木乃香やえ〜


ネギ君も無事先生になって今日から新学期や〜


春休み中は横島さんたちに出会ったり色々楽しかったな〜


メドちゃんの料理も美味しかったし、タマモちゃんの抱き心地もよかったし


さて心機一転、中学最後の1年がんばるで〜


今年の目標は横島さんを射止めることや


ハルナには負けへんで〜










ピエロが踊るは麻帆良の地 第9話「ピエロ、3−Aに行く」










「副担任ですか?」

「そうじゃ。ネギ君も今日から正式に就任するわけじゃからな。そのサポートをしてもらうのじゃよ。」

「で、でもこれは僕の修業ですから誰かに助けてもらうわけには・・・・。」



学園長の案にネギ・スプリングフィールドは戸惑っていた。

魔法学校を卒業し、麻帆良での修業を始めて数か月。

多少問題があったものの修業も順調に進み、今日から教師として正式採用されることとなった。

これから修業が本格化するというのに、サポートがついてしまったら卑怯ではないか?

反面、これからのことを考えると不安な部分もあったため、学園長の配慮はうれしい。

でも、そんなことでお父さんに追い付けるのか?

などと堂々巡りをしていると、突然横にいた明日菜の拳が降ってきた。



「あだっ!?うぅ〜〜アスナさん、ひどいじゃないですか。」

「何言ってるのよ!?あんたはまだガキなんだからそんなこと気にする必要ないのよ。」

「フォッフォッフォ、明日菜君の言うとおりじゃよ。それに副担任がいるのは普通じゃから気にすることはない。」



普段のバルタンボイスで笑う学園長。

しばしの沈黙のあと、ネギは頷いた。



「はい、わかりました。」

「うむ。もうまもなくここに来るはずじゃ。」



学園長が髭をさすりながら頷くと、そこにタイミングよくドアをノックされた。

扉の向こうか横島の声が聞こえてくる。



「学園長、よろしいでしょうか?」

「おぉ、ちょうどいい所にきた。入りたまえ。」

「失礼します。」



ネギと明日菜は振り返ると、スーツを着た横島と中等部の制服を着たメドーサ、そして指定席に居座るタマモが入ってくる。



「ネギ君、紹介しよう。彼が副担任の横島君、その隣が転入生のメドーサ君じゃ。横島君、彼が担任のネギ君、そのクラスメイトの神楽坂明日菜君じゃ。」

「初めましてネギ君に神楽坂さん、俺が副担任になる横島忠夫だ。んで、こっちがメドーサ、この子共々よろしく頼むよ。」

「ネ、ネギ・スプリングフィールドです。よろしくお願いします横島先生、メドーサさん。」

「ふ〜ん、よろしく。」



横島の挨拶にネギは礼儀正しく挨拶をするが明日菜は適当に返事をした。

それよりもある一点に目が行っている。

それに気付いた横島は小さく笑って頭のタマモを抱いた。



「ああ気になったかい?こいつはタマモっていってねなぜだか知らないが俺の頭の上がお気に入りらしい。あと、出来れば先生はやめてほしいな。柄じゃないしね。」

「へぇ〜かわった狐なのね、尻尾が9つもあるなんて。」

「ええ、かわった狐ですね。」

「フォッフォッフォ、自己紹介は済んだかの?それでは教室の方に行きたまえ。まもなく始業のチャイムが鳴るからの。」

「わかりました。それじゃあ行こうかネギ君に神楽坂さん。」

「ええ、そうですね。それでは学園長、失礼しました。」



ネギのあとに続き四人は学園長室を出て、3−Aの教室へと向かった。

廊下を歩けば、あちこちの教室から女子特有の甲高い声が響いてくる。

そして一際賑やかな教室の前に来るとネギは横島に向き直った。



「それでは僕が呼ぶまでここで待っていてください。」

「あぁわかったよネギ君。にしてもやたら元気なクラスだな。」

「あ、あはは。でもみんないい人ばかりですよ。」



ネギは苦笑いを浮かべると、明日菜を連れて中に入り一度扉を閉めた。

すると・・・・



「3年A組!!!!」

「「「「「「「「「「ネギ先生!!!!」」」」」」」」」」




このネタは万国ならず全時間軸共通らしい。

横島が盛大にコケたなど露にも思わないネギは、新学期のスピーチを行っている。



「それでは副担任と転校生を紹介します。よこっフガッ!?・・・・・・」



しばらくするとネギが横島に声をかけてきたのだが、突然その声が聞こえなくなった。

その代わりのように何かを作業をする物音が聞こえてくる。



「「「副担任の先生、どうぞ〜〜!!」」」



何かの準備が終わったのか、ネギの代わりのように数人の生徒が横島を呼ぶ。

いやな予感がしたのか、横島は冷や汗を流しながらメドーサに相談した。



「ど、どうするべきだ?」

「ここにいたって仕方がないんだから入るしかないだろう。」

「で、でも、なんか罠が待っているような気がするのは気のせいか?」

「気のせいなんかじゃないさ。さっきから作業している音が聞こえたしね。別に悪意があるようなものじゃないんだし気にする必要ないじゃないかい。」

「し、しかし、ここはコメディアンを目指す身としては希望どおりにすべて引っ掛かるか、華麗に躱して最後の一つだけ引っ掛かるか悩むとこなんだが・・・・。」

「あんたはいつからコメディアンになったんだい?つべこべ言わずさっさと入りな。」



無意味なことを悩み始めた横島にメドーサは呆れた声で先を即した。

横島は渋々扉を開けると隠す気がまるでない罠の数々。

それに内心苦笑いを浮かべた。



(仕方ない。ここは生徒の望みどおりすべて引っ掛かるか。それではいざ行かん!!)



決意を改め、一歩を踏み出そうとしたその時。



「コンッ(先行くわよ。)」

「あ、タマモ!?」



指定席にいたタマモが飛び降りていち早く教室に入っていく。

その瞬間、仕掛けてあったトラップが発動した。

頭上から水が入ったバケツが落ち、先端が吸盤の矢が降り注ぎ、金だらいが落ちてくる。

タマモはそれらすべてを躱し、教卓の上に陣取ると小さく鳴いて横島に合図を送った。



「コンッ(これでいいでしょ?)」

「あ、ああ、ご苦労さまタマモ。け、怪我はないか?」

「クゥ〜ン(これぐらいどうってことないわよ)」

「そ、そうかそれはよかった。」



毛繕いをしながら鳴くタマモに苦笑いを浮かべながら、教室に入る。

そこで、横島はあることに気付いた。

先程まで騒ぎに騒いでいた教室内が水を打ったように静まり返っているのだ。



(な、なんだ〜!?何が起こったんだ!?まるで嵐の前の静けさだ!!こ、ここは俺から自己紹介をしていい流れにもっていくべきなのか!?そうなんだな!?)



何がどういい流れなのかよくわからないが、横島は自己完結するとタマモを抱き、生徒の方を振り返った。



「あ〜初めまして。今日からこのクラスの副担任になる横島ただ「「「「「「「「「「「「「「「可愛い〜〜〜〜〜!!!!!!」」」」」」」」」」」」」」」お゛お゛お゛〜〜〜!?!?」



次の瞬間には生徒達に抱きつかれ、撫でられて、頬摺りされてともみくしゃにされた・・・・タマモが。

横島も一応もみくしゃにされた。

パピリオみたいな双子に突進され、ある三人組に踏み付けられ、それに続くように十人以上に踏まれると紙のように薄くなって輪から捨てられた。

生徒のほとんどは横島のことなど眼中になく、誰も気にしてくれていない。



「み、みなさ〜ん!!落ち着いてくださ〜い!!よ、横島さ〜ん!?!?」



そんな中、ネギやハルナたちが横島の下に集まってきた。



「やれやれ、お〜い師匠〜。生きてるかぁ〜?・・・・返事がない、ただの屍のようだ、あだ!?うぅ〜メドちゃん痛いよ〜。」

「何勝手に殺してるんだい。こいつなんか放っておけばすぐに復活するのはあんただってわかってるだろうに。」

「あわわ〜、横島さんペッタンコや〜。大丈夫かいな〜?・・・・でもまぁ〜皆の気持ちもわからないでもないけどなぁ〜タマモちゃん可愛いし。」

「キュ〜〜〜〜〜〜ッ!!(そんなこと言ってないで助けなさいよ〜〜〜〜!!)」



木乃香の視線の先にはクラスメイトの人形と化しているタマモ。

タマモの叫びもむなしくこの状況はタマモがダウンするまで続くのだった。










「あ、改めて紹介します。今日からこのクラスの副担任になる横島忠夫先生とクラスメイトになる蛇神たがみ メドーサさんです。」



ネギがみんなを席に着くように指示している間に復活した横島はダウンしたタマモを助けると、落ち着きを取り戻した教室内で横島たちの自己紹介が行われた。

生徒たちの大半は興味津々に横島たちを見ている。

一部は興味津々というよりも何かを探るような鋭い視線を向けている。



「あ〜、改めまして今日からこのクラスの副担任になる横島忠夫だ。担当科目はなくネギ君のサポートが主だから皆に逢うの回数は少ないかもしれないがよろしく頼むよ。」

「蛇神メドーサだ。」

「・・・・へ、蛇神さん。何か他に言うことはないんですか?」

「そうだね・・・・出来れば名前で呼んでほしいね。あいにくとこの苗字は好きじゃないんでね。」

「だ、だそうです。それでは残りの時間は質問タイムとします。」



簡単な自己紹介が終えると恒例の質問タイムに移った。

最初はメドーサへの質問が殺到した。



「名前がカタカナってどこ生まれなの?」

「ギリシャ。」

「じゃあハーフなの?」

「そうだ。」

「・・・・む、胸のサイズは?」

「何でそんな事言わないといけないんだい。」

「「「「「・・・・・・・・・。」」」」」



来る質問来る質問に全て愛想悪く返すメドーサにクラスに気まずい雰囲気が漂う。

ネギもこの状況をどうにかしようとオロオロしている。

タマモは呆れてため息をつく。

しかし、当の本人は気にした様子もなく落ち着いた表情をしていた。

そんな状況の中、横島小声でメドーサに囁いた。



「お、おいメド、もうちょっと愛想よく出来ないのか?」

「何で私がそんなことをしなくちゃならないんだい。元々あんたに言われなきゃ、こんなところなんて来たいとも思わなかったね。」




憮然とした表情で切り返すメドーサに横島は小さくため息をついた。

元々、普段から人付き合いが苦手なメドーサが出会って日が浅いハルナたちと話すこと自体奇跡なのである。

昔、神族のビンゴブックに名前を連ねていた頃。

メドーサは同族の魔族にさえ気を許すことの出来ない喰うか喰われるかの世界に住んでいた。

信じられるのは自分だけ。

そう常々思っていた彼女にとってアシュタロスを除く全ての存在は利用するものでしかなかった。

そんな価値観をぶち壊したのが横島だった。

バカで明け透けで、命のやり取りをした相手を仲間だという横島と一緒にいるうちにメドーサの中にも他人を信じる心のようなものが芽生え始めていった。

しかし、それも本当に親しい人のみで他人にはどうしても壁を作りがちになっている。

それを何とかしようとメドーサを3−Aに編入させたのだが先は長いらしい。

横島はもう一度小さくため息をつくとメドーサの頭に手を置いて話し始めた。



「みんなゴメンな。メドは恥ずかしがり屋でね。こうやって強がってるけどホントはいいやつなんだ。」

「っ!?何勝手に言ってんだい!」

「落ち着けって・・・・だから皆もメドと仲良くしてやってくれ。」



メドーサを落ち着けるように言うと再びクラスに眼を向ける。

そこには先程までの気まずい雰囲気は消えており、中には元気よく声を上げている子もいる。

そのことに安堵の息をついた横島の表情は本当に嬉しそうであった。



「そ、それではメドーサさんの質問はこれまでとして横島さんに質問のある方はいますか?」



今まで慌てふためいていたネギもチャンスと見たのかメドーサへの質問を切り上げ横島の質問タイムへと移ることにした。

その途端クラス中から手が挙がる。

横島はそれに苦笑いを浮かべながらネギから受け取った名簿を見て、当てていった。



「じゃあ〜、大河内さん。」

「その狐はなんて名前なんです?」

「タマモっていって俺の大事な家族さ。はい、椎名さん。」

「どうして横島先生の頭の上にいるの?邪魔じゃないの?」

「う〜ん、タマモと生活してからここが定位置になってるから気にはならないかな。あ、あと先生はやめてくれるか?柄じゃないからね。次は〜く、古菲でいいのかな?」

「正解アルネ!最初から読めるとは思わなかったネ!」

「あ、あぁ知り合いに中国人がいてね。それで少し読めるんだ。で、質問は?」



無論その知り合いとは、厄珍や猿神のことである。



「アイヤ、横島老師は何か武術をやっているアルか?前にハルナたちを不良から助けたって聞いたアル。」

「一応、警備員も兼任しているから我流だけどある程度はできるよ。」

「そしたら、今度手合せ願うネ!」

「ははは〜、き、機会があったらね。じ、じゃあ次の人〜・・・・」



バトルジャンキーか、と心の中で呟き溜息をすると他に比べやけに強い視線を感じた。

そちらを向くと他の人とは違うオーラを漂わせて食い入る様に見てくる一人の生徒がいる。



「じゃあ最後に朝倉さん。」



麻帆良パパラッチこと朝倉和美。

彼女に秘密がバレるということは世界にバレると同じ、と言われるほどの人物なのだがそれを知らない横島はやけに熱心な生徒だな、としか思っていない。



「はいはいはい、いくつか質問があるからちゃんと答えてくださいね。まず一つ目、その左腕に着けているのは?」

「これか?これは小学生の頃に幼なじみからもらったものでね。当時は頭に巻いてたんだが、今は願掛けもかねて左腕に着けているんだ。」

「なるほど、初恋の女の子からのプレゼントと。じゃあ二つ目、メドーサさんとの関係は?」

「ん〜俺にはもったいないぐらい出来のいい妹かな。」

「なるほど、現在同棲中っと。じゃあ三つ目、このクラスで彼女に選ぶとしたら誰がいいですか?」

「ん〜そうだな〜・・・・ってちょっと待て!俺の年でそれを言ったら犯罪だろ!?俺は女好きだけどロリコンじゃないぞ!?」

「えぇ〜!!失礼しちゃうな〜私たちだってレディなんだぞ〜!」

「桜子の言うとおりだよ先生。さぁキリキリはいちゃいなよ。どの子が好みなの?」



クラス中の視線が横島へと集中する。

それに冷や汗を流しながら一歩あとずさる。

それを逃がすまいと詰め寄る朝倉。

気付けば黒板まで追い詰められ逃げ場を失っていた。

朝倉の座った目にビビりながら黒板に張りつき首をブンブンと横に振っている。



「いやや〜〜!!ワイが好きなのは高校生以上の美人の女の子だけじゃ〜〜!!ワイはロリコンやない、ロリコンやない、ロリコンやない・・・・だいたい最近の女子は発育が良すぎるんや。中学三年であの日本人離れした胸はないやろ。それともこの世界ではそれが普通なのか?キーやんたちの策略なのか!?」

『バレました?』

「何か聞こえたーーー!?!?ってか話が違うやんか!?他の世界には不干渉やなかったんかーー!?」

『そうやで。せやからワイらは横っちに干渉してるんや。』

「屁理屈や〜!理不尽や〜!責任者出てこーーーい!!」



仕舞いにはキーやんたちとコンタクトをとってしまう始末。

傍から見れば電波を受信した危ない人である。

さすがにからかいすぎたかと朝倉は冷や汗を流す。



「わ、わかりました。この質問はなしにするわ。それじゃあ、これで質問を終わります。えっと、女好きだが高校生以上の女性対象で関西出身の可能性ありっと。



なにやら不穏な発言が聞こえたが横島には届いていなかった・・・・が、メドーサには聞こえていたりする。

朝倉が質問を終え、席に戻ると質問会は終わりをむかえた。

するとドアをノックする音が響くと開かれる。



「ネギ先生、今日は身体測定ですよ。3-Aのみんなもすぐ準備してくださいね。」

「お久しぶりですしずな先生!!」

「ええ横島さん、お久しぶりです。あ、今は横島先生でしたね。」

「いえ、先生なんて柄じゃないんで今までどおりでいいですよ!!そんなことよりこれから再開を祝してお茶でもしませんか!?ねぇ行きましょう!!そら行きましょう!!ネギ君!!あとのことは頼んだ「何やってるんだい!!」のぺろっ!?」

「いつも場所を考えろと言ってるのがわからないのかい?」



さっきまでの慌てぶりが嘘のようにしずなの元に駆け寄り手を取り教室を出ようとした。

しかしメドーサのハイキックにより吹き飛ばされる。

その後はお馴染みの折檻タイムである。

その光景を見てしまった双子は涙を流しながら抱きつき合い、ネギも身体を震わせて明日菜に抱きついている。

そんな中ほぼ唯一普通にしているのが



「ふふふっ仲がいいのね。それじゃあネギ先生、あとはよろしくお願いします。」



しずなである。

普通の人が見ればただの折檻にしか見えないのだが、彼女の目には二人がただじゃれ合っているようにしか見えないらしい。

まったくもって正しいのだがそれを数回しか逢ったことのないのに見破るとはかなり観察眼がするどい。

それはともかく、そんな状況お構いなしにネギに後を頼むと、教室から去っていった。



「あ、しずな先生待っで!?」

「ったく今日はやけにしつこいね。いい加減におし!!」



それでも追い掛けようとする横島に強烈な一撃が振り下ろされると完全に沈黙し、それを指で摘むと廊下に放り投げる。

手を払って何かを遣り遂げたような晴れ晴れとした顔で黒板の前まで来ると一部始終を身体を震わせてみていたネギに尋ねた。



「ほら、何震えてるんだい。あんたさっきあの女からなんか頼まれたんだろう?そんなことしている暇があるのかい?」

「あ、そうだ!で、では皆さん、身体測定ですので、えと、あの、今すぐ脱いで準備をしてください!!」



メドーサに言われ我に返ったネギはクラスの人たちを急かした。

しかし、やり方が間違っていた。その結果・・・・



「「「ネギ先生のエッチ〜〜!!」」」

「うわ〜〜〜ん!!まちがえました〜〜!!」



双子や桜子たちにからかわれて教室から飛びだす始末。

まさにクラスのオモチャである。

その慌てぶりに笑いがおこり、身体測定の準備をはじめた。



「うぅ〜またやっちゃった〜。」

「それが子供の特権だ、気にすることないって。」

「うわっ!?横島さん!?」



教室を飛び出したネギはドアに寄り掛かり落ち込んでいると壁によしかかるように座っていた横島がぼやいた。



「失敗から学んで次に生かす。そうやって人は成長していくんだ。落ち込んでるだけじゃダメだ。そうやって足踏みしているうちに大切な何かを失っちまうかもしれない。」

「大切な何か・・・・」

「そう。宝物だったり、目指す目標だったり、愛する者だったり・・・・」



その瞳は何を見ているのか。

ただ虚空を見つめて話す横島にネギは口をつぐみ、杖をしっかりと握った。

二人の間に沈黙が走る。

教室の中の騒ぎ声がやけに大きく聞こえてくる。



「・・・・にしても、やっぱあれは反則だよな〜。」

「・・・・はい?」

「だから、ここの生徒のことだよ。長瀬さんといい、龍宮さんといい、ハルナちゃんといい・・・・反則でしょ、あのボインは。特に那波さん!あれは大人でも数少ないボインの持ち主だ!メドもかなり大きい部類に入るが、どう思うよネギ君?」



さっきまでの暗い雰囲気はどこへいったのか。

熱烈に語る横島を口を半開きにして見ていたネギであったが、話を振られてようやく我に返ると顔を真っ赤に染めて慌てはじめた。



「だ、ダメですよ横島さん!?教師と生徒がそうゆう仲になっちゃダメだってお姉ちゃんが言ってましたよ!!」

「何を言ってるんだ!!俺はそんなこと言ってるのではない!!俺は男、否漢として当然の疑問を挙げただけだ!!それになネギ君、いやネギ!!男として生まれたからにはそういうことを疑問に持つことは当たり前なんだ!!それでは一人前になれないぞ!!さぁ自分の気持ちに正直になるんだ!!そうすれば・・・・ぐわっぱぁ!?!?」



徐々にネギに詰め寄るように力説していた横島は突如飛んできた物に気付かず、顔面に当たり吹き飛ばされた。

横島の顔に食い込んでいる物、それは



「く、靴が顔に・・・・!?」

「横島〜あんた子供に何吹き込んでるだい?」

「ふごっ!?ふごふごふごごふご!!(メド!?待て話せばわかる!!)」

「さっきあれだけやったっていうのにまだ懲りないってかい?そんなやつの話なんて誰が聞くかい!!いっぺん死んでこい!!」

「ぶっ、ぎょわぁぁぁぁぁぁーーーー!?」



普通の上履きが顔にめり込んでいる事に疑問を持ってはいけない。

なんせ横島なのだから。

ネギが怯える横で本日二度目の折檻が行われる。

それは亜子が叫びながらクラスに来るまで続けられた。










「ど・・・・どーしたんですかまき絵さん!?」

「なにか、桜通りで寝ているところを見つかったらしいのよ・・・・」

「なんだ、たいしたことないじゃん。」



ネギと一緒に保健室へと傾れ込んだ3‐Aはしずなの話を聞くとと安堵に胸を撫で下ろした。

しかし、ネギだけは深刻そうな顔してまき絵の容体を見ていた。



(・・・・いや、違うぞ!ほんの少しだけど、確かに魔法の力を感じる・・・・)

「ちょっとネギ、何黙っちゃってるのよ?」

「いえ、なんでもありません。まき絵さんは心配ありません。ただの貧血かと・・・・それとアスナさん、僕今日は帰りが遅くなりますので晩ご飯いりませんから。」



ホッとした表情で教室に戻っていく生徒を横目に、まき絵の姿を保健室の入り口で静かに見つめる横島とメドーサの姿があった。










その夜。

横島たちはある建物の上で桜通りを見下ろしていた。



「桜通りの吸血鬼、ねぇ〜。」

「あぁ、しばらく前から学校内で噂になっているらしいね。満月の夜になるとまっ黒なボロ布につつまれた吸血鬼が現われて、血を吸うんだとさ。」

「なんかあまりにもベターな吸血鬼ね・・・・。」



タマモの言うとおりである。

もっとも中学生の噂話なのだからこの程度が普通だろう。



「・・・・あのあと、まき絵ちゃんから状況を聞いたんだが、どうやら前後の記憶が抜け落ちてるらしい。それに見にくくはなっていたけど吸血痕も残っていたし、魔力の残留も確認できた。・・・・どうやら噂は本当だったらしいな。」

「それにしても、吸血されても死徒にならないってのはずいぶん平和な世界だね〜。」

「勘弁してくれ。死徒化なんてしてたらこの街は今頃死都となってるぞ?この程度で収まってるんだからいいじゃないか。」



つまらなそうに、呟くメドーサに横島が苦笑いを浮かべる。



「それにしても吸血鬼ね・・・・やっぱりあの子だろうか?」

「十中八九間違いないね。封印をされている感じはするけど、出現時期は満月の夜。吸血鬼の血から最も強くなる時期だからね。」



そうか、と呟くと何かを考えはじめた横島。

それを気にした様子もなく辺りを眺めるメドーサ。

沈黙の中、タマモは桜どおりを歩く人影を見つけた。


「ねえ、誰か来るわよ。」

「・・・・あれはのどかちゃん?」



タマモに教えられたほうを見ると桜通りを一人で歩くのどかの姿があった。



「おいおい、あんた早乙女のやつに言っておかなかったのかい?」

「い、いや、まき絵ちゃんの話を聞いたあとちょっとした情報収集をやってたからハルナちゃんたちには逢ってないんだ。」

「情報収集ってヨコシマ・・・・ただナンパしてただけじゃない。」

「ワーーッ!!タマモしーーっ!!。」

「・・・・まあいい。どうせタマモに怒られたんだろう。・・・・おや、噂の吸血鬼様のご登場だね。なにしてるんだ。あの子、助けなくていいのかい?」

「確かに、クラスの護衛が俺の仕事かもしれない。・・・・けど、今のところその必要はなさそうだ。。」



視線を遠くに飛ばしながら呟く。

視線の先には杖に跨って全力で飛行してくるネギの姿があった。

血を吸われそうになるのどかをネギが魔法を放ち助けに入る。

それをすべて防ぎきれなかった犯人は軽い傷を負い深くかぶっていた帽子が吹き飛ばされる。

結果、その正体が月の明かりに照らされた。



「やっぱりエヴァンジェリンさんか・・・・」

「さて、どうするんだい?助けられた宮崎は気絶し、おっと武装解除の魔法か。抵抗はしたみたいだけど、宮崎のやつ裸になっちまったね〜。」

「み、見てない見てない。・・・・今回の件はネギに任せようと思う。危なくなったら助けるけど、ネギの力量が見てみたいからね。」



下ではネギが慌てふためていると騒ぎを聞き付けたのか、アスナ、このか、ハルナの三人がネギのもとへと駆け寄ってきた。

2、3会話をするとのどかを三人に任せてネギは逃げたエヴァンジェリンを追い掛けていく。

その中、ハルナがキョロキョロと辺りを見回してある一点で視線を止めた。



「・・・・もしかして、ハルナちゃんに俺らがいるのばれてる?」

「・・・・も、もしかしなくてもそうみたいね。ほら見て、顔が怒りに染まってるわよ。あぁ〜あの様子はここまで来るつもりみたいね。」

「私は知らんよ。」



その言葉の通りのどかをこのかに頼み、脇目も振らずこちらに走ってくる。



「ど、どうしよう・・・・そ、そうだ!ネ、ネギたちを追わなくては!!そういうわけでメドあとは頼む!!」



そう言い残し、建物の上から飛び降りようとしたとき、誰かに肩を掴まれた。



「どこに行こうっての師匠?」

「ハ、ハルナちゃん!?ず、ずいぶん早いご到着で・・・・」

「霊力での肉体強化を教えてくれたのは師匠でしょ?」

「そ、それにしては早くないか?」

「乙女の底力よ。それより、のどかをあんな目に遭わせとおいて何もしないってどういうことよ!?」



疲れるどころかさらにヒートアップして横島に詰め寄る。

おそるべし乙女の底力。



「と、とりあえず落ち着いて!これからネギのやつを追い掛けなきゃいけないからその間に話すから。」



それに渋々納得したハルナは横島たちともにネギたちのあとを追った。

道すがら今回の事件の真相をハルナに話す。

それに納得したようにハルナは頷いていた。



「ふ〜ん、ネギ君が魔法使いで桜通りの吸血鬼がエヴァちゃんねぇ〜。じゃあエヴァちゃんも魔法使いなの?」

「ああ、たぶんね。でも何でか知らないけど封印されてるみたいだから本来の力は発揮できていないみたいだけどな。ほら、西洋魔術特有の始動キーを使わないで触媒を使ってるだろ?あれは始動キーを使わないんじゃなくて使えないからだと思うんだよね。」

「ふ〜ん、師匠ってさこういうときは頭の回転早いよね。普段の座学はメドちゃんに任せっきりなのにねぇ〜。」

「ぐっ・・・・そんなこと言うやつはここから落とすぞ?」

「大丈夫!師匠は女の子にそんなことするような最低の人じゃないから!」



現在、三人は屋根の上を走っているのだが、ハルナはなぜか横島がお姫様抱っこをしている。

最初は走っていたのだが、ネギたちに着いていけず、かといって置いて行けるものではなかったので横島が抱いて走っているのだ。

ちなみに、お姫様抱っこはハルナの要望らしい。

ハルナの言うとおり、横島はそんなことをできる人間ではない。

男なら躊躇なくやるだろうが・・・・。

その時、エヴァがネギの武装解除で服を吹き飛ばされて屋根に降り立った。

それに続くようにネギが降り立つと横島たちはある塔の頂上に身を潜める。



「・・・・師匠、何エヴァちゃんの下着姿に見惚れちゃってるのよ?ロリを通り越してペド扱いされるよ〜。」

「ち、違うぞ!!俺は戦いの終わりが近いからそれを見届けようとだな・・・・」

「ヨ〜コ〜シ〜マ〜!!!!」

「ま、待てタマモ!?今はそんなことしてる場合じゃ・・・・」

「問答無用!!私はあんたをペドに育てた覚えはないわよ!!」

「育てられた覚えがな、どわっしゃーー!!」

「あ〜師匠たちは放っておいて二人で続きを見ようかメドちゃん。」

「ふんっいい気味だね。」



これだけ騒げば身を潜めた意味がないような気もするが気にしてはいけない。

横島の頭に牙を立てるタマモをよそにハルナはメドと一緒に戦いの続きを観戦した。

戦いはいつのまにか茶々丸が現われネギの首を持ち上げていた。



「な、なんで茶々丸さんが!?もしかしてエヴァちゃんの仲間!?ちょっと二人とも、遊んでる場合じゃないって!!ネギ君やばいよ!!」

「ちっ、確かにあれはやばいね。ほら横島何やってるんだい!?あんたの出番だよ!!」

「あ、あれは確かにやりすぎだ。」

「・・・・私が言うのもなんだけど、あんたの回復力は化け物だね。―――ん、あれは?」



血だらけで倒れていた横島が飛び出そうとしたとき、メドーサは遠くから走ってくる人影が見えた。

その人影―――明日菜はエヴァに一直線に進み、そして綺麗に飛び蹴りをかます。

それを受けたエヴァは吹き飛ばされた。



「いや〜面白いぐらい飛んだな〜ありゃ令子並かな・・・・吹き飛ばされただって?なぁメド、吸血鬼の魔法障壁って常時展開されてるってなんかに載ってなかったっけ?」

「あ、ああ意図的に解除しないかぎり展開されていたはずだよ。神楽坂ごときの蹴りで突破されるほどヤワじゃないやつが・・・・。いったいどうなってるんだい?神楽坂もこちら側の人間なわけ?」

「そんな話聞いてないわよ?」



とりあえずネギの危機は去ったものの、新たな疑問が浮かび上がり困惑する三人。



「あ、エヴァちゃんたち逃げたみたいだよ。どうするの?」

「・・・・あぁ〜わからん!とりあえずネギのことはアスナちゃんに任せればいいだろう。俺とメドはこれから行くところができたからハルナちゃんは先に帰ってて。」

「あ、ちょっと師匠!!・・・・って行っちゃったし〜」



ハルナの呼び掛けを無視して横島たちは飛び降りる。

一人残されたハルナは肩を落としてため息をついた・・・・が今いる場所を思い出すと叫んだ。



「どうやって降りればいいのよーーー!!!」






〜〜あとがき〜〜
エヴァンジェリン編がスタートしました。
さて、メドーサの出身がギリシャとなっていますがこれは龍牙の独断と偏見で決めたことです。
メドーサの名前の基となるであろうメデューサがギリシア神話に登場することから決めました。
公式ではないのであしからず・・・・
ではまた次回

*特別出演*
キーやん、サッちゃん




第8話目次第10話