自ら化け物に逢いに行った早乙女ハルナよ


ってか、わかるわけないのよ!


あんな化け物に逢うなんて!


第一、誰でも森が光ってたら気になるでしょ!?


間一髪のところで助けてくれたのはまた横島さんだったし・・・・


でもピエロの面に赤マントって・・・・センスないわよね〜










ピエロが踊るは麻帆良の地 第7話「ピエロ、弟子をとる」











「サイキックソーサー?何それ?」



ハルナはなにを言っているんだといった風にポカンと口を開けて横島を見た。

横島はその反応に苦笑いを浮かべる。



「何それってさっき魔族の攻撃一瞬防いだだろ。あの盾のことだよ。あれは魔力でも気でもなく霊力だった。俺以外にも使い手がいるなんて思ってもなかったよ。しかも裏の人間だとはね〜てっきり一般人を巻き込んだかとヒヤヒヤしてたんだよね・・・・ハルナちゃんの穏行術はすごいよ。」

「ま、待って!なんか話が見えないんだけど・・・・私はさっき何もしてないし、そもそも魔力?気?霊力?なんなのよ一体!?」



口早に喋る横島に混乱し叫ぶハルナ。

それに驚いた横島は呆けたようにハルナをみた。



「えっ?君も裏の人間だろ?」

「だから裏って何よ!?私は生まれてからこんなことに巻き込まれたことないわよ!森で何か光って見えたから来てみればあんな化け物に襲われるし、横島さんはアクション映画みたいにあいつらをどんどん斬ってくし・・・・もうワケわかんないわよ!」



その叫びに驚いた横島は逸らす事を許さないという真剣な眼差しでハルナの目を見る。

そんな真剣な表情を間近で見たハルナはたじろいた。



「な、何!?急に黙って・・・・」

「・・・・いや、今の言葉が嘘か本当かを目を見て判断してたんだ・・・・それとゴメン!君を巻き込んでしまった。」



横島はハルナの正面に来ると勢い良く頭を下げた。

突然の横島の行動に両手をわたわたと振って頭を上げさせようをした。



「え、ちょっと待って!私が自分からここに来たんだから私が悪いんであって横島さんは悪くないんだから頭下げないでよ!」

「そういう問題じゃないんだ。俺に結界が張ってあるという慢心があったからハルナちゃんを死ぬような危険な目に合わせてしまったんだ。悪いのは俺だよ。」

「結界?あのガラスの壁みたいの?あれなら両手で押したら電気見たいのが走って消えた?」

「・・・・は?そ、そんな馬鹿な・・・・文珠あれ を使った結界だぞ?それをいとも簡単に・・・・まさか・・・・。一つ聞いてもいいかい?さっき光が見えたって言ったよね?それって今俺が纏っているやつかい?」



そういうと抑えていた霊力を少し解放した。

それは美神が普段垂れ流していた程度で一般人でまったく気付きもしない量なのだがハルナは睨むように横島を見つめる。

その瞳は鮮やかな青色になっている。



「・・・・なんか、横島さんを青色の膜みたいのが覆ってる。」

「やっぱり、じゃあこれを作れるかい?」



横島は手を翳すとサイキックソーサーを一枚作り出す。

突然のことに眼を見開いたハルナは恐る恐る触れてみた。



「うわっ!?変な板が出てきた・・・・って作れるかって無理に決まってるじゃない。」

「いや、あのとき君はこれを作って悪魔の攻撃を防いだから可能なはずだよ。いいかい、目を閉じて手を前に翳すんだ。そして頭の中でイメージするんだ。自分の掌にとても丈夫な板があるって。」



ハルナは何を言ってるんだといった感じで横島を見るが本人はいたって真剣な表情でこちらを見ていた。

それに渋々言われたとおり眼を閉じ、掌を翳す。

そしてハルナは自分の中の何かがてに集まってくるのを感じ取った。

恐る恐る眼をあけるとそこにはぼやけているものの、サイキックソーサーが浮かび上がっていた。



「え?え?なんで?」

「間違いない。・・・・ハルナちゃんにさっきの出来事について詳しく話しておきたい。この後の予定は?」



横島は何かを確信したように呟くとハルナに尋ねる。

ハルナもこの後は寮に帰るだけとのことなので、管理人と同居人ののどかに連絡をいれハルナを横島の家へと連れていくことになった。



「じゃあぱっと行っちゃうから俺に掴まって。」

「えっ、掴まるって・・・・」



ハルナは最初はその意味がわからず戸惑っていたが顔を赤らめながらおずおずと横島の腕に掴まった。

普段はラブ臭がするとか言っている彼女からもラブ臭が漂ってきそうである。

横島は掴まったのをを確認すると『転』の文殊を使用して自宅に転移した。










唐突だがハルナは今の状況に混乱していた。

先程の化け物のことについて聞きにきたのだが・・・・



「何この料理・・・・」



目の前に広げられた豪勢な料理に圧倒されていたりする。

話は三十分前に遡る。

文珠によって転移してきた二人は横島宅に着いた。

それまで一面森だったのが気付けば家の玄関にいる―――そのありえない光景に目を見開き混乱するハルナ。



「帰ってきたのかい横島?意外と遅かっ・・・・。」



出迎えに玄関にやってきたメドーサは言い切る前に下を向いて黙り込んだ。



「ただいまメド。ん?どうしたんだ、急に黙り込んで?」



メドーサの沈黙を不思議に思ったのか尋ねる横島。

しかし、それがさらにメドーサの怒りをかってしまった。



「横島、隣の小娘はなんだい?確か昼間逢ったやつだね?」

「あ、あぁ彼女はハルナちゃんって言って「ほう、もう名前で呼んでるのかい?」あ、あの、メドーサさん?」

「年頃の娘を家に連れ込むとはいい度胸してるねぇ。しかも腕を組んでかい・・・・」

「えっ、あっ・・・・!」



ハルナは横島の腕に抱きついていたことを思い出したのか顔を真っ赤にして勢い良く離れた。



「ちょ、ちょっと待てメド!!誤解だ!!」

「何が誤解だい!?私はあんたをそんなヤツに育てた覚えはないよ!!覚悟しな!!」

「育てられた覚えもないんだギャーーーーー!!!!」



横島は本日何回目かわからない叫びを上げて肉塊へと変化した。









横島の誤解を解き、お互いに自己紹介をした後、一同は居間で食事を取り一息入れるとメドーサが呟いた。

その間、ハルナは常にメドーサの料理を絶賛してくれたことが嬉しかったのか若干顔の筋肉が緩んでいる。



「まったく、違うなら違うとはっきり言えばいいじゃないかい。」

「俺は言ったぞ、誤解だっ「んで?その女が霊力持ちってのは本当かい?」シクシク・・・・どうせこんなオチだと思ったよ。」



話を遮られ尚且つ話題を変えられた横島は部屋の隅でいじけていた。

その様子にタマモは呆れながら尻尾で叩く。



「いいからさっさっと話してよ。」

「うおっ!?キ、キツネが喋った・・・・」

「あら、こんなことでいちいち驚いていたらこの先やっていけ「カワイイーーーーー!!!!!」ちょ、は、離しなさい!!」



突然、飛びつかれギューッと抱きしめられたタマモは慌てて逃げようとするが一向には抜け出せる感じがしなかった。



「あ〜ハルナちゃん、タマモが苦しそうだから放してあげてくれないか。」



必死にもがくタマモを助けようと声を掛けるが聞く耳持たずで頬擦りまでしている。

そこにため息をついたメドーサがハルナ目掛けてゲンコツをした。



「痛っ〜〜〜!!」

「話が進まないって言ってるんだろ。後で好きなだけ抱かせてやるから今はおとなしくしてな。」

「は〜〜〜い。」

「ちょっと何本人抜きに話し進めてるのよ?」

「あんたもちょっと黙ってな。横島、話し進めな。」

「・・・・さっき言ったとおりハルナちゃんは霊能がある。しかも俺の結界を破るほどの才能の持ち主、そして『浄眼』保持者だ。」

「なっ!?・・・・『浄眼』ってのにも驚くけど破った!?あんたの結界を!?」

「あ、あの〜言っている意味がわかんないんだけど〜?私の目ってそんな騒ぐほど変なの?」



不思議そうに首を傾げるハルナ。

横島がそれに答えようと口を開く前にメドーサが横島に尋ねた。



「そういえば横島。あんた学園長のところには行って来たのかい?」



それを聞いた横島は顔を青くして立ち上がった。



「や、やばい忘れてた!!メド、悪い!ハルナちゃんに初めから説明しといて!」



そう言い残し横島は文珠を使うことも忘れて、慌ただしく家を飛び出した。

メドーサはそれを呆然と見送っているハルナに問い掛ける。



「んで?あんたはどこから知りたいんだい?」

「・・・・へ?」

「だから直々にこの私があんたの知りたいことを教えてやるって言ってるんだよ。で、聞くのか、聞かないのかどっちなんだい?」

「え、あ、聞きたい、教えて。」

「へ〜アンタから教えるなんてどういう風の吹き回しよ?」

「別に深い意味なんてないね。ただ単純に、面白そうだからに決まってるだろう?・・・・で、どこから聞きたい?」



からかってくるタマモに軽く返しながら尋ねると、ハルナは真剣な表情をした。



「全部教えて。あなたたちが言う裏の世界について。」

「・・・・いいのかい?それを聞いたら最後、もう後戻りはできないよ。」



その答えにメドーサは殺気を込めて問い返す。

ハルナはそれに一瞬たじろぐも決して目を逸らさない。



「・・・・仕方ない子だね。ただ後悔しても知らないよ。―――まずは魔力、気、そして霊気の違いについてだね。最初は魔力だけど・・・・・・」



ハルナに何かを感じたのか、それともただの気紛れか。

メドーサは裏の世界について渋々話し始めた。

ハルナはそれに口を挟まず一言一句逃さないよう聞き続ける。

それは横島が帰って来るまで続けられた。










「・・・・というわけだ。理解できたかい?」

「退魔師に魔法使い・・・・まさかそんなのが存在してたなんて。・・・・てっきり本の中だけかと思ってた。」

「まあ、驚くのにも無理ないわね。でもこれは嘘偽りもない真実。あなた方が平和に暮らす裏ではこういうことが日常茶飯事にあるの。」



タマモの付け足しを聞いたハルナは俯くと体を小刻みに震わせ始めた。

それを見たメドーサはニヤリと笑う。



「なんだい?話を聞いていまさら恐くなってきたかい?でももう遅いね。あんたはこっちに足を踏み込んじ「やったーーーー!!!!!」!?」



メドーサのからかいを遮るようにハルナは喜びの声をあげた。

突然のことにメドーサとタマモは口を開けて呆然と見ている。

そんなことお構いなしにハルナは一人喜びに浸っていた。



「魔法なんてホントにあったんだ。くぅ〜〜〜!!しかも、私も能力持ちだよ、能力持ち!いや〜生きてて良かった〜!で、あたしね能力ってなんなの!?」

「・・・・はぁ。あんた今の話聞いてたかい?」

「もちろん!魔法が実在して、さらに私も能力持ち!!これでいいんでしょ!?さあ、私の能力は何!?キリキリ吐いちゃいなさい!!」

「ま、間違ってはいないけど・・・・」



フッフッフッ、と不気味に笑いながら詰め寄って来る。

その眼は完全に座っている。

それに若干引き気味になりながらタマモはメドーサに助けを求めるように視線を送るが、メドーサは小さく肩をすくめるだけだった。



「私は見てないからなんとも言えないね。あとのことは横島が帰ってきてから聞くことだ。」



そう言われたハルナは体を落ち着きなく震わせて玄関へと続く扉を凝視していた。

もちろん顔の筋肉は揺るみきっている。

それを見たタマモは呆れたようにため息をつきソファの上で丸くなり、メドーサは小さく笑いキッチンへと入っていく。

それと入れ替えのように横島が帰ってきた。

その手には学園長から渡された書類がある。



「ただい「おかえり能力、じゃなかった横島さん!!」た、ただいまハルナちゃん。」



万遍の笑みで迎えられた横島は驚きながらも返事をする。

そんなことお構いなしにハルナは詰め寄った。



「さぁ、横島さん。私の能力ってなんなの!?さっき言ってた浄眼とかってやつ!?それとも別なの!?さぁキリキリ吐いちゃって!さぁ!さぁ!!」

「お、落ち着いてハルナちゃん。ち、ちゃんと話すからさ。メ、メドは?」

「私ならここだよ、お帰り横島。」

「おいメド、おまえなんて言ったんだよ?」



ハルナの予想外の反応に呆気にとられながらもメドーサに詰め寄って問いただした。

しかし、メドーサは平然とさも当然のように答える。

「なんてって私は普通に話しただけだよ・・・・まぁ、少し脅しも入っているけどさ。そして話し終わって俯いたかと思ったら急に喜びだしてさ。私にも何が何だか・・・・」

「ま、まさか恐怖でおかしくなったとか?」

「まさか。そんなヤワじゃないと思うけどね。」


「何内緒話してんのよ〜?早く教えてってば〜。」



ハルナは二人が話し込んでいる間に元の席に戻り体をうずうずさせている。



「あ、あぁゴメンゴメン。んで、どこまで聞いたの?」



横島は軽く謝ると、テーブルの脇に書類を置き、ハルナに向かい合うように座った。



「裏の世界の大まかな事は話したよ。あとはこの子の能力とかだね。それにしても、『浄眼』持ちって本当なのかい?」

「あぁ本当だ。」

「だから二人で話を進めないでって。」

「あぁそうだね。まず最初に霊能力には限らないけど特殊な力っていうのはそれぞれ特徴がある。例えば武器に力を通わせて武器本来が持つ攻撃力を何倍にも高めることに特化した人がいたり、相手に幻術を見せて錯乱させることを得意とする、つまり補助に特化していたりとね。」



前置きを話す間も身体をしきりに震わせて速く先に進めろと催促するハルナに内心苦笑いを浮かべながら横島は先進めた。



「んでハルナちゃんが持つ能力は相手を見ること・・・・つまり"眼"が特化しているんだ。名前は『浄眼』。眼を中心とした能力にはいくつか種類があってね。大まかに『魔眼』、『浄眼』、『心眼』の三種類が存在する。『魔眼』ってのはギリシャ神話に登場するメデューサってわかるかな?彼女は相手を見るだけで石に変えてしまう魔眼『ゴルゴーンの瞳』の保持者だった。その他にも淫魔が相手を魅了するときに使う『魅了の魔眼』。体中に走る『死線』や『死点』をなぞるだけで相手を殺すことのできる『直死の魔眼』など、主にその効果が相手に作用する眼のことを指すんだ。んで、次にハルナちゃんが持つ『浄眼』。これは相手の身体を流れる気、霊力、魔力などを見ることのできる。訓練さえすればそれから相手の行動を読み取り、まるで相手の心を読み取っているかのような錯覚にさえ落とすことができる。んで最後の『心眼』。これは今言った『浄眼』の能力の他に相手の思考、過去、しまいには前世なんかも見ることのできる限られた神族・・・・神だけが持つ眼だ。"眼"の保有者はそのほとんどが『魔眼』だ。つまりハルナちゃんは珍しい能力の持ち主って事だ。」

「おお〜!私の力はレアなのね!?さっすが私!重要なところは抑えてるってわけね!ってか神って、そんなのまでいるの!?」



自分の能力の重要性を聞き喜びの声を上げたかと思えば神の存在に信じられないと驚くハルナに横島は呆気にとられるも頷く。

一方のメドーサは呆れたような目つきで問いかけた。



「あんたね、さっき悪魔を自分の眼で見たんだろ?それが存在するのに神族がいるのが不思議だって言うのかい?」

「あ、そう言われてみればそうだね。でもそんな神が持つ眼なんて本当にあるの?」

「ああ、本当だよ。と言ってもこっちにその保有者がいるかはわかんないんだけどね・・・・さて、ここからが最も重要なことだ。今の話は大体理解できたかな?」

「え、ええこの世界には魔法が存在して、その他に霊力ってのがあるんでしょ?」



ハルナは横島の話に違和感を感じるも戸惑いながらも頷いた。



「そう、解ってくれたならそれでいい・・・・じゃあきみが選ぶ道は二つ。一つは今日のことを忘れて今までのような普通の生活に戻る。もう一つは自分の命をかけて死と隣り合わせの世界に身を置く。好きなほうを選んでくれ。」

「え、わ、忘れるって絶対無理だって。第一どうやって忘れればいいのよ!?」

「それに関「忘れるには問題はないね。その方法を横島が知ってるから。」メ、メド?」

「・・・・忘れたくないって言ったらどうするの?」

「その「安心していいわよ。その時はヨコシマが面倒見てくれるから。」おいタマモ。何でおま「わかったらさっさと答えを出しな。」お〜〜い・・・・しくしく、え〜んやえ〜んや、ワイなんか必要ないんや。」



オイシイ所を持っていかれた横島は部屋の隅でいじけ始めた。

それを見たハルナは引きつった笑いを、メドーサはニヤニヤと笑ってみている。

一人に人生の選択を迫っている雰囲気ではないことは間違いないだろう。



「ほら横島。いつまでいじけているつもりだい!」

「もともとおまえらが話を進めるから悪いんや〜!」

「もともとヨコシマが言おうとしたことを言ってあげたのよ。なんか間違ってた?」

「間違ってないのが悔しいんや〜!」

「ふん、いったい何年組んでると思ってるんだい。あんたの考えることなんざお見通しだよ。わかったらさっさと話を進めな!」

「ったくわかったよ、やれやれ・・・・で、どうする?俺とし「やだ!」ま、まだ何も言ってないんだけどな。」



メドーサに急かされると渋々席に戻りハルナに問いかけるとすぐさま反応して遮った。

その体はかすかに震え、でも顔は笑っている。



「どうせ横島さんのことだから、『危険なことなんて何もない普通の生活に戻ったほうがいい』とか何とか言って忘れさせようとするんでしょ?それに『魔法』よ!『霊力』よ!『魔族』よ!仕舞いには『神』よ!普通ならありえないものなのにこの眼で見てしまったのよ!!しかも自分も能力持ち、それもレアときた!!これをみすみす逃す手はないわ!!」



と、拳を振り上げて豪語する。

つい数時間前に出会ったとは思えない的確な判断である。

それを口を開けて見ていた3人だったがメドーサが小さく笑い始めた。



「・・・・くっくっくっ。横島、あんたの負けさ。諦めて教えてやることだね。」

「おお!!メドちゃん話がわかるね!!」

「メ、メドちゃんって私のことかい!?そんな呼び方やめな!!」

「あら、メドちゃんって可愛いじゃない。これからはメドちゃんって呼ぶわ。」

「タマモ・・・・アンタ石にされたいのかい?」

「あら、お望みなら消し炭にしてあげるわよ?」



言い争いを始めた二人を他所に横島は小さくため息を吐いた。

どうして自分の周りにいる女性は皆我が強いのだろうと。



「やれやれ・・・・わかったよ。」

「え、ホント!?!?」



横島の反応に眼を輝かせ詰め寄るハルナ。

その後ろでは二人がいがみ合っているが完全にスルーされている。



「ああ、俺としては前者を選んでほしいんだけどね。危険なんてこれっぽっちもなく友達とバカやって騒いで怒られて・・・・そんな当たり前のこともこちら側にきてしまえば叶わないとは言わないけども、限りなく遠い夢になっちまうけど後悔はしないね?」

「もちろん!!」

「この先ハルナちゃんの友達が、君のせいで危険な目に逢うかもしれない。その覚悟もあるかい?」



威勢よく返事をしたハルナを突き落とすような言葉。

一瞬言っている意味を理解できなかったハルナは呆けてしまったがすぐに気を取り直して横島に詰め寄った。



「ち、ちょっとどういうことよ!?魔法は黙秘されてることでしょ!?それなのになんで周りに迷惑がかかるのよ!?」

「確かに黙秘しなきゃいけないことだけど、手段を選ばないヤツらも存在する。例えば、ハルナちゃんの親しい者を人質にとって『おとなしく殺されろ』なんていうヤツもいる。昼間のような不良とはワケが違う。本当に目の前で親しいものが殺されるかもしれないんだ。その覚悟はある?」

「・・・・・・・・・・・・」



ハルナは昼間の出来事を思い返した。

不良に絡まられただけで気絶してしまったのどか。

気丈に振る舞っていたけれども不良がいなくなると腰を抜かしてしまった夕映と自分。

けれどもそれ以上にあの魔族に命を狙われた時のほうが恐怖に震えていた。



(あんなのがのどかの前に現われたら、それだけでのどか死んじゃうんじゃないかな。)



などと、どこか場違いなことを考えて内心苦笑していた。

眼をつぶり心を落ち着かせ、ゆっくりと眼を開いていく。

そこに存在するのは戸惑いではなく、決意。



「・・・・どうやら決意したみたいだね。」

「ええ。私のせいでのどかや夕映が危ない眼にあったら私が助ける、絶対に。」

「どうやって。君にはまだその力を持っていない。どうやっ「それは師匠が教えてくれるんでしょ?」・・・・は?」

「だから、師匠が霊力や戦い方を教えてくれるんでしょって。」

「師匠ってだれが?」

「横島さん。」

「なぜ?」

「私に霊力の使い方や戦い方を教えてくれるから。」

「なんでそう呼ぶの?」

「私がそう呼びたいから。」

「なんで?」

「戦い方を教えてくれるから。」

「だれ「いい加減におしっ!!」がっ!?」



ああ言えばこう言う。

永遠に続くであろう問答に終止符を打つためにメドーサが鉄槌を下した。



「痛っつ〜メドちゃん、強すぎだよ。」

「メドちゃん言うなっ!ったく真面目な話をしてるのに何でふざけるかねアンタらは・・・・で、どうすんだい横島。」

「どうするって言ったって、ここまで言っちゃったんだから教えるしかないだろ?」

「マジで!?やったーーー!!」



横島に了承されたハルナは諸手を上げて喜んだ。



(最近、恋愛物しか描いてないから今度の作品は魔法のファンタジー物で決まりね。ベターには違いないけどこっちは実体験を元にしてるんだから、説得力間違いなしよ!まず主人公は・・・・)



しかし内心とはこんなものである。

しかも設定まで考え始めている始末。

そんなこととは露とも思っていない二人は苦笑いを浮かべながらその様子を見ていた。



「ねぇ、そっちの話は終わったのよね。私は気にしないけどそろそろ結構な時間だし、寮生活のハルナはやばいんじゃない?」



そう言われてはっとしたハルナは時計を見た。時間はもうまもなく日付が変わろうとしている。



「あっちゃ〜もうこんな時間か。のどかが心配してるだろうな〜。私もう帰らなきゃ。」

「そうか、だったら寮まで送るよ。メド、留守番よろしく。」



そう言うと、横島とハルナは一緒に家を出た。

寮への道すがらハルナは色々話してくれた。

今日の自分と一緒に助けてくれた友達の名前、図書館島の凄さ、中間テストの成績、絵が得意なこと。

そんな他愛もない会話を続けていたがふと気付いたように尋ねた。



「そういえば横島さんもなんか能力持ってるの?」

「ああ、俺はサイキックソーサーや栄光の手といった霊力を収束させることに特化してるんだ。他には陰陽術を少し使えるかな。」

「陰陽術って安部清明みたいなやつ?師匠って何でもありね・・・・あれ?あの森から師匠の家まで移動したときに使った珠みたいのはちがうの?」

「ああ、あれは俺の切り札みたいなものだから簡単に教えることは出来ないよ。」

「ええ〜なんでよ〜別に減るものじゃないしいいじゃない。」

「いいかいハルナちゃん。今はいいかもしれないけど、この世界にと関わっていく中で必ず同じ世界の人と出会うことになる。そのときに自分の能力の事は軽々と口にしちゃだめだ。」



横島の言葉にハルナは疑問を持った。



「え、どうしてよ?別にいいじゃないレアなのよ!?普通の人には話せないのはわかったけど何でそこまで隠すのよ?」

「いいかい?能力ってのは武器と違ってぱっと見じゃわからないだろ?相手にとってわからないってのは怖いものなんだよ。例えばすべての魔法を反射する能力を持つやつがいるとするだろ?それに魔法を放ったらどうなる?」

「あ、そうか。跳ね返って来てこっちがやられちゃうわね。」



納得、といったふうに手を叩くハルナ。



「逆にそれを知っていたら、魔法を使わずに接近戦に持ち込めば勝てる確立は格段に上がる・・・・な?能力を他人に教えちゃいけない理由がわかったろ。」

「うん、ものすごくわかった。私の能力は"眼"だから視界を防がれたりしたらそれでアウトになるわね。」



なるほど、としきりに頷くハルナに横島は小さく笑みを浮かべながら見ている。

そしてふと、前を見れば寮がはっきり見える所まできていることに気付いた。



「寮ってあそこでいいんだよね?」

「えっ、もうこんな所まで来てたんだ。師匠ここでいいよ。もう十分見えるし。」

「そうか?じゃあ気を付けて帰れよ。あと、修業については明日にでもゆっくり話そうか。放課後になったら家に来てくれ。」

「りょうか〜い!そしたらまた明日ね、師匠!」



おやすみ〜、と手を振りながら走り去るハルナを見送ると横島は来た道を戻っていった。









ハルナを寮まで送り届け帰ってきた横島はメドーサの淹れたコーヒーを飲みながら一息入れていた。

ちなみにこのコーヒーはメドーサが豆から煎れたオリジナルブレンドで『質より量』の横島にはもったいない一品である。

時刻はまもなく二時を回ろうかというところ。

タマモは横島のベッドの上で丸まって眠っている。

メドーサは疑問に思ったことを横島に尋ねた。



「それにしても、ここに着てから1日も経っていないのに3人にも正体をバラすって何考えてるんだい?別に変装したままでもいいじゃないか。」

「別に・・・・ただ今回は今までのような短期間じゃなくて1年以上の仕事だ。しかも、『倒す』じゃなくて『守る』というね。その中で正体をバラさずに仕事を続けるのは難しいさ。ハルナちゃんの場合はこっちの世界には滅多にいない霊能者だったってこともあるけど・・・・子供を騙すってのは性に合わなくてね。」

「あんたらしっちゃあんたらしいね。でもこの先どうするんだい、ピエロは活動休止かい?」

「いや、さっき学園長と話してきたけどランク別に"横島忠夫"と"ピエロ"の二通りに仕事を別けてもらうことにした。ピエロも完全なる謎ってのはそろそろキツクなってきたからな。自分からバラすなんてことはするつもりはないけど、確信を持って聞かれたら答えるさ。」



説明は終わりといった感じにコーヒーを飲む横島だったが、本心ではこれで女装はしなくてもよくなる、と安堵の息を吐いていた。

もともと二人の案で渋々やっていたことだっただけに精神的にかなり来ていたようだ。

そんな横島に何かを感じ取ったのか、訝しげに見てくる。

しかしその内容まで読みきれなかったので、もう一つの疑問を口にした。



「それで、そろそろ教えてくれるんだろうね?」

「なにをだ?」

「この私がわざわざ学校何てめんどくさい所に行かなきゃなんないのさ。」

「あぁそれは仕事内容から考えた結果かな。子供先生一人だけなら俺だけで問題ないんだけど、さらに生徒まで加わると話は別だ。一ヶ所にまとまっているなんて授業中ぐらいなもんだ。それなら生徒の中にも仲間がいたら楽だろ?正直そこまで危機的状況になるとは考えちゃいないだけどさ。念のためにな。」

「まぁ確かにそうだね。あんた一人で十分だと思うけど念には念を入れておいたほうがいいだろうね。でもなんか他にも理由がありそうだね。」

「あぁ、でもさっき言ったのは建前でしかないんだ。本音を言うとメドの休息のためかな。前の世界から何百年と俺の手助けをしてくれたからな。特にこっちにきてからの五年間は正直おまえがいなかったら生きていけなかったかもしれないし。仕事だけじゃなくて私生活の面でもかなり助かっているんだ。でも、俺とばっかりいたってつまらないだろ?だから気晴らし程度の感覚でいいんだ。・・・・それにおまえって学校に行ったことないだろ?行ってみろよ。絶対楽しいからさ。」



横島の言い分で反論したい部分もあったが彼の性格をよく知っているため言ったところで認識が変わないことはよくわかっている。

しかし理解しているからといって感情まで納得できるわけではない。

ムスッとした表情でメドーサは横島を見る。



「それに、メドだって友達ぐらいほしいだろ?昔みたいに敵から逃げるような生活じゃないんだしさ。」

「・・・・・横島が私のためを思ってしてくれたってのはよくわかった。―――で、その心は?」

「女友達が出来たならぜひ紹介してほしいなぁ〜と・・・・はっ!?」



次の瞬間には吹き飛ばされた横島が壁にぶち当たりずるずると落ちていった。

呆れながらメドーサはコーヒーを一口飲むとテーブルの端に先ほど横島が学園長から受け取ってきた茶封筒が置いてあるのが目に入る。

何となく封筒を開き中の資料を眺めた。



「・・・・くっくっくっ。ああーーはっはっはっはーー!!」

「ど、どうしたメド?急に笑いだして?」



復活した横島は突如笑いだしたメドーサを訝しげにみた。

ついに壊れたかと思ったのは秘密だ。

言ったらまた鉄拳が飛んできそうだからではない。



「くっくっくっ。いいよ、女友達が出来たらあんたに紹介してあげるよ。」



それに笑いを抑えながらメドーサは言った。



「マジですか!?」

「あ、あぁ本当さ。こんな可愛い小娘たちをあんたに紹介しないのは間違いだったね。」



涙を流しながら喜ぶ横島に腹を立たせながらもニヤニヤした表情を崩す事無く、手に持った二枚の資料を渡す。

上機嫌な横島だったが資料を見た瞬間石のように固まった。



「な、可愛い女たちだろ?顔だけでもその歳にしちゃ上玉もいいところだよ。よかったな〜横島、くっくっくっ。」

「違うんやーーー!!!ワイはロリコンじゃないんやーーー!!!」



横島は血の涙を流し頭を壁にぶつけながら絶叫する。

床に落ちた資料の一枚にはこう書かれていた。





『

          辞令    横島 忠夫

          2003年4月2日を以て

           麻帆良学園中等部助教諭に任命す。

                         麻帆良学園学園長    近衛右近衛門

                                                                』







〜〜あとがき〜〜
メドーサの言動が滅茶苦茶な気がしないでもないんですがそのへんはスルーで・・・・




第6話目次第8話