は、はじめましてネギ・スプリングフィールドです
先日、エヴァンジェリンさんの従者である茶々丸さんに戦いを挑みました
そこで後一歩というときにハルナさんが割り込んできたんです
そのときに、横島さんたちがこちら側の人たちだと知りました
横島さんが言うには覚悟が出来ていないから止めた、らしいんですが・・・・
そのときの僕にはまだ理解できていませんでした
ピエロが踊るは麻帆良の地 第12話「ピエロ、狙われる?」
横島の家を飛び出したネギは当てもなくただぼんやりと杖に跨り飛んでいた。
(―――僕のせいでアスナさんたちに迷惑はかけられない・・・・どっか遠い遠い所へ逃げなきゃ―――)
ネギは日頃から思っていることがあった。
麻帆良にきたのは自分の修行のためなのにいつもアスナやクラスのみんなに助けられているだけで、みんなの役にはたってないのではないかと。
最近では減ってきたがそれも横島がさり気なくフォローをしてくれてるのはネギ自身理解していた。
しかし今回はその横島も手助けはしないという。
横島ははっきりと手伝わないとは言っていないのだが、そう取れてもふし下ではない口ぶりだった。
「きっと横島さんも愛想ついちゃったんだろうな・・・・これからどうしよう。いつまでも逃げられる訳じゃないし。・・・・はぁ僕どうしたらいいんだろう。」
ため息をついてうなだれると、そこに広がる広大な山々が眼に飛び込んできた。
それを眼にしたネギの頭に故郷のウェールズが思い浮かぶ。
そして次に浮かんだのは姉ネカネと幼馴染みアーニャの姿。
「はあ・・・・ウェールズに帰っちゃおうか。そうすればエヴァンジェリンさんも諦めるだろうし・・・・」
夢も何もかもを諦めようかと考え始めたその時、低く飛びすぎていたために杖が木の先端に引っ掛かり、空中に弾き飛ばされてしまった。
「し、しまった!!落ちるーっ!?」
ネギは為す術もなく重力に引かれていく川に落ちた。
地面ではなかったのが幸いしてたいした外傷もなない。
ネギは辺りを茫然と見回すが手元にあるものがないことに気付いた。
「ハッ・・・・杖!?しまった僕の杖どこ!?」
ネギはあわてて杖を探す。
しかしこの広大な森の中をやみくもに探したところで見つかる訳もなくただ時間だけが過ぎていく。
遠くで獣の遠吠えが聞こえる。
発動媒体を杖以外所持していないネギは魔法を使うことが出来ない。
つまり今襲われると贖う術がなにもない。
その事実に怯えたネギは逃げ出すように走りだした。
「あわわわ、助けてお姉ちゃー、あうっ!?・・・・・・・・うっ、うえぇっ、アスナさん・・・・」
しかしすぐにつまずき転んでしまう。
それが引き金となったのか、それとも恐怖が最高点に達したのか泣きべそをかきはじめてしまった。
その時、目の前の茂みで物音がした。
そして目の前に姿を現したのはネギにとって予想外の人物だった。
「おや、誰かと思えば、ネギ坊主ではござらんか」
「な、長瀬さん!?」
「へー土日は寮を離れてここで修業をしてるんですか。」
「そーでござるよ。ちなみに何の修業かはヒミツでござる、ニンニン。」
ネギはタオルに包まりながら川に突き出した岩に座って、楓と話をしていた。
あのあと遭難寸前だったネギは楓に助けられて、キャンプ地で汚れた衣服を乾かしているのだ。
「ところでネギ坊主はこんな山奥で何を?」
楓は何気なく、ネギがこんな山奥に訪れたのかを聞いた。
しかしネギは黙り込んでしまう。
落ち込んでいる内容が内容だけにうかつに喋ることができないのだ。
「まあ話したくなければいいでござるよ。」
そんなネギから何かを察したのか楓は自分の質問を軽く流してくれた。
気を使った楓に申し訳ない気持ちがわいたネギだがすぐに意識をほかに飛ばしてしまう。
いつもなら眼を閉じるだけで感じられる杖の場所がわからないのだ。
(やっぱり僕がダメ魔法使いだから、杖にも愛想尽かされちゃったのかな・・・・)
ネギはさらに落ち込み始める。
それを静かに見ていた楓がある提案を出した。
「ネギ坊主、しばらく拙者と一緒に修業をしてみるでござるか?」
突然の提案にネギは驚くがタイミングよく盛大な腹の虫がなり顔を赤らめた。
「ふふ、ここでは自給自足が基本でござる。岩魚でも獲ってみるでござるか。」
小さく笑いながら提案するとネギは頷き返す。
そして二人は岩が突き出た小川までやってきた。
「岩魚は警戒心が強い魚で足音をたてれば逃げちゃうでごさる。」
「へ〜じゃあどうやって捕まえるんですか?」
自分の知らない知識を持っている楓を感心して見る。
楓は何も言わず、懐から三本のクナイを取り出し、それを優雅に泳ぐ岩魚めがけて飛ばす。
そして寸分違わず岩魚へと命中した。
「う、うわぁー、すごいすごい!!僕にもやらせてください!!」
感激したネギは楓からクナイを受け取り挑戦する。
しかし、山成りにしか飛ばず岩魚には一発も当たることはない。
「んーホレもっとこうしてポポーンと」
「そんなコトできませんよっ!!」
空中で一回転しながら三角飛びをしてさらに体を横回転させながらクナイを放つ楓にネギが声を上げる。
「いやーでもすごいなーさすがはジャパニーズニンジャです。」
「何の話でござるかな〜?・・・・それよりも次は山菜採りでござる。」
そんなこんなでやってきた森のなか。
ここでもやっぱり
「16人に分身すれば16倍の速さで採れるでござるよ。」
「うわあああ〜〜〜!?」
忍者の実力をしっかりと利用する。
先程のクナイといい分身の術といいどうやら楓は忍者ということを隠す気はないらしい。
一通り集めた二人はキャンプ地に戻り昼食を取る。
やはり自分で採って食べる食事は美味しいらしく、ネギは夢中に食べていた。
そこでネギはあることを思い浮べた。
彼女なら自分のパートナーになってくれないだろうか。
先程の身のこなしや忍術があればエヴァにも対抗できるのではないか・・・・と。
(・・・・待って待って!!僕のバカ!パートナーといっても結局戦いの道具として頼っているだけじゃないか・・・・僕が原因のもめ事に生徒を巻き込んでいーの?それに横島さんに言われた覚悟も出来ていない・・・・)
食事の手を止めうつむいて再び悩み始めてしまった。
それに気付いてか楓は頭を軽く叩くと立ち上がった。
「ホレネギ坊主、行くでござるよ。午後の修業は夕御飯の食材探しでござるよ。」
「えー!?また御飯探しですか!?」
「山での修業は食材集めが主でござるよ。」
そう言うと二人は再び食材探しの旅へと赴いた。
それからネギは、茸狩りと称したフリークライミングをするわ、熊と一緒にランニング称した逃亡劇を繰り広げるわと散々なめに合った。
しかしそのおかげか、目の前のことに集中できて昼間までの暗い雰囲気は消え、明るい表情をするようになった。
そして今、夕食を終えると五衛門風呂につかり一日の疲れを癒している。
(あーいい気持ち。髪の毛を洗わないならこんなおフロも大歓迎だなー)
「・・・・よかった。元気になったようでござるな。」
「えっ・・・・?」
「ネギ坊主、新学期に入ってからずっと落ち込んでたでござろ?心配してたでござるよ。ようやく笑顔を見せたでござる。」
そう微笑む楓を見てネギは思った。
やっぱり僕は周りに迷惑かけてる。
僕は先生なのに逆に気を使わせてしまって・・・・。
再び暗い雰囲気がネギを覆い始めた。
しかし、それもすぐに吹き飛んでしまう。
楓が服を脱ぎ始めたのだ。
「ほいでは、拙者もフロに入らせてもらおうかな。」
「いえっあの僕出ますから!」
「まあまあ。」
抵抗も虚しくさっさと服を脱いだ楓はフロに入る。
狭いせいで、楓に比べて体の小さいネギは必然的に股の間に体が来る。
普通ならば反対なのだが何とも羨ましい光景である。
顔を真っ赤にして縮こまるネギはしばらく黙っていたがふと呟いた。
「・・・・でもスゴイなー長瀬さんはまだ中三なのに・・・・」
「・・・・胸が。でござるか?」
「ち、ちがいます!!」
さも当然のように聞く楓に顔をさらに赤くして叫ぶ。
「・・・・まだ14歳なのにそんなに落ち着いてて頼りがいもあるし・・・・尊敬です。」
「ハハハ、それを言ったらネギ坊主でこそ10歳で先生を頑張ってるではござらんか。」
「いえ、そんな。僕なんか全然ダメ先生ですよ。今日だってちょっとした問題で故郷に逃げ帰ろうと思ったくらいで・・・・はぁ、情けないです。」
「おやおや、また落ち込むでござるか。そう思うなら、横島殿がいるではござらんか。あの人ならば色々相談に乗ってくれるでござるよ。」
「それが・・・・全面的に協力するつもりはないって見離されちゃって。・・・・こんな情けない先生なんてって見捨てられたんです。」
さらに落ち込むネギに楓はやさしく語り掛けた。
「思うにネギ先生は今まで何でも上手くやって来れたけど、ここに来て始めて壁にぶつかったでござるな。どうしていいかわからず戸惑っているのでござろう?」
「そ、そのとおりです!」
(さすが忍者だ)
自分の心境を的確に当てた楓に驚きの声を上げる。
だからと言ってそれが忍者に繋がるかと言われたら怪しいものである。
そして楓はネギを抱き寄せた。
必然と頭が谷間に挟まる。横島なら悶絶ものである。
「ははは、ネギ坊主はまだ10歳なのだからそんな壁の一つや二つ当然でござるよ。たとえ逃げたとしても情けなくなどないでござる。」
「で、でも・・・・」
「安心するでござるよ。辛くなった時にはまたここへ来ればおフロくらいには入れてあげるでござるから。今日はゆっくり休んでそれからまた考えるでござるよ。そうすれば横島殿の言ったことも少しはわかるかもしれないでござるよ。」
そう言いながら空を見上げた。
それにつられてネギも見上げる。
そこには空一面に星々が輝いていた。
その後、楽しい入浴タイムを終えた二人はテントの中で横になった。
楓は早々に眠りに就いたが、ネギは先程の楓の言葉を思い返していた。
(そうだ。僕、魔法学校をいい成績で卒業して何でも出来るっていい気になってたんだ。それなのにいざ自分にどうしようもならない問題が起きたら、アワアワ慌てて逃げることばかり考えてた。横島さんもきっとそれを言いたかったんだ。だからまずは考えて出来ることをやろう。横島さんが言った覚悟も、これからのことも・・・・横島さんに頼るのはそれからだ。)
決意を新たにしたネギはゆっくりと夢の中へと沈んでいく。
そして一分もたたないうちに寝息が聞こえ始めた。
まだ太陽も顔を見せ切っていない早朝、ネギは一人岩壁に立ち、自分の杖を探していた。
手を合わせ眼をつぶり自分の杖に呼び掛ける。
それはすぐに見つかった。
昨日はあれだけ探しても見つからなかった杖が手に取るようにわかる。
それに嬉しさを感じながら杖を自らの下へと呼び戻す。
直ぐ様手元に飛んできた杖に感謝の念を抱きながら、乾かしていたパーカーを羽織った。。
その表情に陰りは見えず生き生きとしている。
「ありがとう長瀬さん、僕・・・・なんとか頑張ってみます。」
そう言い残し、ネギは大空へと飛び出そうとしたそのとき森の一角で木が揺れる音がした。
昨日の遠吠えを思い出したネギはすぐさま杖を構えて森の中を睨む。
しかし、そこから現れたのは予想外の人物だった。
「まったくネギったらどこに行ったのよ。もう朝になったじゃない。ホントにこっちで合ってるんでしょうね?」
「オレッチはアニキの舎弟でっせ。アニキの場所ぐらい感じれるっすよ。多分この辺りにいるはずなんだけど・・・・」
「カモ君に・・・・アスナさん?」
「あ、見つけたわよネギっ!こんな山奥まで一人で来て何やってるのよっ!?」
「ご、ごめんなさい。」
森を抜けた明日菜はネギの姿を見るや否やすぐさま駆け寄り叱りつける。
それに首を縮めて謝るネギだったがなぜここに明日菜がいるのか不思議に思いそれを尋ねた。
「でも、どうしてアスナさんがここに?」
「どうしてって心配で探しに来たに決まってるでしょうが。あんたこそこんな山奥で一人でよく無事だったわね。」
「いえ、僕は昨日一日長・・・・お世話になった人がいて。その人に色々教えてもらってました。」
別に楓の名前を出してもよかったのだが、ネギはなんとなく相手のことを濁してアスナに伝える。
それを別に気にした様子もなく明日菜は近くに建てられたテントを眺めた。
「ふーん。ま、いいわ。そんなことよりさっさと帰ってエヴァちゃんへの対策でも考えるわよ。」
「え・・・・手伝ってくれるんですか?また危ない目にあうんですよ?」
「何をいまさら言ってるのよ。ここまできたら、最後まで手伝うに決まってるじゃない。(それに、横島さんにあんな真剣な顔で頼まれちゃ断れないわよ)」
そう言いながらネギを軽く小突く。
口には出さないがあの時の横島の顔が明日菜の頭の中に残っていた。
あそこで横島に頼まれたから最後まで手伝おうと思っているが明日菜自身、子供が嫌いと公言しているものの困っている人を放っておけない性格なので横島に言われなくても最後まで手伝っていただろう。
そんな明日菜をネギは小突かれた場所を撫でながら見ていた。
しかし次第に嬉しさがにじみ溢れて来る。
こんな逃げてばっかりの自分を手助けしてくれる、と。
「あ、ありがとうございますっ!!」
力強く頭を下げると明日菜を乗せて空高く舞い上がる。
そしてそのまままっすぐ寮に向かって飛んでいったのだった。
「行くでござるか。それにしても魔法使いって本当にいるんでござるな。拙者も人のことは言えんでござるが。」
その様子をテントの中で見ていた楓は眠い目を擦りながら呟いた。
ネギは自らの知らぬところで正体がばれているなど微塵にも思っていないだろう。
ネギの姿が見えなくなると楓はもう一眠りしようと寝返りを打った。
しかし、人の気配が近寄ってくるのを気付くと手短な武器を懐に忍ばせテントを出て森の中を睨み付ける。
しばらくして一人の人影が姿を現した。
「おや、おぬしは・・・・」
ネギたちが森から帰ってきたその夜。
飛び出して行ったネギが戻ってきたことを風の噂で聞いた横島は学園内を巡回していた。
今日は珍しくメドーサとタマモも一緒だった
不振者も、ぬらりひょんからの依頼も、夜な夜な人を襲う吸血鬼も出る事無く、静かな夜だった。
唯一、漆黒の空で星々がまるで自己主張するように輝くだけである。
「静かな夜だなぁ〜怪しいヤツもいないし。」
「逆に静か過ぎてつまんないんだがね。
「平和が一番なんだからいいじゃない。夜空も綺麗だし・・・・・油揚げが食べたいわ。」
「どういう繋がりでそこに行き着くのかねこの女狐は。」
「はははは・・・・さて、世界樹の方でも廻ってさっさと切り上げるか。」
誰に言うわけでもなく呟くと、ゆっくりとした足取りで世界樹へと向かっていく。
それを物陰から見ている三つの影があった。
それらは頷き合うと二手に分かれて後を追い始める。
横島たちが気付いてるとも知らずに・・・・。
メドーサたちと軽く話しながら世界中の広場までやってきた横島はその場で足を止めた。
しばらく黙っているが一向に姿を見せないことに疑問を感じながら横島はメドーサに話しかけた。
「なあ、こういう時ってどうすればいいと思う?」
「さあね。ただ単にあんたのことが気になって見ていただけかもしれないよ。」
「油揚げ〜」
「あんたは黙ってな。」
「やれやれ・・・・おーい、いい加減姿を見せたらどうだ〜?」
突然横島は後ろに振り返り、親しい人に声を掛けるように呼ぶ。
一瞬戸惑うような気配を見せたがすぐにそれを潜めた。
そして、しばらくすると階段の下に二つの人影が姿をさらした。
「よっ、桜咲さんに長瀬さん。こんな夜遅くにいったいどうしたんだ?・・・・まぁ、何となく予想は出来るんだが。」
「・・・・あなたの実力を知るため。そしてそれがお嬢様に牙を向けるかを見極めるためです。」
「お嬢様・・・・このかちゃんのことか。長瀬さんもかい?」
「ん〜拙者は横島殿の実力を知りたいだけでござる。」
私は眼中にないってか、とツッコミを入れたいメドーサだったがそこはだんまりを決め込んだ。
ニヤニヤとからかうような目で見てきたタマモに一発お見舞いするのは忘れない。
そんな二人を横目に横島は小さくため息をついた。
「はぁ〜ただの力試しだってのに三人でかかってくるってのは過大評価しすぎじゃないか?俺はそんなたいそうな男じゃないぞ。」
「・・・・さぁ〜何を言ってるのかわからんでござるな。ここには拙者と刹那の二人しかおらんでござるよ。」
「ここには、だろ?最初にオレをつけていた時は三人だった。大方、龍宮さん辺りか?・・・・あの子の気配なら大体わかるよ。」
もちろん二人もだけどね、と心の中で付け加える。
まるでやる気が無いように肩を落としてため息を吐く横島を、刹那はさらに睨み付ける。
そんな様子を少し離れたところから眺めるメドーサとタマモ。
辺りに沈黙が漂う。
引き金は一発の銃声だった。
弾かれるように刹那たちは飛び出す。
横島は心臓に狙いを定められた銃弾を躱すと軽くバックステップを踏む。
それを追撃するために刹那の愛刀"夕凪"が振るわれる。
それを難なく躱せばそこに飛び込んでくるのは楓のクナイ。
身を屈めて躱そうとした横島だったが反射的にサイキックソーサーを展開すると後ろに飛びながら全てを弾く。
そして先ほどいた場所にはいくつもの銃痕。
龍宮からの攻撃である。
休む間もなく刹那が刀を振るった。
そこから放たれるは空を切り裂く気の刄。
「神鳴流奥義 斬空閃!!」
「のわっ!?」
それを情けない声を上げなんとか捌いた横島は態勢を整えるために、大きく距離をとる。
しかし、それを見逃す三人ではなかった。
ピンポイントで急所を狙う龍宮の弾丸。
近戦攻撃では群を抜く刹那。
その刹那の穴をカバーしながら奇抜な動きで翻弄する楓。
まさに穴の無い完璧なコンビネーションである。
しかし、今回は相手が悪かった。
二重三重に繰り出される攻撃を横島はソーサーと体術で捌ききる。
「近距離の桜咲さん、中距離の長瀬さん、遠距離の龍宮さん・・・・まったくたいしたものだよ。この歳でこれだけの力があるんだからね。にしても、それが全部うちのクラスってどうよ?これじゃ俺がいる必要なんてないじゃないか。」
「そういう横島殿こそ、信じられない力量でござる。」
「それにそう思うなら即刻学園から立ち去ってください。あなたが敵か味方かわからない以上、お嬢様には近付けさせません!」
「はぁ〜そういう訳にはいかんだろ。この仕事は信用第一、学園長に雇われている以上学園を出る訳にはいかないからな。」
喋りながらも攻撃の手を休めることはない。
むしろさらに激化している。
それを一撃も受ける事無く躱す。
そう、躱すだけなのだ。
守りに撤するだけで攻めに転じる様子を一切見せない。
それに気付いた刹那は攻撃の手を休め怒気の混じった声で尋ねた。
「なぜ攻撃してこないんですか!?」
「いや〜俺は無駄な戦闘を避ける主義でさ。こうやって躱し続けてたらあきらめてくれるかなぁ〜って思ってたんだけど・・・・無理?」
「無理でござるな。いい加減手加減などせずに攻めてきたらどうでござるか?」
いつも穏やかな表情の楓が真剣な顔をする。
そこで今まで黙り込んでいたメドーサが刹那たちに声を掛けた。
「間抜けだねあんたら。」
「・・・・なんだと?」
「マヌケだと言ってるんだよ。あんたら3人の攻撃を傷を負うことなく捌き切った横島があんたらより実力があるってのが何で解らないかね。」
「グッ・・・・しかしっ!」
「まったくガキだね、痛めつけられなきゃ解らないってのかい。それなら本気で行かせてもらうよ・・・・やりな横島。」
「俺かよっ!?!?」
無茶苦茶な振りに思わずツッコミを入れる。
そんな横島にメドーサはしれっとした表情で答えた。
「あんた以外に誰がやるってんだい?」
「自分って選択肢があるだろうが。」
「イヤだねそんなめんどくさい。」
即答。
そんなメドーサを座った目で睨むが暖簾に腕押し、柳に風。
まったく気にしないメドーサに息を吐いて頭を掻き毟る。
「はぁ〜・・・・わかったよ、今まで手を抜いていたことを謝る。これからは本気で行く。」
その瞬間、横島の姿が消えた。
気を緩めていたわけではなかった二人は驚くも反射的にその場を飛び退く。
しかしそれも遅く、二人は突然の衝撃に吹き飛ばされた。
反射的に飛び退いたのが功をそうしたのかダメージはないに等しい。
二人は直ぐ様、体勢を立て直しながら横島の姿を追う。
その横島は指の間に挟んだサイキックナイフを構えていた。
横島はそれを刹那に向かって勢い良く飛ばす。
その瞬間、スコープ越しに龍宮は強烈な悪寒に襲われた。
それは楓も同じだったらしく、驚愕の表情を浮かべている。
そんな二人の心境など知らない刹那は一直線に向かってくるナイフに真っ向から立ち向かった。
「神鳴流には飛び道具は通用しません!!」
慌てた龍宮はライフルを使いナイフを狙い射つ。
金属音が響き渡る。
しかし、確かに命中したはずなのにナイフはびくともせずに飛んできた。
「『避けろ(るでござる)刹那!!』」
「なっ!?・・・・クッ!!」
銃弾を弾き返したナイフに驚いた刹那は躱そうと横に跳んだ。
しかしすべてを躱し切れず、一本のナイフが右腕を掠める。
その瞬間、ただのナイフとは思えない衝撃に身体が後ろに持って行かれた。
それと同時に背後で何かが崩れ落ちる音がする。
普通ならありえない出来事に驚愕するが、直ぐ様崩れた身体を立て直す。
そして背後の音の正体を確認しようと振り返った。
「・・・・なっ、バカな!?」
刹那の眼に飛び込んできたもの・・・・それは薙ぎ倒された木の残骸だった。
「な、なんなんだアレは?龍宮に楓、何か知ってるのか?」
「し、知っているには知っているでござるが・・・・」
『鉄甲作用・・・・鉄をも貫くことの出来る威力を持たせた投擲法さ。しかし、これが使えるとなると私たちが知っている人と同レベル・・・・私たちでは勝てないな。』
「そんな・・・・っ!?」
三人のなかでもっとも実践経験が豊富な龍宮の発言に驚きを隠せないでいると横島が構えをといてこちらに歩み寄ってきた。
「さて、まだやるの?俺としてはもうやりたくないんだけど・・・・」
「ま、まだ戦え「拙者たちの負けでござる」か、楓何を言う!?私はまだ戦える!!」
「利き腕が痺れて動かないのに何を言ってるでござるか。」
『それに今回の目的は達したと思うんだがね。』
刹那は無線から聞こえてくる龍宮の声に反論できなかった。
確かに今回の目的は横島の力量を確かめるのであって倒すのが目的ではない。
並みの退魔師では躱し続けるのは不可能な三人のコンビネーションを無傷で躱した身体能力。
たった一度だけ見せた"入り"も"抜き"も恐ろしく速い瞬動術。
どこからともなく取り出した光るナイフ。
そして銃弾をも弾く投擲術。
これだけでも十分だといえるのに、実際にはこの他にも文珠なども使えるのだから実力は申し分ないだろう。
それに先程の攻撃で右腕が痺れが抜け切っていないのは事実である。
もともと敵対する可能性なんて見極める必要もなかった。
なにせ学園長と高畑、学園のトップ二人がそろって了承しているのであるから。
そう、これはただの八つ当たり。
木乃香の護衛を自分に相談することなく増やされたことと、いきなり現れた人物が木乃香と対等に話していることへの嫉妬。
ただそれだけのために二人に迷惑をかけたのだからこれ以上は迷惑をかけられない。
そう考えた刹那は渋々刀を下げた。
「わかりました、私たちの負けです・・・・あなたの実力は認めます。」
「ってことは終わりでいいんだな?・・・・はぁ〜〜疲れた。ごめんな、怪我させちまって。」
「いえ、この程度の傷などいつものことです。ですからお気になさらないでください。」
「ん〜そう言うわけにもいかないだろ。一応俺の生徒でもあるんだからさ。タマモ、ちょっと頼めるか?」
「はいはい。」
タマモは刹那に近づき傷ついた右腕を舐め始めた。
一瞬擽ったそうにした刹那だったが見る見るうちに癒えていく腕を信じられないという風に見つめている。
「はい、おしまい。」
「サンキュ、タマモ。桜咲さん腕はどうだい?」
「は、はい。もうどこにも異常はないです。」
「当たり前よ。この私のヒーリングよ?」
「ただ舐めただけじゃないかい。最も今のあんたにはそれしか取り得がないけどね。」
「あんた、喧嘩売ってるの?」
「おやおや、図星を指されて怒ったのかい?」
ニヤニヤとタマモを見下すメドーサと怒りに今にも狐火を出しそうなタマモ。
それについていけない刹那たちはポカンと状況を見ていた。
「そこまでにしておけよ二人とも。それと、龍宮さんもいい加減出てきたらどうだい?」
横島は軽く二人を仲裁するとここにいない龍宮へと声を掛けた。
すると横島の背後から静かに龍宮が姿を表した。
「・・・・率直に聞く。あなたはピエロさんの関係者かい?」
その瞬間、その場に沈黙が流れた。
メドーサたちは言い争いをやめて成り行きを見、楓も答えが気になるのか静かに、しかし虚実は見逃すまいと真剣に見てくる。
唯一刹那だけは何のことかわからず首をかしげている。
「・・・・どうしてそう思うんだい?」
「自分でも言うのは何だけどこの麻帆良でも1位2位を争う私たちのコンビネーションを前に傷一つ負わない戦闘センス、そして鉄甲作用を使いこなすその実力。裏の世界を全て知っているわけじゃないけど、それほどの実力者は私は片手で数えるほどしか知らない。その中で最も確立が高いのがピエロさん本人あるいは関係者かって行き着いたわけさ。違うかい?」
『・・・・参ったねこりゃ。』
『ピエロと同じ技術を見せすぎたね。』
『どうするの?』
『真名ちゃんは俺がピエロってことまで行き着いているみたいだけどあえて選択肢を出してくれたんだからそれに便乗することにするさ。』
「・・・・確かに俺は世間で死神のピエロって呼ばれているやつとは知り合いだ。でもあいつが今どこにいて、何をやっているかは知らない。ただこれはあまり言いふらしていいことじゃないから黙っていてくれたら嬉しいんだが。」
「ふっ、別に言いふらしたりはしないさ。それぐらいのことは理解しているつもりだよ。」
「そう言ってくれるとありがたい。長瀬さんもいいかい?」
「ニンニン。」
軽く頷く楓を見て横島は小さくありがとう、と礼をした。
もっとも横島自身、これで完璧にごまかせたとは思っていない。
実際これだけ状況証拠が揃っていると、本人に行き着いてもおかしくはないのだろうが龍宮はそこまで追求することはなかった。
それは優しさからなのか、それとも何か他の思案があるのかまでは横島には理解できなかったが。
そこで今まで蚊帳の外に置かれていた刹那は慌てた様子で尋ねて来た。
「ち、ちょっと待て!二人とも死神のピエロに逢った事があるのかっ!?」
「ああ、この間の仕事で組んだんだ。最も一回しか逢った事はないがな。」
「ニンニン、あの方はすさまじい力量の持ち主でござったよ。」
「そ、そんなに凄いのか?噂ではものすごく美しい女性だと聞いたのだが・・・・」
「何言ってるんだ刹那?ピエロさんは男だぞ?」
真名が口にした現実に刹那は一瞬時間が止まった。
すぐに動き出すと楓に視線を向ける。
顔が若干青いのは気のせいだろうか。
しかし楓もニンニンといいながら首を縦に振っていた。
最後にピエロと知り合いだという横島に視線を送る。
視線を向けられた横島は頬を掻きながら視線を逸らしている。
「あ、あ〜あれは変装だ。正体を隠すなら徹底すべきだ、って本人が言っててな。」
このぐらいなら話してもかまわないだろう。
そんな軽い気持ちで口にした言葉は刹那に予想以上の何かを与えてしまったらしく、突然膝を着きうなだれてしまった。
その身体が小刻みに震えているのは気のせいじゃないだろう。
いったいどうしたのかと不思議に見ている横島たちだったが刹那の口から何かが零れているのに気付いた。
「・・・・っかく、お嬢・・・・忘れる・・・・お姉様・・・・見つけた・・・・恋・・・・」
断片的に聞くだけでも問題発言のオンパレードなのは気のせいだろうか。
現に横島たちは若干引き気味になっている。
「おいおい、今なんて言ったんだい?」
「な、なんか聞いちゃいけない単語を聞いた気がしたんだけど。恋だとかお姉様とか・・・・」
「ま、まさかでござるよな。」
「そうだ、いくらお嬢様一筋だからって女に走ることなんて・・・・」
現実逃避とも呼べる一同を横目に刹那の独り言はさらに大きくなっていく。
「せっかく、お嬢様への想いを忘れさせてくれるお姉様を見つけたと思ったのに・・・・私の新たな恋が始まると思ったのに・・・・」
「「「「「・・・・・・・・」」」」」
開いた口が塞がらないとはまさにこのこと。
すでに刹那との距離は5m近く離れている。
「・・・・桜咲さんって百合の人だったの?」
「し、しかしあの刹那殿でござるよ?」
「い、いや確かに、風呂に入ってるときに熱い視線を感じたことや、着替えを血走った眼で見てきたりとそんな淵をちらほら垣間見たことはあったが・・・・」
「いや、それで十分だろ。気付きなよそれぐらい。」
メドーサのツッコミの横で楓はさも当然のように首を縦に振っていた。
一方刹那の独り言もさらにエスカレートしていく。
「やはりこれはお嬢様のみを愛せよとの神のお告げなのですね。そうです、そうに違いありません!あぁ、お嬢様、お嬢様アァァァァ!!!!」
もう何も言うまい。
あのふざけた神からの電波を受信してしまった刹那は木乃香の名前を呼び続けている。
それを横島たちは10m以上離れて見ているのだが、表情は完全に引きつっていた。
しばらくそのままの状態が続いていたが、突然刹那の独り言がピタリと止んだ。
ようやく止んだことに安堵の表情を浮かべる。
しかし、これが嵐の前の静けさだということに誰も気付くことはなかった。
「・・・・を。」
「な、何か言ってるぞ。」
「・・・・に鉄槌を。」
「て、鉄槌って誰にでござる?」
「お嬢様に手を出すものに正義の鉄槌を・・・・」
膝をついていた刹那はゆらりと立ち上がり、横島をじっと見てくる。
眼が完全に座っており、その手には夕凪が抜き身で握られている。
「ア、アノセツナサン、刀ヲナゼオレニムケルンデスカ?」
「・・・・あなたの毒牙からお嬢様を守るため、そして私からお姉様を奪い絶望に落としこめたから。何より許せないのが、お嬢様に好意を寄せられていること。・・・・だから私はあなたを許さない。」
「ちょ、ちょっと落ち着いて!俺はこのかちゃんに何もする気はないし、、ピエロの性別を勘違いしていたのは刹那ちゃんのせいであって俺は関係ないんじゃ・・・・」
冷や汗ダラダラに弁明をする横島。
しかし、その言葉が引金に刹那の殺気が膨れ上がる。
「今何と言いました・・・・何もする気はない!?あのような美しい方に何もしないなど、あなたは何を考えているのですか!?不能なのですか、それとも男色趣味なのですか!!」
「チョットマテーーーーーッ!!俺は正常だし、人を勝手にアブナイ奴にす「問答無用!!あなたのような愚か者はこの私が切り伏せてくれる!!」って俺の話を聞けーーーーーっ!!」
刹那は問答無用に切り掛かって来る。
もう何と言うかむちゃくちゃである。
先程とは比べものにならない殺気を向けられていることに理不尽さを感じながら横島は必死になって避け続けた。
ちなみにメドーサたちは被害を受けないように、離れたところで成り行きを見守っている。
気分は完璧に観客である。
「すごい攻撃だね。」
「そうでござるな。これが噂に聞く"しっとぱわー"というやつでござるか・・・・」
「のわっ!・・・・ってそこの三人!!見てないで、どひゃ!た、助けてくれーー!」
「無理ね。」
「そうだね、今助けたら私たちまで標的にされてしまうからね。」
「安心しな。骨はちゃんと拾うでやるよ。」
「ドチクショーーーーーッ!!!!」
「避けないでくださいっ!!すぐに夕凪の錆にしてさしあげますから!!」
泣き叫びながら逃げる横島を刀を振るいひたすら追い続ける刹那。
2人の激闘は数時間続いたそうな。
〜〜あとがき、というよりもお詫び〜〜
せっちゃんファンの皆様・・・・ごめんなさいorz
この作品ではせっちゃんは百合の方です
かなりのパッシングを受けるかもしれませんが、お手柔らかに
〜〜ほんとのあとがき〜〜
ようやくPCに触れる時間をとることに成功した龍牙の想いです
この約1ヶ月半・・・・家には寝るためだけに帰ってくる的なまるでどっかのサラリーマンみたいな生活を送っていましたw
本当は先月中に更新したかったんですけどねorz
今後は若干更新速度を上げれたら嬉しいな〜と思っています
さて、今回はネギの家出を書きましたが原作と対した変わらない流れになってしまいました
次はもうちょっと工夫を凝らしたいと思います
それではまた次回・・・・