っておこう
私は
そんな不愉快極まりないあだ名をつけられたのもすべてはサウザンドマスターのせいだっ!!
今日こそあのぼうやの血をいただいて自由の身になってやる
くっくっくっ、覚悟するんだなぼうや
そして横島ただっクシュンっ!
・・・・いかん、風邪をぶり返してきたようだ
ピエロが踊るは麻帆良の地 第14話「ハルナ、戦う」
「ん、んん〜〜〜っ!」
「お疲れハルナ。調子はどう?」
机に向かって熱心に何かをしていたハルナは大きく背伸びをする。
そこにお茶を持ってのどかが労いの声を掛けてきた。
「ありがと。調子なら絶好調よ。次から次へとアイディアが浮かんできてね。何を描こうか逆に迷っちゃうぐらいなのよ。」
あはは、と陽気に笑うハルナにつられてのどかも小さく笑みを浮かべる。
ハルナは今、新作漫画の原画を描いている最中だ。
あのあと横島たちと別れ、家に帰ってきてからずっと机に向かい続けていたハルナはのどかの入れたお茶を飲んで小休憩をいれる。
二人がお茶を飲んでいるとふと、描きかけの原画がのどかの目に入ってきた。
「ね、ねぇハルナ。ちょっと読んでみてもいい?」
「別にいいわよ。けど、まだ最初の最初だから話も進んでないし、汚いわよ?」
大丈夫、と言うとのどかは原画を手に取った。
ハルナの描くマンガはBL調が強めの物が多いが、万人受けの漫画も描いている。
ベタな恋愛物がほとんどなのだがストーリー構成が上手く、『本屋』というあだ名を持つのどかも純粋なファンの一人である。
楽しそうな表情を隠そうともせずに、原画を捲っていく。
しかし、あることに気付いたのどかはハルナに視線を向けた。
「ハルナ、今回はいつもと違うね。」
「ん?そう?私はいつも通りだと思ってるんだけど。」
「だって、ファンタジー物はあんまり描かないから・・・・」
そう、今回の新作はファンタジー系なのだ。
表紙には黒髪長身の青年と強気な印象を持つ女性が背中合わせに立っている絵。
ページを捲れば怪物相手に勇敢に立ち向かう二人が描かれていた。
「ああ、それ?毎回ただの恋愛ものだったら飽きちゃうでしょ。だからちょっと新しいジャンルに挑戦しようと思ってね。」
さすがに、自分がその世界に足を突っ込んだからよりリアルな話をかけるから・・・・などと言えるはずもなく、ハルナは適当に濁して答えた。
そんなことを知る由もないのどかはへぇ〜と感心しながらページを捲っていく。
ハルナはそれを眺めながらお茶を飲んでいたが、ちらりと時計を見てすっくと立ち上がった。
「のどか、私ちょっとお風呂行ってくるわ。」
「えっ?だ、だってもうちょっとで停電始まるよ?」
「大丈夫すぐ戻ってくるわよ。それに、あまりにも真剣に描いたから汗かいちゃったし・・・・じゃ行ってくるね。」
そう言って、準備をしてハルナは大浴場へと向かった。
大浴場へ迎う道程をハルナはのんびりと歩いていく。
空には綺麗な月が輝いている。
その瞬間、何かが月の前を通った気がしてハルナは空を見上げた。
「鳥・・・・かな?」
深く考えることをせずにそのまま大浴場へと向かう。
しかし、大浴場に着いたとたん辺りがフッと真っ暗になった。
「はぁっ!?もうそんな時間!?」
素っ頓狂な声を上げて時計に目をやると時間は確かに8時。
どうやらのんびりと歩きすぎたらしい。
しばらく時計を凝視していたが深くため息をすると出口へと向かった。
「はぁぁ〜〜〜しゃあない。こうなったら意地でも大浴場に入ってやる。取り合えず、復旧するまで部屋にいようっと。」
変な決意をして出口へと向かう。
元々気まぐれでここを選んだので固執する必要はないのだがそれはそれである。
先程の本の続きを練りながら脱衣所の扉に手をかけた瞬間。
「「「キャーーーーーッ!!」」」
叫び声が上がった。
「本当に今日動くの?」
時間は少し戻り停電前。
横島はピエロの衣裳に身を包み、寮全体を見渡せる場所でエヴァの動向を探っていた。
その横には普段なら夜の仕事を手伝う事が少ないメドーサとタマモがいる。
「エヴァちゃんには茶々丸さんがいるから封印が麻帆良の電力を用いているのは気づいてると思う。だから必ず動きはあるはずだ。」
「まあ、ヨコシマがそう言うなら。」
いまいち納得の出来ないタマモを横島は納得させる。
その横でメドーサはめんどくさそうな表情で辺りを見回している。
停電が迫るこの時間になると、外を出歩く一般人は皆無なのだが仕事はきっちりこなしている。
「停電が始まるね。」
メドーサの言葉に続くかのように辺りの光が次々に消えていく。
あっという間に学園中が暗闇に包まれていく。
それと引き換えのようにある点で巨大な魔力が沸き起こるのを3人は感じた。
「ビンゴ。」
「もうすぐ停電だねカモ君。」
「そうっすね。それにしてもアニキ、なんで姐さん連れて来ないんすか?」
もうすぐ始まる停電を前に、ネギはカモを連れて寮の周りの警備に当たっていた。
当初、10歳の子供が警備に当たることに不安の声も挙がったが停電を狙って現れる悪魔が被害が一番届きにくい場所ということでネギが警備を担当することになった。
その裏には学園長の思案も見え隠れしているが気付いたのはほんのわずかな人だけである。
「今日はただの見回りだよカモ君。それに満月じゃないからエヴァンジェリンさんは動かないと思う。」
その警備にパートナーの明日菜を連れてこなかったことに疑問の声を挙げたカモにネギは自分の考えを口にする。
それがすぐに撤回されるとは夢にも思わずに。
「おっ停電が始まったっすね。」
「そうだね。でも真っ暗な寮って意外と怖い・・・・っ!?」
停電が始まり辺りが暗やみに包まれた瞬間、ネギの身体に何かが走った。
反射的に杖に手を掛け、全身の感覚を研ぎ澄まして辺りを伺う。
カモもそれは同じらしく、全身の毛を逆立てる。
「ア、アニキ・・・・気付きましたか?」
「うん、停電になった瞬間近くですごい魔力が沸き上がった。まさか・・・・これがエヴァンジェリンさん?」
「それが一番可能性がありますぜ。あんな魔力の持ち主はそうはいません。どうすんすかアニキ?」
「もちろん、エヴァンジェリンさんのところに行くよ。カモ君は急いで明日菜さんを呼んできて。場所は僕の魔力をたどればわかるでしょ?」
力強く頷くと杖にまたがりカモに指示を出す。
がってんだ、とカモが飛び出していく。
それを見送ったネギは魔力が沸き起こったほうに視線を向けるとそれとは反対の方向へと杖を飛ばした。
叫び声を聞いて慌てて大浴場に走り込んだハルナの目に飛び込んできたのは浴槽に倒れこんだアキラ、亜子、裕奈。
そしてそれを無視するように月を見上げているまき絵だった。
「みんな大丈夫!?まき絵、いったい何があったのよ!?」
意識がない三人を浴槽の外に引きずりだしながらまき絵に何があったのか聞いた。
しかしまき絵からの返答はなく、まるでこちらに気付いていないようにただ窓から見える月を見上げている。
「・・・・まき絵?」
不審に思ったハルナはゆっくりと近づいていった。
そして顔を覗き込もうとした瞬間、激しい衝撃とともに浴槽の端まで吹き飛ばされた。
「かはっ!?・・・・いった〜ちょっとまき絵何するのよっ!!」
立ち上がったハルナは声を上げてまき絵に抗議をする。
そこで初めてまき絵が反応を見せた。
ゆっくりとハルナに向き合い、攻撃を仕掛けてきたのだ。
「ちょっ!?見えちゃいけない所まで見えてるわよ・・・・って洒落になってない!!まき絵どうしたのよ、まき絵っ!!」
攻撃の勢いがさらに増す。
若干まき絵の顔が赤いのは気のせいだろう。
技術などないに等しいただ拳を振り回して向かってくるまき絵にハルナは訳が分からず、ただ避け続けながらまき絵に叫んだ。
どうするべきか迷っていると、どこからか声が聞こえてくる。
「無駄だ。そいつにおまえの声が届くことはない。」
「っ!?誰よ!!どこにいるのっ!?」
まき絵から大きく距離を取って辺りを見回す。
すると、月光の影に二つの人影を見つけた。
ゆっくりとした足取りで二つの人影は月光のもとに姿を曝しだす。
「そいつは今や私の眷属だ。よく言うだろう、吸血鬼に血を吸われたら吸血鬼になる、と。」
そこに現われたのはメイド姿の茶々丸と艶美な女性。
訝しげに見るハルナはある結論に達した。
「茶々丸さんに・・・・エヴァちゃん?」
「ほう、よく気づいたな。」
「まあ、なんとなくよ。いつも茶々丸さんといるのはエヴァちゃんぐらいだしってか、何でそんなナイスバディなのよっ!?・・・・もしかして幻術?じゃあそれがエヴァちゃんの理想なのか〜よっぽどスタイルのこと気にしてたのね。」
メドーサから受けた座学で幻術の話しがあったことを思い出したハルナは一人納得する。
最後の一言は本心からだ。
「余計なお世話だっ!・・・・まぁいい。早乙女ハルナ、貴様は以前茶々丸をぼうやから助けてくれた恩があるからな。このままおとなしく寮に戻るなら見逃してやろう。どうだ?」
図星を指されたエヴァは真っ赤になってツッコミを入れ幻術を解く。
そして落ち着きを取り戻すと貴様は邪魔だからさっさと失せろ、と暗に伝えた。
しかしハルナは眼鏡を押し上げるとエヴァの言葉の裏を理解したのか提案をはねのけた。
「冗談っ!」
「ふっ、そうか。では手加減はせんぞ。」
エヴァの言葉にハルナは構えようとした。
しかし、突然何者かに両腕を捕まれてしまう。
驚いて振り向くとそこには先程まで倒れていたアキラと亜子の姿があった。
裸だったのもいつの間にか茶々丸と同じメイド服を着ている。
「萌えってものをわかってるわねぇ〜っじゃなくて、ちょっアキラッ!?あんた何やってるのよっ!?亜子も離しなさいよっ!」
必死に藻掻くも、ピクリともしない。
そんなの正面には同じ服装をしたまき絵と裕奈が迫ってくる。
「言っただろう?吸血鬼に噛まれると吸血鬼になる・・・・と。」
「ちょっ!?洒落になってないわよっ!」
ハルナは霊力で肉体強化を施し二人を振り払って、転ぶようにまき絵たちの攻撃をかわした。
一方ハルナを捕まえていたアキラたちはバランスを崩れたまま二人の攻撃をもろに受け、壁まで吹き飛ばされる。
「アキラッ!亜子っ!」
ハルナは敵だということを忘れて吹き飛ばされた二人へ慌てて駆け寄る。
瞬間、ハルナは腹に強烈な一撃をもらい逆に大きく吹き飛ばされた。
何が起こったのかわからなくなったハルナは湯槽の中へと落ちる。
落ちた場所が場所なだけ衝撃はそこまで無かったのだが、アキラからの一発が効いたのか湯槽から上がっても、ハルナは沸き起こる吐き気を必死に堪えていた。
それでも視線をまき絵たちに向けているのは誉めるべきだろう。
「敵だというのに心配するなど・・・・阿呆か貴様は。」
「と、友達をゴホッゴホッ!!心配するのがどこが悪いのよ?」
「友達?はっ、何を勘違いしている。そいつらは私が操っている眷属、つまりは敵なんだよ。」
「・・・・操っているということはエヴァちゃんをなんとかすればまき絵たちは元に戻るってわけ?」
「それが出来るか?ついこの間まで表の世界しか知らなかった貴様が。」
嘲るような笑みを浮かべてハルナを見下す。
四人がゆっくりとハルナに迫っていく。
最強と名高い魔法使いとその従者。
血を吸われ、眷属と化した4人の友人。
初めての実戦。
そして何より、戦う相手が皆同じクラスメイト。
挙げればキリがない程の不安要素。
そんな追い詰められた状況でもハルナの怯まなかった。
「ハッ、舐めるんじゃないわよ。私だって師匠やメドちゃんに教えてもらってるだけじゃないんだから。それにちょっとばかり道をはずしたクラスメイトにお灸もすえてあげないとね。」
「・・・・いい度胸だ。それだけは認めてやろう。だか、度胸だけでは何も出来ないことを教えてやる。」
その言葉が引き金となり第二ラウンドが始まった。
一斉に襲い掛かってくるまき絵たちを前に、ハルナは眼をつぶり冷静に体中に霊力を廻す。
そして眼を力一杯開いたとき、その眼は空よりも蒼い光を発していた。
浄眼開眼
ハルナが使うことの出来る特殊能力、浄眼。
それを開眼したハルナは襲い掛かってくる四人を注視する。
四人の身体からはエヴァから供給されているのか魔力が流れていた。
その流れと身体の動きからハルナは四人の動きを予測する。
(右と左から一人ずつ、正面から一人。)
直ぐ様膝をまげて三人の頭上を飛び越す。
しかし、そこには四人目のアキラが拳を握って待ち構えていた。
「なんのっ!」
振り下ろされた拳を弾くとアキラの身体を踏み台としてエヴァへ向かって跳び出した。
一直線に跳んでくるハルナにたいして、エヴァは不敵な笑みを消すことなく悠然と立っている。
何の行動に移らないエヴァにたいして当たると確信したハルナは拳に力を入れた。
しかし、あと一歩で当たるというところでいきなり割り込んできた茶々丸に腕を掴まれてしまう。
「茶々丸さんっ!?」
「申し訳ありませんが、マスターを傷付けるならばクラスメイトのハルナさんであっても容赦するわけにはいきません。」
茶々丸はハルナの腕を掴んだまま大きく振りかぶって投げ飛ばす。
空中でなんとか体勢を直したハルナは着地した。
そこを狙い打つかのごとく迫りくる4人。
(真正面から向かっていってもさっきの二の舞になっちゃう。どうにかして茶々丸さんを掻い潜らなきゃ。何か武器になるものは・・・・)
4人の攻撃を避けながら周囲に目をやり武器になりそうなものを探す。
そしてある物が目に止まると迷うことなくそれを取りに走った。
浴槽に浮かぶそれをつかむと再びエヴァへと駆け出す。
「タオルだと?ハッ、そんなものを持ってどうする。私の身体でも洗ってくれるのか?」
ハルナが手に持つそれは、先ほどまでまき絵たちが身を隠すのに使っていたタオル。
水分の十分に吸収したそれを持つとエヴァの挑発を無視して再び駆け出した。
まき絵たちの動きを寸分違いなく読み取ると自分の出来る最小限の動きで躱しエヴァへと向かう。
そこに立ちはだかる茶々丸は容赦なく拳を繰り出す。
それを何とか躱すとハルナはタオルを力の限りに横薙ぎに叩き込む。
「はあぁぁぁっ!!」
狙うは顔面。
しかし、茶々丸は慌てることなく片腕でそのタオルを防ぐ。
タオルは茶々丸の顔に届くことなく遠心力のまま腕に絡みつくだけで終わってしまった。
あとはハルナを投げ飛ばせばそれで終わり。
そう考えた茶々丸にとって予想外の出来事が起きた。
絡みついた手ぬぐいが腕に食い込んで外れないのだ。
布が持つ特性として水分を含むと乾燥時は持たない吸着性が生まれる。
それを敵に向けて振るえばこのように一時的に相手の動きを封じることができる暗器となりえるのだ。
茶々丸も水分を含んだ布が吸着性を持つことまでは知っていた。
だがこのような目的で使えるという発想まで至らなかったのだ。
いや至ることが出来ないといったほうがいいだろう。
いくら心を持つといってもAIである彼女ではヒトが持つ発想力、"閃き"というのが困難なのだ。
一瞬の間、それだけでハルナは十分だった。
タオルを思い切り引っ張り茶々丸の体制を崩す。
その隙にハルナは茶々丸の横をすり抜けエヴァへと走った。
しかし、エヴァはそれに動じることなく、人差し指をハルナに向けていた。
目を見開くハルナに無慈悲にもそれは放たれる。
無詠唱・
ハルナへ飛ぶ黒き光。
無詠唱にもかかわらず、ネギが普段使う光の矢とは比べものにならない威力をこめたそれは一直線に飛んで行き、ハルナに当たって爆散した。
エヴァは黙って爆煙の中を見つめる。
煙が晴れるとそこには片膝をつくハルナの姿があった。
咄嗟にネギのときのように両手に霊力を集中させて防いだのだが力負けをしたのは明白だった。
「痛っ〜〜エヴァちゃん手加減って言葉知ってる?」
「貴様は寝惚けているのか?敵に対して手加減が必要なわけないだろう。」
「まぁそうなんだけどね。」
軽口をたたきながらハルナは立ち上がる。
しかし口とは裏腹にハルナは現実を突きつけられた気分だった。
こうも簡単に魔法を放ってくるとは思わなかったのだ。
仮にもクラスメイト・・・きっと手加減はしてくれる。
心のどこかにあった淡い幻想。
それを打ち砕くには十分だった。
そこからは一方的であった。
まき絵を躱せば亜子が待ちかまえ、裕奈を掻い潜ればアキラが待ち構える。
先程までの繊細な動きは目に見えて欠如し、眼には明らかな迷いが見て取れた。
浄眼の輝きも濁りが見える。
回数を重ねるごとにそれは増していき茶々丸にすらたどり着けなくなっていた。
時間が建つにつれエヴァの視線が冷たくなっていく。
そしてついに膝をついてうなだれてしまった。
「なんだ、もう終わりか?・・・・その程度の力量でこの私刃向かうなど舐めているのは貴様の方ではないか。」
「はぁーっ、はぁーっ、はぁーっ、はぁーっ!!」
虫けらを見るかのように冷たく、威圧感を漂わせてハルナを射抜く。
射抜かれたハルナは今まで以上の威圧感に耐えながら黙って息を整えている。
いや、声も出せないほど疲労しているのだ。
もともと体力の少ないハルナだが、初めての実戦で自分でも気付かないうちに肉体的精神的に多大な負荷がかかってしまっていた。
さらにエヴァに打ち砕かれた心が拍車を掛けているのは言うまでもない。
それが膝をついたと同時にコップから水が溢れだすように全て溢れだしたのだ。
「所詮この程度か。あの横島忠夫の弟子と言うから多少は期待をしていたが・・・・興醒めもいいところだ。」
一向に動きを見せないハルナに飽きたのか踵を返す。
「さて、坊やが来る前にもう一人ぐらい手駒を増やすか。貴様を手駒にしてもいいが・・・・そうだな先日吸い損ねた宮崎のどかにしようか。そういえば貴様はあの娘と友達だったな。そこで友達が操り人形にされるのを見ているがいい。」
ハルナの身体が震える。
去り行くエヴァの足音を耳にしながら拳を力の限り握り締める。
(何が『躊躇なんかしない』・・・・よ。結局友達を傷つけるのが怖くて、でも見捨てるのが怖くて・・・・格好つけてただけじゃない。その結果がこれよ。このままじゃのどかが・・・・立ちなさい早乙女ハルナッ!!ここで立たなかったらあんたの友達が危険な目にあうのよっ!)
「・・・・手を出させない。」
「何?」
不機嫌に聞き返すエヴァを睨み付けて、ハルナは残りわずかな霊力を体に廻して無理矢理立ち上がる。
その眼には先程の迷いはなかった。
「のどかには、私の親友には絶対手を出させない!!」
「ふん、立っている事がやっとのくせに何を言うかと思えば・・・・黙ってそこで寝ていろ。」
ハルナを見ることなく話すエヴァは再度四人に指示を出す。
襲い掛かる四人をハルナはすでに限界を超えている霊力を廻し力を振り絞ると、間一髪ですべて躱してエヴァへ突進した。
しかし、その斜線上に茶々丸が立ちふさがる。
「失礼します。」
今までの挙動、疲労度、行動パターンから計算される完璧なカウンターとなる拳を繰り出す。
しかしハルナはその拳を片手を添えるだけで受け流す。
「邪魔を・・・・しないでっ!!」
受け流され態勢を崩した茶々丸に片手を添え、力の流れを失わせずに後ろに投げ飛ばす。
偶然か、それは横島がハルナと出会った時に見せた合気道と同じ型だった。
とにかくこれで邪魔者はいなくなった。
ハルナは投げた茶々丸に目もくれず再びエヴァに向けて飛び出す。
しかしまるでハルナの行動を予想していたかのように漆黒の光が降り注ぐ。
無詠唱・
先程とは違いハルナを覆うように降り注いだ
「所詮は口だけ。これが現実と言うものだ。」
エヴァは立ち上がる煙を鼻で笑い飛ばして見る。
その時、一枚の板のようなものが煙の中から飛び出す。
その板・・・・サイキックソーサーを訝しげに見ていたが、それが円を描くようにゆっくりと向かってきている事に気付いたエヴァは小さく驚きの声を上げた。
「ほう、今までのダメージに加え、私の
魔法の射手を飛んでくる板に標準を合わせて放ち、打ち落とす。
下を見れば力尽きたように倒れこんでいるハルナが煙の中から姿を現した。
「文字通り最後の一撃というわけか・・・・さて、坊やを迎える準備でも「下です、マスターっ!!」っ!?」
最後の攻撃を防ぎ切ったエヴァは気絶したハルナを一瞥すると身を翻す。
その瞬間、茶々丸の叫びが響き渡った。
振り向いた視線の先には先程とは比べものにならないスピードのソーサー。
地面を滑るように奔るそれはエヴァに当たる直前に地面にぶつかり強烈な光を発して爆発した。
「チィッ、こざかしい真似をっ!!」
辺りを見回してハルナを探すが、立ちこめる煙でその姿を確認することが出来ない。
その時、横から何かが迫り来る感覚がした。
その感覚に従って振り向けばこぶしを握り締めて振りかぶっているハルナ。
そのまま、ハルナの拳がエヴァの頬に吸い込まれた。
刹那、弾けるような音が数度響き渡る。
一瞬の静寂。
「フッ・・・・フッフッフッ。ハーッハッハッハッ!!」
「そ、そんな・・・・っ!?」
静寂を打ち砕くエヴァの笑い声が響き渡る中、ハルナは悔しさに顔を歪めている。
苦虫を噛み潰したような表情をしていたハルナだったが急に暴風に襲われ、そのまま壁まで吹き飛ばされた。
「残念だがこの私の魔法障壁まで貫くことは出来なかったようだな。」
声も出せないほどの衝撃に襲われたハルナはなんとか立ち上がって前を見る。
そこには我が力を誇示するかのように身体から魔力を発しているエヴァの姿。
その威力はすばらしく、まさに台風と呼べるものであった。
「最後のは正直驚いたよ。まさかあんな隠し玉を持っているとはな・・・・だがそれも「そこまでですっ!!エヴァンジェリンさんっ!!」」
エヴァが声のする入り口へ目を向けるとネギが一人杖を構えて立っていた。
「ようやく来たかぼうや。あんまりにも遅いから遊んでいたところだ。」
そう言ってボロボロのハルナを見る。
ようやくハルナの存在に気が付いたネギ目を見開いた。
「ハルナさんっ!!な、なんてひどいことをっ・・・・でもここまでです。僕が来たからにはもうハルナさんには手を出させませんっ!!」
「残念だがぼうや、それは叶えられそうにない。貴様はそこで大人しくしていてもらおう。」
そう言うとネギの前にまき絵たち4人が立ちははだかる。
杖を握り締め今にも飛び出そうとしていたネギは驚きのあまり眼を見開く。
「まき絵さん、亜子さん、アキラさんにゆーなさん・・・どうしてっ!?」
「き、気をつけてネギ君。そ、その4人はエヴァちゃんに血を吸われて眷属になっちゃってる。な、生半可な力じゃないわ・・・よ。」
「そんな・・・卑怯ですっ!?」
「卑怯?私は悪の魔法使いだ。これぐらいは当然だろ?」
ネギに向けていた視線を戻す。
そこには自分の体を支えるのがやっとなハルナ。
エヴァのまわりに幾つもの黒い弾が浮かび上がる。
「さて、待たせたようだな。だが安心しろ、殺しはしない。女子供を殺すような真似は私の主義に反する。ただしばらく目が覚めないだろうがな。」
無詠唱・
一斉に迫り来る魔法の射手を前にハルナは何も出来なかった。
動けるような体力もなく、防げるような霊力もない。
ただ、心だけは敗けまいと震える膝に喝を入れ、今に落ちそうな瞼を必死に堪えて迫り来る20本もの黒き矢を凝視する。
しかし、あと一息もせずにハルナに到達しようとしたエヴァ魔法が頭上から降り注いだ黒い何かにすべて打ち落とされてしまった。
「今のは魔法っ!?誰だっ!!」
自分の魔法が何者かの魔法で打ち落とされたことにエヴァは叫んだ。
爆風が吹き荒れる中、悠然と佇む一つの人影。
「・・・・助かっ・・・・た?」
風になびく薄紫の長髪を最後にハルナの意識は闇へと落ちていった。
〜〜あとがき〜〜
HPも再開しました。
一時音信不通になっていたことを深く謝罪します。
そして待っていた人がいるのかわからないこのssもようやく再開・・・読んでる人いるのかな?
それにしてもようやく・・・ようやく自作PCが完成しました。
こつこつと貯めた甲斐もあり納得できるPCとなりました。
プロフィールにスペックを掲載しているのでよかったら見てみてください。
さて今回は予告どおりハルナのお話となりました。
ハルナはどこか軽い性格をしてるのでこういう危機的状況になって初めて成長するんではないでしょうか。