み、宮崎のどかです
春休みもそろそろ終盤になってきました
最近は夕映やハルナと一緒によく横島さんのお宅にお邪魔してお食事をご馳走になっています
メドーサさんの作る料理はとても美味しくて、どこか暖かい味がします
こんな手料理をいつかネギ先生に食べさせてあげれたらいいなぁ〜
・・・・キャッ
ピエロが踊るは麻帆良の地 第8話「ピエロ、共同作戦をする」
横島たちが学園に来てから一週間が経過した。
二日目には就任先について学園長室へ殴り込み、もとい直談判をしに行ったが決定を覆すことは出来ず血の涙を流して帰ってきた。
横島は『
しかし今回は女子中等部三年という微妙な年齢だ。
しかも横島の就くクラスはハルナを含め写真を見ただけでもトップレベルなのは一目瞭然。
その結果、これから少なくとも一年間は生き地獄を味わうことになったのだが・・・・
本人は気づいているのだろうか。
自分の実年齢を考えたら世界中の人がロリコン扱いになってしまうことを。
当の本人はそんなコトにもめげず、翌日からはナンパとかナンパとか警備とかナンパとかナンパとかハルナの修業に精を出していったりする。
とは言うもののハルナの修行についてはすぐに場所が確保できず、座学と霊力の循環方法などの基礎的な内容しか出来なかった。
座学についても予想以上の記憶力でしっかりと着いてきている。
人間、好きなことになると実力以上の力を発揮できるというが・・・・ハルナについても同じことが言えるだろう。
難点といえば、のどかまでとは言わないまでも体力が少ないこと。
この辺は地道なトレーニングが物言うのでなんとも言いがたい。
それでもハルナは力をつけていった。
そんなある日、横島の携帯に1本の電話が入った。
『横島君かの?わしじゃ。』
「学園長?どうかしましたか?」
『いやのぉ〜おぬしに頼まれていた住居の場所が決まったから電話をしたのじゃよ。』
「本当ですか?ありがとうございます。場所は―――はい、わかりました。これからそちらに行っても?」
『うむ、かまわん。新しい家具はすでに用意してあるが気に入ったものがあるなら持って行ってもらってもかまわんぞい。』
「わかりました。あとはこちらでやりますので、何から何まですみません。それでは失礼します。」
「あのジイさんなんだって?」
電話を切るとソファに座り新聞を読んでいたメドーサはこちらに目を向けずに聞いてきた。
ちなみにそれは麻帆良新聞で噂の子供先生について書かれた記事だったりする。
その下には『今月のドリンクランキング』があり、ハバネロソーダなる物がベスト5入りしてたとか。
「ああ、頼んでいた住居が見つかったらしい。これから下見に行くけど二人とも一緒に行くか?」
「ちょうど暇だったしね、かまわないよ。ただ帰りに夕食の買い出しに付き合ってもらうよ。」
「もちろん行くわよ。夕食の油揚げ忘れないでよ?」
「それはいいけど・・・・あんたたまには他の物も食ったらどうだい。」
「いいのよ、油揚げは美味しいんだから。」
毎度のやり取りをしながら、三人は学園長に聞いた場所に向かった。
しばらくすると向こうからハルナたち図書館三人組ともう一人が歩いてくるのが目に留まった。
ハルナたちもこちらに気付いたらしく手を振りながら走ってくる。
「こんちわ、師匠。これからお邪魔しようかと思ってたんだけどどっか出かけるの?」
「よっハルナちゃん、夕映ちゃん、のどかちゃん。実はこれから学園長に頼んでた住居の下見に行くんだ。えっとそっちの子は確か学園長のお孫さんの・・・・」
「木乃香やで〜よろしゅう横島さんにメドちゃん、それにタマモちゃん。なんでうちのこと知ってるん?」
「ん、写真を見せてもらったことがあってね。こんな将来有望な可愛い子を忘れないって。どう!?三年後ぐらいに一緒にデートしない!?」
「みっともない真似するんじゃないっ!!」
ナンパ口調で話す横島にメドーサの鉄拳が落ちたのは言うまでもない。
初めて見る光景に慌てふためる木乃香をよそにハルナは指を差して笑い、夕映は軽蔑の目で見ており、のどかが若干心配そうに見ているぐらいである。
実はこの三人、不良から助けて以来ほぼ毎日夕食を食べにきていたりする。
どうやら、ハルナがメドーサの食事のことを二人に話したらしく横島を好ましく思っていない夕映を引きずり食べにきたのだ。
で、メドーサの料理は予想以上に好評だったらしく、ハルナとのどかは毎日のように食べにきている。
聞くところによるとのどかは好きな人に手料理を食べさせたいらしい。
まったくもって青春である。
ちなみにその相手はいう必要もないだろう。
ハルナは料理7の横島3の割合である。
他人のラブ臭には鋭いが自分のには疎いらしい。
夕映は自ら進んで来ることはない。
大抵はハルナに引きずられながらやってくるのだ。
そんなわけで、横島たちと逢う機会の多い三人はこれが日常生活の一環なのは知っているのだ。
今回のが下の下程度の折檻だということも。
だからといって突如起こる出来事に驚かないのはやはり慣れなのであろう。
「うう〜木乃香ちゃんはええ子やな〜。」
「ややわ〜横島さん。お世辞なんて言っても何も出ないで〜?そういや、話はハルナたちに聞いたで〜ありがとな〜不良から助けてくれたんだって?」
「別にお礼を言われるようなことをしたつもりはないよ。警備員の勤務初日だったからね、ちょっと張り切っちゃっただけだし。」
「そんな、謙遜せんでもええやん。」
「そうです、横島さん。あなたは誉められることをしたのですから素直に受け取るです。―――もっとも最後の言動がなければですが。」
木乃香に便乗して横島を誉めたかと思うとすぐにダメ出しをする夕映。
まさに飴と鞭。
それに肩を落としながら苦笑する。
「ぐはっ、夕映ちゃん相変わらずきついね。じゃあ俺たちはもう行くからまた今度家においでよ。その時は新居にご招待するからさ。といっても新しい家じゃないだろうけどさ。」
「あ、それなら私たちも一緒に行っていい?どうせ今度行くことになるんだし。」
「あ、それええな〜。ねぇ〜横島さん、うちらも一緒に行ってええ?」
「え、あぁ来てもいいけど・・・・メドとタマモはかまわないか?」
「コンッ(いいわよ)」
「ああ、別にかまわないけど、あんたらも暇人だねぇ〜。」
「あ、あはは〜いいじゃないの。さぁ早く行くわよ!」
メドーサは呆れたように呟くとハルナは笑って誤魔化すように急かした。
実は原稿の締め切り間近なのだがそれは秘密である。
決して横島に逢いたいからではない。
「ここなのかい?」
「ああ、住所が確かならここで間違いないはずだが・・・・」
「へぇ〜いい家じゃん、広そうだし。」
「なかなかいい立地条件です。」
「ほへ〜立派やなぁ〜。」
「はわわ〜新築です。」
「コンッ(いくらかかったのかしら)」
そうなのである。
学園長が用意した家は新築なのだ。
ハルナたちに聞くとここは以前空き地だったらしいのだが、一週間ほど前から工事が始まった。
しかし一面ブルーシートで覆われ、看板も何も立てられていなかったので、中で何が着工されていたのかは誰も知らなかった。
ちなみに工事は大学部の建築科と土木科の共同実習の一貫だったりする。
「それにしてもわざわざ新築なんて・・・・学園長サービス良すぎだろ。」
「あのジジイ、なかなかやるね。」
「まぁええやん。中入ってみよ。ってもうハルナたち入ってるで。」
「師匠〜何やってるのよ?」
「やれやれじゃあ俺らの新居の中を拝見させていただきますか。」
そういうと、三人はハルナたちの下へと向かった。
中に入ると木の香りが充満していて新築らしさが漂っていた。
もう家中を見て回ったのかハルナたちは居間のソファでくつろぎながら話し込んでおり時々笑い声が挙がっていた。
それを横目に横島たちは家の中を見てまわった。
地下室付きの二階建で、間取りは5LDKで二人(タマモは横島とセット)で住むには広すぎるぐらいである。
一階と二階には洋室のほかに一部屋ずつ和室が用意されていたり居間の大きな窓は庭に面しており出入りが可能であるなど、昔ながらの日本家屋の雰囲気がどことなく残っている。
防犯面で不安なところもあるが、メドーサが住むのだからそれは問題ないだろう。
ちなみに横島は鍵を掛けて寝る習慣がなかったため防犯面には疎かったりする。
一通り見て回った三人は居間へと向かった。
「すぐに住んでも大丈夫な勢いだね。家具は準備されてるしキッチンにもほとんど用意されていたよ。」
「やれやれ、間借りした家といいいたせりつくせりだ。これじゃあ学園長に脚を向けて寝れないな。」
感謝の言葉を述べる横島をこのかはただにこにこと見つめていた。
メドーサはそれを見て何かを感じ取り呆れながらキッチンへと入っていった。
残った二人もハルナたちと一緒に雑談に花を咲かす。
しばらくするとメドーサが人数分のコーヒーを煎れたカップを持って居間にやってきた。
「あぁ〜メドちゃん、言ってくれればうちも手伝ったのに〜。ごめんな、気付かなくて。」
「気にすんじゃないよ。私が好きでやっていることだからね。」
「そんなこと言わんといてな。他に何かあらへん?手伝うで。」
「それならキッチンに置いてあるプレートを持ってきてくれるかい。」
「りょうか〜い。」
木乃香が入れ替えにキッチンへと入っていく。
メドーサはその間にカップをみんなに配っていく。
この5年間でメドーサは士郎までとはいかないまでも相当の給仕スキルを手に入れていたりする。
各々が木乃香が持ってきたミルクや砂糖をお好みで入れてさらに雑談に花を咲かす。
しばらくすると横島の携帯に一本の電話が入った。
「誰からだ?・・・・ごめんね、ちょっと席を外すわ。」
ディスプレイを見た横島は一瞬顔を強ばらせるがすぐに笑顔に戻り一言断りを入れて居間から出ていった。
それを見計らったようにハルナがメドーサへと近寄る。
「実際どうなのよ?」
「はぁ?なにがどうなんだい?」
「もう、しらばっくれなくたっていいわよ〜メドちゃんからラブ臭がするわよ〜しかも強烈なのが!」
「な、なんだいそのラブ臭ってのは?」
さらに近寄るハルナにメドーサは若干引き気味になる。
夕映は我関せずといった感じでクッキーを食べ、木乃香は笑いながらその様子を見ていた。
のどかだけはこの後の展開が読めたのか苦笑いを浮かべている。
「何ってラブ臭はラブ臭よ!あんた師匠のこと好きなんでしょ〜?隠さなくたっていいのよ、お姉さんにはよくわかってるから。さぁ吐け、吐くのよっ!」
さらに近寄ってくる。
若干その笑顔が恐い。
しかし、メドーサは予想とは裏腹にハルナを鼻で笑い飛ばした。
「・・・・・はん、なにを勘違いしてるんだい。この私が横島のことが好き?馬鹿も休み休み言いな。」
「えぇ〜そんなはずないと思ったんだけどな〜。だってナンパとかしてたらよく怒ってるじゃん?」
「あれは仮にもこの私の保護者が公の場でふざけた真似をしてるもんだから身の程をわからせてやってるだけさ。」
「そうですハルナ。あんな変態を好きになる人なんて居るはずないです。」
「ゆ、夕映それはちょっと言いすぎじゃ・・・・」
「へ〜ほんならライバルが少ないってことやな。がんばるで〜。」
夕映のあんまりな発言にのどかは止めに入るが否定できないい部分も事実なのであまり強く言うことができない。
その中に一部不穏な発言があったが声が小さかったので気付かれなかった。
「でもね綾瀬・・・・あの男、あれで意外とモテるんだよ、私が知ってるだけでも5人以上いたね。」
「えっ!?その話マジッ!?」
「す、すご〜い。」
「あわわ〜たくさんいるな〜。」
「理解できないです。確かにお人好しですがそれを帳消しにする変態です。女を見ればすぐナンパに走るような男のどこが良いんですか?」
夕映の言葉にメドーサは小さく笑う。
麻帆良にきて一週間ちょっと。
そのわずかな時間で横島のよさを分かれというのは無理がある。
「まぁ一般人受けはよくないのは事実だね。あいつの良さっのは本当に親しくなって初めてわかるもんなんだよ・・・・なぁ?」
「・・・・プイッ(悪かったわね)」
意味深な視線を向けられたタマモは顔を赤くして明後日の方向を向いた。
それが面白かったのかメドーサは笑いをかみ殺す。
「でも、それでだったらメドちゃんが師匠のことを好きになっても可笑しくないんじゃないの?」
「・・・・確かに昔は好きだった時期もあったよ。でもそれが絶対に実らないと解っちまってね、すっぱり諦めたわけさ。」
「実らないってどうしてそんなことが解るですか?」
夕映の疑問にメドーサはソファに身を預けて上を向く。
そしてポツリと呟いた。
「・・・・あの男はもう二度と誰かを愛することがないって知っちまったからさ。」
「もう二度と・・・・」
「誰かを・・・・」
「愛することはない・・・・?」
「・・・・それってどういうことなん?」
それぞれがメドーサの言葉を繰り返す。
意味までは理解できないがそれがとてつもなく重い事なのは容易に理解できた。
木乃香の疑問に口を開こうとした時、タマモが唸り声を上げえメドーサを睨み付けてきた。
「ウゥ〜〜〜ッ(メドーサ、あんた解ってるんでしょうね?)」
「・・・・フン、安心しな。この先は喋るつもりは・・・・いや、私の口から話すべきことじゃないぐらい解ってるさ。そういうことだから、この先は横島本人から聞くことだね。」
「えぇ〜〜っ!?ここまで引っ張っておいてそりゃないんじゃない?」
ハルナは不満を漏らしてメドーサに詰め寄る。
他の人も同じらしく口にはしていないが、目がそう言っていた。
「あんたにだって人には言えない事が一つや二つあるだろ。これでもかなりサービスしてやってるんだ。これで我慢しな・・・・それよりも早乙女、横島を振り向かせたいならあんたもがんばることだね。並大抵の努力じゃ実ることはないよ。」
「なっ何言っちゃってるのよメドちゃんっ!!わ、私が師匠を好きって・・・・そ、そんなのあるわけないじゃん!アハ、アハハハハッ!!」
「ハルナやめるですっ!!あんな変態なんて好きになっても捨てられるのがオチです!」
「え、えっと、が、がんばって?」
「あわわ〜ほんならハルナとはライバルやな〜手加減せぇへんで〜。」
予想外の切り返しにハルナは笑って誤魔化すが夕映たちには通じず、今度はハルナが詰め寄られるハメとなった。
それをメドーサは一歩離れた場所で笑いながら眺めていると、タマモが念話で話しかけてきた。
『ちょっと何ベラベラ話してるのよ!?ヨコシマの気持ち少しは考えなさいよッ!!』
『・・・・自分でも言い過ぎたことは解ってるんだ。そんなにライバルが増えるからってグチグチ言うんじゃないよまったく・・・・』
『ラ、ライバルって、大体あんたはね・・・・』
「ゴメンゴメン、急に電話がはいちゃってね。」
念話で文句を言ってくるタマモを無視してカップを傾けていると、電話の終えた横島が居間に戻ってきた。
先程の話題もあり、自然と全員の視線が横島へと向かう。
それに若干戸惑いながらメドーサに声を掛けた。
「何を話した?」
「いや、なんでもないよ。それより誰からだったんだい?」
「・・・・ああ、学園長からね。」
「おじいちゃんなんやって?」
「新居はどうかって聞かれたんだ。あと最近物騒だから夜の警備の強化とかね。だからみんな今日は早く帰ったほうがいい。」
「えぇ〜何言ってるのよ師匠、今日はこのかにメドちゃんの料理の素晴らしさを教えるために来たのよ?それなのに食べずに帰るなんてそんなことするわけないじゃん。」
不満げに語るハルナに横島は固まった。
メドーサはすでにリクエストを聞いていたりする。
「ちょっと待て!おまえらまた飯を集りにきたのか!?」
「別に師匠にたかりにきたわけじゃないわよ。私たちはメドちゃんの料理を食べに来たの。そこ勘違いしないでよ。」
「そんなの屁理屈や〜!!おまえらがおまえらがメシ食いに来るようになってから食費が馬鹿にならんというのに・・・・責任者出てこーーい!!」
「落ち着きな横島、いいじゃないか食費ぐらい。あんた結構金持ってるんだからさ。」
裏の仕事はそのほとんどがボランティアである。
これは東洋、西洋伴に言えることなのだが、特に西洋魔術師はその大多数が
本業をする傍ら裏の仕事を請け負うのだ。
金より名誉、これがこの世界のスタンスである。
しかしどこの世界にも例外が存在する。
それが賞金稼ぎや傭兵である。
これらは依頼を達成したり賞金首を倒すことにより金を貰う。
その代わり、名誉を重んじる魔法使いたちからは疎まれている。
横島はこれに属していた。
その依頼料などが積もりに積もって一流企業に勤めるサラリーマンもより金を持っていたりするのだ。
もっとも学生時代の貧乏性が今だに残っている横島にとっては金があっても何使えばいいかわからない。
だから生活費を差し引いても増える一方なのだ。
「マジで!?師匠って金持ちなの!?師匠〜私と結婚しよ!!」
「・・・・あのなぁハルナちゃん、そういうことは冗談でも言っちゃ駄目だよ。君みたいな可愛い子はもっといい男を選ぶべきだよ。」
それを聞いたメドーサは呆れ、ハルナは不機嫌な表情を隠そうともしなかった。
「さて、このバカは放って置いて私は買い出しに行ってくるよ。」
「あ、手伝うで〜メドちゃん。タマモちゃんも一緒に行こ。」
タマモを抱き抱えた木乃香に続き女性陣はそろって居間を出ていく。
一人残された横島はワケもわからずぽつんと残された。
いつものように大勢で夕食を食べたあと、四人を寮まで送った横島は赤い外套とピエロの仮面という戦闘服に身を包み屋根の上を飛ぶように移動していた。
夜の警備の強化―――つまり裏の仕事なのだが気付いていたのはメドーサとタマモ、ハルナだけである。
『今日の仕事は今までと違い規模が大きいらしくての。こちらで2人サポートに付けようと思うのじゃが問題なかろう?』
数は別に問題ないのだが雇い主の指示なので横島はおとなしく従った。
指定された場所に着くと2人の女性―――いや、美女が待っていた。
2人とも 女性にしては長身で出るところはしっかり出ている。
普段の横島であるなら本能で飛び付くのだが今回は仕事中なため何とか理性で押さえ込んでいる。
近づいていくと、こちらに気付いたギターケースを背負った美女―――龍宮真名が声をかけてきた。
「あなたが今日のパートナーか?」
「ああそうだ。待たせて済まなかった。」
「いや、時間どおりでござるから気にする必要はないでござる。」
「そう言ってもらえると助かる。今日一緒に仕事をすることになったピエロだ。自ら名乗ったわけじゃないがみんながそう呼ぶからそう呼んでもらってもかまわない。」
「じゃあそう呼ばせてもらうよ。あなたの噂はよく耳にしているよ、私は龍宮真名だ。今日はよろしく頼むよ。」
「あいあい、拙者は長瀬楓でござる、こちらこそよろしくでござるよピエロ殿。」
挨拶をしながら横島は龍宮から、かすかに漂う臭いをかぎつけていた。
火薬の臭いである。
誤魔化しているようであるが、長年使い込んでいるせいか完全に消せてはいない。
(銃器使いか・・・・ってかござるって、まるでシロみたいだな。それにしても龍宮に長瀬って護衛クラスの子だよな。この間の刹那ちゃんだっけ?あの子も同じクラスだし、俺の出番なんてないんじゃないか?)
「どうしたでござるか?急に黙り込んで。」
「あ、ああなんでもない。では、今回の出現場所に案内してくれないか?俺はここにくるよう指示されただけで詳しいことは聞かされてないのだが。」
「そうだね、そろそろ頃合いだろう。歩きながら説明するから着いてきてくれ。」
その道中、横を歩く龍宮から話を聞いた。
敵の数は約200、他の数ヶ所でも少数の勢力が出現するとのこと。
よって制限時間は一時間、それだけ保てば増援が来る予定らしい。
「稀に見る大部隊、一歩間違えれば民間人にも被害が襲うな。それにしても一時間か・・・・まあ、問題はなかろう?」
「ふっ、期待しているよ。」
「その期待に答えれるかはわからないが、努力しよう。」
「にんにん。」
その後は自分の戦闘スタイルなどを確認しあった。
龍宮は銃器使いなため中・遠距離に特化、楓は忍らしくヒットアンドアウェイの中距離が基本。
よってオールラウンドの横島は近距離を担当することとなった。
それが終わる頃には今回の出現場所に到着した。
周囲にはすでに召喚された悪魔が睨みを利かせている。
それを確認すると三人はお互いを見る。
そして次の瞬間、龍宮の愛銃"デザートイーグル"が火を吹いた。
同時にサイキックソーサーが飛び出しそれに続くように栄光の手を両手に展開した横島が敵陣に突っ込む。
楓もクナイや手裏剣を投げて横島のフォローへと回った。
独特の動きで敵を斬り伏せていく横島。
その死角から来る敵にポイントし次々に倒していく龍宮と楓。
初めて組むとは思えないコンビネーションであるがこれはそれほど三人のレベルが高いことを意味する。
しかし、突如として龍宮の背後から一体の悪魔が飛び出し、野太い腕を薙ぎ払ってきた。
それに気づく様子もない龍宮に横島は吼えた。
「っ!?しゃがめっ!!」
「チィ!?」
間一髪のところで避けた龍宮はそのまま背後の悪魔にポイントする。
しかし、それよりも速く悪魔の胸にナイフが突き刺さり、大きく吹き飛ばされた。
突き刺さったものに不釣合いな吹き飛ばされ方に二人は眼を大きく見開くが、すぐに思考を切り替えて残りの悪魔を倒して行く。
50分が過ぎる頃には敵を全滅させた。
「まさか、増援が来る前に終わってしまうとは・・・・。」
「それほど君が優秀だったんだ。さして驚くことでもない。それより怪我はしてないか?」
「怪我という怪我はおってないね。せいぜい掠り傷程度だよ。あなたこそ、あれだけ敵の密集地にいたのに傷一つ負っていないのはある意味どうかと思うよ。」
「拙者も同感でござるな。それよりも一つお聞きしたいことがあるのでござるが、先程の真名を助けたときの技・・・・一体何でござるか?」
「それは私も聞きたいね。あの吹き飛ばされ方はあまりにも不自然だ。一体どうやったらあんな風になるんだい?」
興味津津に聞いてくる二人に横島は仮面の下で苦笑いを浮かべながら先程投げたナイフを取り出した。
これは霊力で形成されたナイフで志貴が愛用していた"七つ夜"と形状が似ている。
名を"サイキックナイフ"という。
これはサイキックソーサーとは違い遠隔操作、浮遊能力はないが、付加能力と貫通力を限界まで上げナイフ状にしたものである。
さらに柄尻に文珠をはめ込める窪みがあり、文珠の効果をもたせることも出来る。
しかし、それは本当の奥の手であり普段はある投擲法を織り交ぜて相手を撹乱するのが目的である。
その投擲法とは。
「鉄甲作用・・・でござるか?」
「ああ、魔力や気を用いない体術の一種だから初見で見切るのはかなり難しい技だ。」
「・・・・魔力や気を探知して回避する魔法使いたちには厄介な技だね。」
「そういうことさ。」
ギターケースに銃を収めながらしきりに頷く。
それに今の説明だけでそこまで行き着いた龍宮に内心驚いた瞬間、横島の背筋に悪寒が走った。
今まで感じなかった刺さるような殺意。
それにほぼ反射的に叫んだ。
「避けろ!!」
それと同時に上空から何かが飛んでくるのが見え、三人は咄嗟に動いた。
しかし龍宮は全てを避けきれずに足に突き刺さった。
「クッ!?」
「真名っ!!」
「大丈夫か・・・・チィ!?」
龍宮の元に行こうとしたが龍宮と同じように飛んできたため栄光の手を円を描くように振るい全てを払い落とした。
バラバラと音をたてて落ちたそれは針。
千本のように長く、針のように細く、けれども払った感触から並の強度ではない。
それが断続的に降ってくる。
「物陰に隠れろォォ!!」
横島の叫びに答えるように二人は木の影に隠れた。
それと同じくして先程までいた場所に大量の針が降り注いだ。
「サイキックウォール!!」
無事難を逃れたのを確認した横島はサイキックソーサーの複数同時展開で人一人を覆えるほどの半球を作った。
これはサイキックソーサーの発展系の技で一つでは板状のサイキックソーサーを複数使用し限りなく曲線を描くことで衝撃を限界まで逃がすことの出来るようになっている。
その中から単体分離が可能でそのまま攻撃にも転じれるすぐれものだ。
攻撃を捨てて限界まで強度を高めれば、文珠を除きこと防御力においては最高峰である。
それで自分の身を覆いながら龍宮の元に駆け寄った。
「傷を見せろ!」
「ピ、ピエロさん!?どうやってあの中を!?」
「そんなことどうでもいい!今は傷を見せろ!毒が塗ってあっても不思議じゃないんだぞ!!」
痛いが我慢しろ、と一言付け加えると足に刺さったままの針を抜いた。
小さく呻く龍宮をよそに毒が無いか調べた。
「毒はないようだな。長瀬、これで止血をしてやってくれ。俺は気配を探す。」
「了解でござる。」
テキパキと真名に応急処置を施す長瀬を横目に横島はしきりに悪魔の気配を探した。
しかし、視線は感じるもののはっきりとまでは場所を確認することが出来ず、舌打ちをした。
「終わったでござるよ。敵は見つかったでござるか?」
「いや、はっきりとした場所まで確認することが出来ない。このままじゃジリ貧だな。」
そう言いいながらも横島は必死に居場所を探る。
最悪文珠で探そうかと思った時、真名が上空を指差した。
「ここから距離にして約700mの位置にいるね。」
「・・・見えるのか?」
「ああ、私の魔眼でなんとか見える距離だよ。その場から動く気はないみたいだね。」
「そうか、この距離ではさすがに気付けなかった・・・・スナイパーライフルはもってるか?」
「あるにはあるが分解した状態であそこのギターケースの中だ。」
視線で5m程の所に置いてあるギターケースを見る。
「それは俺が取ってくる。組み立てに何分かかる?」
「5分ももらえれば確実に。」
「よし、注意を引き付ける。その間に組み立ててくれ。長瀬は流れ弾を頼む。」
「なっ!?無茶でござるよ!あの数を一人で抑えるなど!」
「俺は問題ない。それじゃあ行くぞっ!」
楓の忠告を無視して横島は物陰から飛び出した。
目指すはギターケース。
まるでタイミングを見計らったように降り注ぐ針を栄光の手で払い落とし、ギターケースを手に取り龍宮に向かって投げる。
それをうまくキャッチすると直ぐ様組み立て始める。
「しかし銃ってのは下から上に狙うのは難しいのだがあの人はわかっているのかね。」
「真名の腕なら問題ないでござろう。それよりも、速くしないとピエロ殿が危ないでござる。」
わかっているよ、と愚痴りながらも手は決して休めずに続けている。
一方横島は豪雨のように降り注ぐ針を両手に展開した栄光の手で全て払い落としていく。
しかし、さすがの横島も無傷とはいかず、所々切り裂かれたような傷が出来始めていた。
しかし、一向に倒れない横島が癪に触ったのか勢いが増していく。
「待たせた!」
「出来たか!?それなら道を作る!勝負は一瞬だ!いいな!?」
「OK。取って置きの弾をお見舞いするよ。」
「よし、長瀬。おまえは数で翻弄してやれ。ただし、受けるんじゃなくて避け続けろ。その間俺は龍宮を守る。」
「了解でござる。ニンッ!!」
頷くや否や楓は大量の分身を作ると四方に飛び散っった。
龍宮は横島の護衛の下、狙撃ポイントへと移動する。
敵は横島に続き楓にも攻撃が当たらないことに腹を立てて楓を集中的に狙っていく。
恐らくこちらの攻撃が届くはずが無いとたかを括っているのか移動する気配はない。
その隙に狙撃ポイントを見つけた龍宮は銃を構えポイントを合わせる。
その時、スコープ越しに視線がかち合った。
魔族がニヤリと笑い龍宮に向かい針を飛ばす。
「避けるなッ!!」
横島の叫びがこだまする。
反射的に避けようとした龍宮はそれを堪え、スコープ越しに睨み付け引き金を絞る。
飛んできた針は横島によって全て払い落とされた。
一瞬の空白。
「いまだッ!!」
その声が合図となり引き金を引いた。
魔族も大量の針を飛ばす。
一発の弾丸は無数の針をすり抜けながら吸い込まれるかのように、魔族の顔面を打ち抜いた。
降り注ぐ針はサイキックウォールに道を阻まれ力なく地面に落ちていく。
そして、遥か上では断末魔の叫びをあげながら魔族が消えていった。
辺りに物音や他の気配はない。
終わったことを確認した龍宮は静かにライフルを下げた。
「・・・・終わったか。」
「ああ、今のが最後らしい。長瀬、怪我はないか。」
「拙者は大丈夫でござるよ。」
「よかった。龍宮は立てるか?」
「ああ、何とかねッ!?」
立ち上がろうとした龍宮だったが予想以上にダメージがあるのか立ち上がることが出来ずに、膝を突いてしまった。
横島はそんな龍宮に苦笑いをしながら手を出す。
「無理をするな。ほら肩に掴まるんだ。」
「あ、ありがとう。」
そう言って顔を赤くしながらも肩に掴まった龍宮を連れて三人は来た道を引き返していった。
後ろではなぜか楓が羨ましそうな目で見ているがスルーされている。
そんな三人を照らすかのように星々の光が降り注いでいた。
〜〜あとがき〜〜
更新が遅い龍牙です。
最近多忙すぎてPCに触る日が少ないんですよ。
次回はもっと速く更新したいな・・・・
さて、今回は横島の恋愛模様と龍宮たちとの出会いを書いてみました。
ちなみに、メドの姐さんを横島とくっつける気はありません。
あくまで出来の悪い弟をしかる姉、というスタンスを取っていきます。