霊能の修行に日々励む早乙女ハルナよ


新学期に入って副担任と転校生が来るって聞いてたけどまさかそれが師匠たちだったなんて


霊能の修行で毎日逢ってるのに私何も聞いてなかったのよっ!?


酷いと思わない?


さらにその夜にはのどかが桜通りの吸血鬼に襲われるし


しかもっ!!師匠ってば見てるだけで何もしないし!!


最後には鉄塔の上、一人残されるし


あの高さから一人で降りるのってすっごい怖いんだから!!


この恨み晴らさずにいられるか・・・・










ピエロが踊るは麻帆良の地 第10話「ピエロ、ケーキを食べる」










「大丈夫ですかマスター。」

「あぁ、問題ない。そう何度も聞かなくていい。そんなことより神楽坂明日菜め・・・・!!この私の顔を足蹴にしてくれたな、次に逢ったとき覚えておれ!!」

「申し訳ありません、マスター。」



ネギたちとの戦闘を終えたエヴァと茶々丸は自宅であるログハウスの道を歩いていた。

その間、エヴァはアスナに蹴られた頬が気になるのか絶えず触っている。

それに茶々丸が気を使うとアスナへの悪態を吐くということを繰り返していた。

そんな時、茶々丸のセンサーに人影が二つ感知された。



「マスター、家の前で誰かがお待ちのようです。」

「何?誰だこんな夜遅くに・・・・」

「・・・・ライブラリー照合、本日赴任してきた横島先生と蛇神さんです。」

「おぉ〜ようやく帰ってきた。おかえり、エヴァちゃんに茶々丸さん。」



警戒するエヴァをよそに横島は玄関のステップに腰を下ろし、陽気にあいさつをした。

その横には手摺りに背を預けたメドーサが立っている。



「こんな時間に何の用だ。」

「何の用って・・・・"突撃!!お宅訪問"?」

「何の冗談だ!?さっさと用件を言え!!」

「そうカリカリするなって。エヴァちゃんみたいな可愛い子は笑ってたほうが似合うんだからさ。」

「なっ!?・・・・そ、そんなことよりその呼び方をやめろ!!」



やさしく微笑む横島に顔を赤くするエヴァ。

それをごまかすように叫ぶがまったくもって隠し切れていない。

その様子を茶々丸は不思議そうに眺め、メドーサは小さくため息をついている。



「なんでだよ?可愛いと思うがな。なぁ、メドもそう思うだろ?」

「私に振るんじゃないよ、まったく。」

「ええい!!さっさと用件を言え!!ないのならばさっさと失せろ!!」

「わかったよ。それじゃあ俺たちは帰るとするよ。それじゃあね、エヴァちゃん、茶々丸さん。」



横島は腰をあげるとエヴァたちの前に来ると二人の頭を軽く撫でた。



「あっ・・・・こ、子供扱いするな!!」



一瞬嬉しそうだったエヴァだが手を払い除けると叫んだ。

茶々丸はさらに不思議そうな顔をしている。

それを見た横島は小さく笑うとその横を通り過ぎた。



「あ、そうだ忘れてた。」



少し歩いた横島は振り返るとエヴァへと歩み寄った。

ずっと睨み付けていたエヴァはさらに眉間にしわを寄せる。



「なんだ、用があるならさっさと済ませろ。」

「あぁ、そうするよ。ほいこれ。」



そう言うと小さな袋を手渡した。

エヴァはそれを訝しげに見ている。



「なんだこれは?」

「何ってただの湿布薬。顔が腫れてるからね。放っておいても治る程度だけどせっかく綺麗な肌なんだからさ、大切にしないと。」

「ちょっと待て、なぜおまえがそのことを知っている。」

「あ、考えれば普通の家に常備してあるか。余計なお世話だったかな?」



エヴァは敵意のこもった視線で横島を睨み付ける。

あの現場にいなかった横島がなぜ知っているのか。

それを問い立たそうとしても横島は無視して茶々丸に視線を向けた。



「おいわた「いえ、ちょうど湿布薬は切れていましたので問題ありません。」

「茶々丸おま「そうか、それはよかった。じゃあ遠慮なく使ってくれ。」

「だから私を「わかりました。お心遣い、感謝します横島先生。」

「・・・・「朝も言ったけど先生は柄じゃないんだ。だから普通に呼んでくれるか。」

「わかりました横島さ「いい加減にしろーーーー!!!」」



散々無視されたのが我慢できないのか、叫びというよりもおたけびをあげたエヴァはじたんだを踏んだ。

まさに子供である。

さすがにからかい過ぎたと思った横島はエヴァをなだめるように頭を撫でた。



「あ〜悪かった、だから落ち着けってエヴァちゃん。」

「うぅ〜だから何度言えばわかるんだ!子供扱いするな!!」

「マスター、それは無理があります。」

「茶々丸おまえもか!?私のどこが子供だ!!」

「どこがと言われましても、容姿からとしかお答えできません。」

「なっ!?ええい、まいてやるまいてやるこのボケロボッ!!」

「あああいけませんそんなにまいては・・・・」



茶々丸の飛び掛かるとぜんまいを巻き始めるエヴァ。

それを見た横島は小さく笑うと踵を返してメドの元へと向かった。



「それじゃあ二人とも、また明日学校でな。お休み。」

「おやすみなさいませ、横島さん、蛇神さん。」

「ちょっと待て!!私の質問に答えろ横島忠夫!!」



叫ぶエヴァに見向きもせず二人は闇の中へと消えていった。

それを忌々しく見ていたエヴァはしばらくの間その先を睨み付けている。



「マスター。」

「あぁ。・・・・茶々丸、おまえは気付いていたか?」

「・・・・いえ、センサーの常時展開範囲100m内にはマスター、ネギ先生、神楽坂さんの三名以外の生体反応は感知されませんでした。」

「つまりそれ以上離れたところから監視されていたのか。・・・・横島忠夫。じじいめ、余計なことを。」



吐き捨てるように呟くと二人は家の中へと入っていった。










太陽の光が暖かく感じるこの季節。

生徒の中にはオーバーやマフラーを脱いで元気に走って登校する姿が見られる。

・・・・そう、走ってなのだ。

麻帆良学園名物通学ラッシュ。

そこらの学校の通学ラッシュと一緒にしてはいけない。

なんせ、遅刻しない時間でも走るのだから。

それに並走するように移動型購買と昇りをあげたバイクが走っている。

そのやりとりは手渡しではなく投げ渡し。

一歩間違えればせっかく買った商品が後続に踏み潰されるのだがそれは気にしてはいけない。



「おばちゃん、焼そばパン一つ!!」



ここにも一人、移動型購買を利用している男がいる。

なるべく綺麗にまとめた小銭をバイクの後ろに座るおばちゃんに投げ渡すと、プロの手捌きでキャッチする。



「あいよ、焼そばパン一つね。毎度あり!あんた新顔だね?今度からおつりがないようにしておくれよ。」



渡された小銭を確認する事無くパンとおつりを投げ渡す。

それを危なげにキャッチした男---横島は苦笑いを浮かべ了解、と言うとそれを頬張りながら校舎へと向かった。



「ったく、あれだけ朝飯食べたのにまだ食べるのかい?呆れたもんだね。」

「そう言うなって、昨日生徒達が話してるのを聞いてな。どんなものかと思って買ってみたんだが、意外といけるぞ。二人とも食ってみるか?」

「ごちそうさま。」

「私はいらないよ。ったく・・・・・・ん、あれは?」



タマモは頭の上で焼きそばパンを食べさせてもらう

その様子に呆れて前を向いたメドーサはある団体が目に入った。

その中心にはまるで米俵のように担がれた少年。


「ありゃ〜ネギか?何やってんだ?」

「大方昨日の戦闘でビビッたんだろう。まったくガキだね。」

「まあそう言うなって。おそらく昨日が初の実戦だったんだろ。にしても、あれは完全に見せ物だな。」



そう言う横島も関わるつもりはないらしく遠巻きに見ているだけだった。

それを気にすることなくタマモは焼き傍パンをおいしそうに食べている。










「みんなおはよーーっ!!」

「あ〜〜〜ん!!ま、まだ心の準備が・・・・」



ネギを引きずるように教室にやってきたアスナはまき絵がいることに気付き心配そうに聞いた。



「まきちゃんもう平気?」

「すっかり。でもなんも覚えてないんだよねぇ〜。」



一昨日のことをまるで他人事のように陽気に話すまき絵を横目にネギはエヴァの席を見た。



「あ・・・・いない・・・・エヴァンジェリンさん。」

「マスターは学校に来ています。すなわちサボタージュです。」

「わ、わあっ!?」



ホッとしたのも束の間、突然背後から声をかけられたネギは飛び上がるように驚く。

いつの間にいたのか、背後には茶々丸が立っていた。



「・・・・お呼びしますか先生?」

「い、いやとんでもない。いいです、いいですぅ!!」


これでもかというほど激しく手を振るネギ。

教師として問題がある発言だが無理もない。

そのとき、タイミングよく横島たちが教室に入ってきた。



「おはようみんな・・・・ってネギ、おまえ何やってるんだ?」

「な、なんでもないです。なんでもないんです!」

「な、ならいいんだが。茶々丸さんもおはよう・・・・エヴァちゃんはどうした?」

「おはようございます、横島さん。マスターはサボタージュです。」

「ふ〜ん、まぁしゃあないか。」



横島もそれを咎めるそぶりも見せず、軽く流す。

そこに木乃香たちが声をかけてきた。



「おはよ〜横島さん〜。」

「おはよう、木乃香ちゃん。まき絵ちゃんはもう大丈夫なのか?」

「もう全然平気だよ!」

「あれ、まきちゃん横島さんのこと知ってたの?」

「うん、昨日保健室で目が覚めたら横島さんが横にいてさ、自己紹介してもらった。そのときに色々質問されたけどなんにも答えれなかったさ、えへへ〜。」

「別に気にすることないよ。元気になったらそれでいいさ。・・・・それじゃあ今日も一日、元気にいこーーー!!」

「「「「「おーーーっ!!」」」」」



朝からなんとも元気なクラスである。

その後しばらく雑談をしていると始業のチャイムが鳴った。

全員が座るとホームルームを行い、そのまま一時間目の英語の授業が始められる。

横島は教室の後ろに立って授業風景を眺める。

ネギはといえば、昨日の件が響いているのか亜子が読み終わったのにも気付かず物思いに耽っている。

完璧に上の空だ。



「センセー読みおわりましたー。」

「あ、ありがとうございます。・・・・えーと、つかぬことをお伺いしますが、和泉さんはパ、パートナーを選ぶとして年下の男の子はいやですよね。」



ネギの発言でクラス中にどよめきが走る。

混乱するクラスの中、後ろに立っていた横島は苦笑いを浮かべて見ていた。

そして小さくため息を吐くと騒ぎを治め始めた。



「ほらみんな落ち着け。ネギも誤解を受ける質問をするなよ。みんながパニックになってるぞ。」

「えっあっ!ス、スミマセン!!・・・・・・あ、チャイム鳴っちゃいましたね。ハハハ、すみません授業と関係ない質問しちゃって・・・・忘れてくださいなんでもないですので。じゃ、今日はこの辺で。」



チャイムが鳴るとネギはふらふらと教室を出ていった。

それを見送ると教室中が騒がしくなる。

と、そこでネギを追いかけるために教室から出ようとするアスナにあやかが声を掛けた。



「アスナさん。何かご存じじゃなくて?」

「いや、えーと・・・・あの何かパートナーを見つけられなくて困ってるみたいよ。見つけられないとなんかやばいことになるみたいで。」



アスナも間違ってはいないのだが誤解を受ける言葉を残しネギを追い掛けた。

その後、次の授業が始まるまでに教室で"ネギ先生王子様説"が再び立ち上がるには十分な時間だった。










「横島です。学園長、よろしいでしょうか?」

「おぉ待っとたぞい。入ってよろしい。」



失礼します、一言断りを入れ扉を開ける。

放課後、横島は学園長に呼ばれ学園長室に来ていた。

内容はエヴァのことである。


「すまんのぉ急に呼び出したりして。実は今生徒の間で噂になっておる"桜通りの吸血鬼"の事についてなんじゃがのぉ〜」

「エヴァちゃんのことですね。昨日ネギと一戦やらかしたのを見てましたので。」

「ならば話は早い。・・・・実はこの件は出来るだけ手だし無用に願いたい。」

「それなら全然問題ないですよ。もともと余程のことが無いかぎり二人の間に割って入るつもりはありませんでしたから。助けられてばかりでは成長しませんからね。・・・・それにあの娘自身、悪い娘じゃないですし。」



さも当然のように話す横島に学園長は少し眉を上げる。



「・・・・ほう、何でそう思うのじゃ?」

「もし、エヴァちゃんほどの実力があれば昨日の時点でネギは血を吸われてます・・・・まぁその前に助けますが。これは漫画やゲームじゃないんすから様子見なんて自分の命を危険に晒したりはしないでしょう。」

「ふむ・・・・つまりは彼女は本気で血を欲していないと?」

「そうは言ってはいませんよ。たとえどんな経緯でなったかは知りませんけど、秘術により真租の吸血鬼になったからといってもとはただの人間。自分の身が第一でしょうから。・・・・確かに記録には女子供を殺したとは書いてありませんけど、もう何年も不自由な生活を送ってきたんですからね。それでも殺さないってことはビンゴブックに載るような冷酷さはないんでしょ?」



昔を思い出すかのように話していた横島だったが、最後はまるで確認するように口にする。

学園長は目を大きく見開き目の前に立つ男を見た。



「・・・・いつから知っておったんじゃ?」

「エヴァちゃんの事っすか?それなら昨日、ちょっと調べたらすぐに見つかりましたよ。十数年前にビンゴブックを騒がせた闇の福音ダークエヴァンジェル がまさか学園内に封印されて中学生をしてるなんてね。・・・・ネギを狙う辺り、やったのはサウザンドマスターですか?」

「・・・・うむ、確かにそうじゃ。15年前にナギのやつがここに封印した後、わしが中等部に入れたのじゃ。本来ならば卒業する頃に封印は解かれるはずじゃったんだがナギのやつは現われず10年前に死亡が公表された。それ以来、卒業しては入学するという繰り返しじゃ。・・・・それにしても驚いたわい。てっきり聞かれると思っておったんじゃが。」

「他人に聞いてばかりじゃ正確な情報はわからないですからね。っと言っても調べたのはメドのやつですけど。―――とりあえず、今回の件は極力手出し無用ってことでいいんですか。」

「うむ、よろしく頼む。」

「わかりました・・・・それじゃあ今度は俺から一つ質問していいですか?」

「なんじゃ?」

「アスナちゃんのことについてです。」



学園長の眼が一瞬細められるがすぐに何事もないように元に戻る。

横島はそれに気付いたが何も言わずに先を続けた。



「昨日の件の最後で従者のいないネギは茶々丸さんという従者がついたエヴァちゃんにあわや血を吸われるというところまで追い詰められました。そのときアスナちゃんが乱入してネギを助けました。そこまでなら問題はありません。ネギとアスナちゃんは同じ部屋で生活してるんだからばれてネギの従者になったんだ、で納得できます。でもその乱入方法が問題なんです。ネギが捕まった場所は八階建ての屋上、そしてあの二人は空を飛んで移動していました。なおかつ、ネギは得意の風系の魔法で移動速度を上げていました。これに契約執行もせずに着いていけたアスナちゃんが一般人とは思えないんです。・・・・学園長は何か知りませんか?」

「そうじゃったか。おそらくもともとアスナ君は素質を持っておったんじゃろ。それがネギ君と仮契約をした影響で開花されたのかもしれんの。」

「ところが、実は二人は仮契約をしてないんすよ。すでに耳に入ってるんじゃないんすか?・・・・ネギがパートナーを探していることを。」

「そうじゃったか、それは知らんかったのぉ〜。ではこうは考えられんかの?日頃、ネギ君と同居しているなかで、無意識のうちに彼の魔力当てられて才能が開花したと・・・・。」

「・・・・真租の魔法障壁をものともせず攻撃を当てることの出来る実力を開花させたばかりの彼女が持つと?」

「そうじゃ。」

「・・・・・・」

「・・・・・・」



学園長室に沈黙が走る。

互いに視線を逸らさない。

どれだけの時間が経ったのだろう。

遠くからチャイムの鐘の音が聞こえ、生徒達の笑い声が聞こえてくる。

そこで初めて横島が視線を逸らした。



「はぁ・・・・わかりました。どうやら俺の勘違いだったみたいです。長々居座って申し訳ありません。」

「フォッフォッフォ、気にすることではないわい。それではエヴァンジェリンの件、よろしく頼むぞい。」

「わかりました。それでは失礼しました。」



すんなり一礼した後、学園長室から出・・・・ようとして立ち止まった。



「まだ何かあ「もし俺がエヴァちゃんを助けたい、と言ったらどうします?」・・・・別にどうもせんよ。あやつがネギ君の血を吸う以外で呪いを解く方法を見付け、それを実行した。ただそれだけじゃ。賞金はすでに支払われておるし、あやつのことを知っているのは学園内の魔法使いだけ。緘口令も引いてある。再び悪さをせんかぎりは狙われることもないじゃろう。・・・・わしとしては本当の卒業というのを味してやりたいがの。」



学園長の話を聞くと優しい笑みを浮かべると今度こそ学園長室から退室した。

あとに残ったのは髭を擦りながら笑う学園長だけであった。










「ふ〜ん、やっぱりたいした情報を得られなかったかい。」

「あぁ、アスナちゃんのことを話題に出したときにわずかに反応するぐらいでそのあとは初めて聞くような反応だった・・・・こんなことなら最初から文珠使えばよかったかな。」



学園長室を出た横島はメドーサたちと合流し先程の会話の聞かせていた。



「今はそこまで重要なことじゃないからそこまでする必要はないんじゃない?でも呪いを解くのには賛成よ。・・・・出たくても出れない、それは私がよく知ってるもの。」



ぼやく横島の上でタマモが言う。

横島は何も言わず、ただ腕に抱き優しく撫でてやった。

嬉しそうに顔を胸にうずくめ、小さく鳴く。

メドーサは何も言わず、それを眼の端に収める。

三人は暖かく優しい雰囲気を醸し出しながら家路に着いた。










翌日の放課後。

横島はハルナに引きつられ街中を歩いていた。

その後ろには3-Aの生徒総勢26名がぞろぞろと続いている。

横島は振り返りその集団を確認するとがっくりと肩を落とした。

事の発端は一昨日の夜、ハルナを鉄塔の上に置き去りにしたことだった。

あの後、なんとか自力で降りたハルナはその足で横島の家に向かった。

そして家の前で横島たちが帰ってくるのを待ち続けたのだ。

エヴァたちと接触して何事もなく家に帰ってきた横島たちはハルナがいることに驚いた。

完璧に目が据わっていることに若干逃げ腰になるも、なんとか踏張り声をかけた。



「や、やぁハルナちゃん。どうしてここに?」

「ふっふっふっ、師匠〜あなたがそれを言うの?あんな高い塔の上に一人置き去りにしていなくなっちゃうし、一言言ってやろうと思って家の前で待ってたら全然帰ってこないし・・・・いったいどこに行ってたの?」

「は、はひっ!!エ、エヴァちゃんに湿布を渡しに行ってました!!」



静かな声がさらに恐怖を募らせ直立不動で敬礼までしだす横島。

しかし、その返答はハルナの怒りのボルテージをさらに上げた。



「へぇ〜こんな可愛い女の子を置き去りにしてちがう娘のとこに行ってたんだ・・・・このペド!!サイテー!!」

「ぐほぉっ!?」



先に言っておくがハルナは手をあげてはいない。

ようは言葉の暴力である。

ここ最近、ギリギリ守備範囲外の美少女に囲まれて生活しているせいでロリ疑惑が浮上している横島にとってロリコン呼ばわりされるのはアイデンティティー崩壊の危機に瀕する程のダメージを負わせてしまうのだ。

つまりハルナのペド扱いは来世にも影響を及ぼすほどのダメージを与えることができる。

それを面と向かって言われた横島は心に多大なダメージを負い、その場に倒れ伏す。

ハルナはそれを見届けることなくきびすを返し寮に帰っていく。

最初から最後まで放置されたメドーサとタマモは顔を引きつらせてその光景を見ていた。

ちなみに横島は朝まで意識が戻らず、戻った後も肝心な部分は記憶からすっぽりと抜け落ちていた。

唯一覚えていたのは、ハルナに謝らなくてはいけないことのだけ。

そんなわけで謝り倒した横島はハルナに何かを奢ることで許してもらえることになった。

それでハルナの案内で出掛けようとしたのだが、その話を聞かれた図書館探検部、散歩部、古菲、龍宮が飛び入り参加しその後、朝倉、超一味、チア部3人組、運動部組4人と、まるで待ち伏せされたかのように3−Aの生徒に遭遇してしまった。

気づけばさよ、茶々丸、エヴァ、千雨、刹那を除く全員に奢るはめになったわけである。

ちなみにのどかは図書館の当番で不参加、ネギは途中で現れたオコジョとヒソヒソと会話をしていたが急に慌てだしてどこかに行ってしまう。

それを追うかのように明日菜までどこかに行ってしまった。

そんな二人を不思議そうに見送った横島たちはハルナの案内の元、目的のお店へと向かう。



「と〜ちゃく〜!」

「・・・・スイーツショップ雪の国?」

「あぁ〜!!ここって麻帆良学園グルメランキングデザート部門一位のいちごタルトがあるお店だ!!」



ハルナに案内された場所は女性客が多いスイーツ専門店。

桜子が言うには学園内で一位二位を争う人気店らしい。



「ここって確か、噂のあのケーキがあるお店よね?」

「確か〜・・・・じゃむケーキって名前だったっけ?」

「亜子とまき絵よく知ってるねぇ〜。今、一部のケーキファンの間で密かに話題になっているじゃむケーキ。私が調べによれば、食べるだけで夢のような気分が味わえるって話だよ。」



朝倉の話によればここのオーナーが一から作ったオレンジ色のジャムを使用しているらしい。

食べた人は口をそろえて『食べてみたらよくわかるよ』と誰一人詳細を語らない謎めいたケーキらしい。



「っていうかハルナよくこれだけの人数予約取れたわねぇ〜。ここってかなりの人気店じゃん?」

「う〜んそれがさ、最初は私と師匠、メドちゃんの三人分だけだしか予約取ってなかったのよ。だけど、さっきダメ元で人数を増やせないかって連絡したのよ。そしたら物凄い速さで『了承』って言われちゃってさ〜私にも何がなんだか・・・・」



そう話すハルナの顔には苦笑いが浮かんでいた。

それを聞いたこのかは「たくさんキャンセルでも入ったのかな〜?」などと言っている。



「そういえば横島さん、ここのケーキ奢ってくれるなんてリッチなんですねぇ〜。」

「・・・・なんか美砂ちゃんの言い方がやけに引っ掛かるんだが。」

「あれ、横っち知らないの?ここって一位二位を争う人気店なんだけど一位二位を争う高級店なんだよ〜!」

「ここの一番人気のいちごタルトは一個1000円もするんですよ。」



双子の話を聞き石のように固まる横島。

周りでは「さぁ食うアルネ!」とか「ごちそうになるでござるよ」や「横っち、太っ腹〜」やら「もしかしたら玉の輿!?」など好き放題言って店内に入っていく。

横島の受難は始まったばかりである。

店内に入った横島たちは美人の店員の案内で店の奥にある広間へと通された。

その時に横島が飛び掛かろうとしてタマモ、このか、ハルナの三名に撃墜されたのは省略しておく。










「いちご残ってるよ?もらいっ!」

「あぁっ!?お姉ちゃんひどいよぉ〜あとで食べようと思ってたのに〜」

「ふむふむ、これはなかなかでござるな。」

「話題になるだけの価値はあるわ。」

「確かに噂以上ね・・・・」

「あぁ〜次回はぜひネギ先生をお誘いしなければ!」

「ふむふむ、こういう味アルネ。五月、帰ったら挑戦アルネッ!」

コクコクッ、ニコッ

「いちごの甘酸っぱさとクリームの絶妙なハーモニー・・・・」

「「「おいし〜〜〜〜!!!!」」」



席に着いた横島たちはメニューを見ていると一見場違いな商品を見つけた。


ケーキフルコース


ケーキなのにフルコースなのか、というツッコミはスルーするべきだろう。

なんせここは麻帆良学園なのだから。

そんなめずらしいものを放っておく3-Aではなく、しっかりと堪能していた。

注文をしたときに時に店員の顔が引きつっていたのは気のせいではないだろう。

次々と出てくるケーキをペロリと食していく乙女たち。

甘いものが得意ではない横島はメインディッシュのいちごのタルト以外メドーサやハルナ、タマモに分けていた。



「お、お待たせしました、こ、こちらがデザートの・・・・じゃむケーキです。」



そうこうしているうちに最後のデザートがやってくる。

形としてはどこにでもあるホールケーキを切り分けた形。

ただ違うのは生クリームの代わりにオレンジ色のじゃむが塗られていることだろう。

一同が目の前に置かれた噂のケーキに釘づけになっているうちに店員は涙目になりその場を去っていった。

裏で「また犠牲者が・・・・」や「あはは〜無知とは恐いですねぇ〜」やら「はちみつくまさん」とか聞こえてくるが横島たちには運良く?聞こえなかった。



「これが噂のケーキアルか、私が一番乗りネ!」

「あ、ボクも!」



見ていることに我慢できなくなった古菲と風花が同時に口に運ぶ。

周りはその反応を固唾を飲んで見守る。

しかし次の瞬間



「「※☆▽*△◎∬∵ゎ†♪∃∩!?!?!?」」



声にならない悲鳴を上げ勢い良く立ち上がった。

そしてしばらくするとゆっくりとまるでスローモーションのようにテーブルに突っ伏した。

辺りを静寂が多い尽くす。

予想とはかけ離れた反応に着いていけないようだ。



「って、ち、ちょっとくーちゃん!?」

「お、お姉ちゃ〜ん!?!?」



気を取り戻して近寄った慌てた円と史伽は二人の顔を見て驚いた。。



「き、気絶してる・・・・しかも笑って?」

「あらあら、大変。」

「ちづ姉、全然大変そうじゃないよ。」



そう、二人の顔には笑みが浮かんでいた。

それを見た横島たちは互いの顔を見合わせた。



「じ、じゃあ食べるだけで夢のような気分を味わえるって・・・・」

「気絶するほど美味しい・・・・ってこと?」

「で、でも食べただけで気絶するってそんなことあるの?」

「でも現に二人とも気絶してるじゃん?しかも幸せそうな笑顔で。」

「し、幸せそうってよりは現実逃避をしてるって感じがするのは俺だけか?」

「何言ってんのよ師匠?気絶してるんだからそんなのできるわけないじゃん」



横島の声をすっぱりと切り捨てるハルナ。

周囲も同じらしくうなずいている・・・・実のところ横島の勘は正しかった。

あまりにも衝撃的な味に二人は反射的に意識を遮断したのだ。

それだけか、夢の中まで襲い掛かる味に夢の中で現実逃避をしてしまっているのだ・・・・おそるべし、じゃむケーキ。



「で、どうするのこのケーキ?」

「う〜ん・・・・興味はあるけど気絶するのはなぁ〜」

「じゃあ残す?」

「でも料理人としては気絶するほどの美味しさってのには興味アルネ。」

「あ、うちも〜」

コクコクッ



みなが悩む中、メドーサは一人メニュー表を眺めていた。

そこである一点に目を止めため息を吐いた。



「どうやら、一口でも食べないと帰れないみたいだね。」

「ち、ちょっとメドちゃんどういうこと?」

「ほらメニュー表に書いてあるから読んでみな。」



ハルナはメドに渡されたメニュー表を何事かと見る。

しかし次第にメドーサの言った意味を理解したのか目を見開いた。



「『当コースは全品を一口でもお召しに上がらなければ退店できませんので御了承ください』!?!?」

「はぁ、何よそれ!?そんなの横暴じゃない!!」

「でも、ちゃんと注意書きがしてあったのに気づかなかった私たちが悪いんじゃ。」

「何言ってるのよアキラ!こんなの押し売りとたいした変わらないじゃない!」



メニュー表の注意書きに文句を言うハルナたち。

しかし、そこでメドーサが割って入った。



「まあ待ちなよ。別に全部食べろって書いてあるわけじゃないんだから別にいいんじゃないかい?」

「でも、これはオーナーに抗議するべきよ!それともメドちゃんは気絶するかもしれないものを食べろっていうの!?」

「落ち着きなって、別に無理して食べろなんて言ってないだろ?・・・・それに注意書きに頼んだ本人が食べなきゃいけないなんて一言も書いてないだろう?」



にやにやと笑いながら話すメドーサに横島は冷や汗が流れる。



「じゃあ誰かに一口ずつ食べてもらえばいいってこと?でも誰に?」



さらに冷や汗が流れる横島。

どうやら次の展開がわかったらしい。



「おいメドもし「そんなの横島に決まってるじゃないか。」かしなくてもやっぱりオレ〜!?」

「そっか師匠なら問題ないか。」

「そうだね、確かに横島さんなら大丈夫そうね。」



頭を抱え悶える横島をまるで無視するかのように話がまとまっていく。

しかし、ハルナはともかく他の生徒とは知り合ってまだ二日目なのだが横島のことよく理解しているらしい。

危機感を感じた横島は助けを求めるため辺りを見回すがすでに横島が食べることに決まったらしく安堵の顔を浮かべ誰一人と横島を気遣う様子は見られなかった。



「横島さん・・・・」



絶望の危機に瀕したとき、普段はふざけている神(『それはひどいですね』)が一人の使者を送った。



「ゆ、夕映ちゃん!!」



神の使者こと夕映の登場に、涙を流していた横島は神に罪を許された咎人のような表情をした。

そして夕映は横島の肩に手を置き



「大丈夫です。横島さんなら死んでも死ぬような人ではないですから。何も気にせずに食べるです。」



何の躊躇もなく蹴落とした。

ふざけている神が送り出した使者はどうやら他人の不幸は蜜の味思考をお持ちらしい。

その証拠にもう片方の手は親指のみ突き出しGJといっている。



「ノ、ノオォォォォーーーーーーーー!!!!!!」

「うるさいねぇ〜そんなに食べたいからってギャーギャーわめくな!もう少しで準備できるからちょっとおとなしく待ってな。」



すべてに裏切られた横島は膝をつき打ち拉がれている間に準備のほうは着々と進められていた。



「お待たせ師匠!」

「おまたせ〜横島さ〜ん。足りなかったら言ってな、まだまだいっぱいあるで〜」



総勢26名のじゃむケーキが並んだ大皿が横島の前に置かれる。

3ホール分はあるのではないかと思われるほど量だ。



「ちょっと待て!?ひとつ一口じゃなかったのか!?」

「いやね、一口サイズに切ったのを皿のうえに置いたら見栄えが悪いかと思ってね。どうせならきれいに並べたほうが食べる気が増すだろう?」

「そ、そりゃあそうだけどってそこが問題なんじゃねぇーーー!?」

「まぁ気にしちゃいけないよ横島さん。なんなら私たちが食べさせてあげようか?」

「朝倉ナイスアイディア!ほら横島さん、あーん」

「「「「「あ〜ん」」」」」

「イ、イヤじゃーーーー!!女の子にあーんされるのは嬉しいけどこの状況でされるのは地獄やーーーー甘ったるい地獄やーーーー!!!!」

「大丈夫よ。もし気絶したら私が介抱してあげますから。」

「ち、ちづ姉大胆発言だね・・・・」

「「「「「「あ〜ん」」」」」」



横島を取り囲みながらじりじりと詰め寄るハルナたち。

千鶴の声も悲しいことに本人に届くことはなかった。

そして逃げ場を失った横島に為せることは何もなく



「か、堪忍し※☆▽*△◎∬∵ゎ†♪∃∩!?!?!?」



じゃむケーキの餌食となった。

先程の二人のように声にならない叫びを上げると横島の意識は沈んでいった。










『・・・・なた、あなた起きて。』



誰かの声が聞こえた。

ひどく懐かしいその声に導かれるように沈んでいた意識が浮かんでくる。



「・・・・ん、令子か?どうしたんだいったい?」

『何言ってるのよ?ケーキ焼けるまで寝かせてくれって言ったのはあなたよ?』

「ん、そうだったな・・・・それよりも令子、なんか声が野太くなってない・・・・が!?!?」

『さっきから誰の名前を言ってるのよ?私はそんな名前じゃないわよ。』


眠い目を擦りながら声のする方を振り向くと一気に眠気が吹き飛んだ。

そこにあるのは薄紫の肌をし、女性らしい丸みを帯びた身体ではなく、鋼のように引き締まった筋肉を身に纏った人物。

胸板がピクピクしているのがよくわかる。

おまけに服装はエプロン一枚とマニアック。



「ア、ア、ア、ア、アアアアアシュタロス!?!?!?」

『あら、いつもみたくアシュって呼んでくれないの?』

「ち、近寄るなーーー!!ってかいつ誰がそんなふうに呼んだ!?」



飛び上がるようにソファから逃げ出すと一目散に扉に向かった。

しかし、扉には鍵がしてあるらしくピクリともしない。



「も、文珠ーーー!!って何で出なーーーい!?イヤーーー助けてーーー!!」

『何を騒いでるのよ?ほら、せっかくあなたのためにケーキを焼いたんだから食べてちょうだいよ。』



アシュタロスが手に持つそれは見間違うもないじゃむケーキ。



「い、いらーーーん!!男が焼いたケーキ、ましてやじゃむケーキなんてもうゴメンじゃーーーー!!」

『もう、わがままね。いいわ、私が食べさせてあ・げ・る。』



そういうと横島の口をこじ開けて問答無用でじゃむケーキを押し込んだ。



「筋肉もじゃむももうイヤーーーーーー!!!!!!」

「うわっ師匠!?」

「はっ!?ハ、ハルナちゃん・・・・?」



ビクビクと辺りを見回せばそこはじゃむケーキも裸エプロンの魔神もどこにもいなく、いるのはベッドの心配そうな表情を浮かべたハルナだけだった。



「・・・・ここは?」

「どこって師匠の家よ。あのあと気絶した師匠をメドちゃんと運んだのよ。ちなみにもう真夜中よ?」

「じゃあさっきのは・・・・夢?」

「だ、大丈夫師匠?なんかやけにうなされてたわよ?なんか筋肉とかじゃむとか寝言言ってたけどいったいどんな夢を「ハルナちゃん!!」」



全てを言い終える前に横島はさえぎり両手を肩に置きハルナを見た。



「時には知らないことが幸せなこともあるんだよ。」

「う、うんわかったわ。」



真剣な眼で意味深なこと言う横島に顔を赤らめながらうなずく。

それに小さく笑みを浮かべた横島はベッドに横になった。

枕元ではタマモが小さくなって眠っている。

それを優しく撫であくびをする。



「そういえば帰らなくていいの?こんな時間に寮にいなかったら問題じゃなのか?」

「あ、それなら問題ないわよ、今日はここに泊まっていくから。もちろんのどかも一緒でね。ふぁ〜安心したらなんか眠くなっちゃった。私もう寝るわ〜じゃね師匠、オヤスミ〜」

「・・・・イヤちょっと待て、とりあえず待で、激しく待て!?家に泊まる!?そんなの絶対ダメだぞって無視するなーー!!」



横島を完璧に無視しながら部屋を出てていくハルナ。



「あ、夜這いはやめてね、初めてなんだから。」

「えっは、初めて!?じゃなくて俺はロリコンじゃねぇーーー!!」



閉めるときにウィンクをしながら言うハルナに頭を壁にぶつけながら叫ぶ。

それを満足気に見るハルナは扉を閉め、あてがわれた部屋に向かった。

その日、横島は眠れぬ夜を過ごす事となった。

予断であるが、翌日メドーサに渡された領収書には0が5つ並んでいた。






〜〜あとがき〜〜
作中で書かれていたコインパスをして、500円玉を排水溝に落とした龍牙の想いです。
せっかく、エヴァ編が始まったというのにまったく進まないorz
次回からはちゃんと話が進む予定なので・・・・




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