キーやんたちの計らいで異世界に送られて、気がつけばみたら背が縮んじまった横島だ
タマモは子狐の状態まで戻って喋ることもできなくなるし、メドーサなんて小学生並になっちまった
見た目は子供で頭脳は大人・・・・まったく行く先々で人が死ぬ疫病神少年じゃあるまいし
今度は街で見かけたおっさんを追いかけたら悪魔がうじゃうじゃと出てくる
しかもおっさんが危なかったから助けてみれば大砲みたいな拳圧で殴られるし・・・・なんかついてね〜〜!!
高畑は銜えていたタバコを取り落とし呆然としている。
悪魔たちも律儀に手を出すことなく成り行きを見守っていた。
『あれま〜あんさん酷いやっちゃな〜せっかく応援に来てくれた人を殺してまうなんて。』
「だ、大丈夫かい君!?」
悪魔の茶々入れで我に返った高畑は少年の下に走りよった。
相手が相手だったために本気の居合い拳を放ったので、普通の人なら死、よくて重症だ・・・・
「あ〜〜死ぬかと思った・・・!」
そう普通の人ならば。
残念ながらこの少年―――横島は元飼い主から日常的に調教・・・もとい、元雇い主から折檻を受けていたのでこれしきで死ぬなどということは決してありえない。
まあ、ギャグキャラというのが大部分を占めているが。
「ほ、本当に大丈夫なのかい?」
「大丈夫なわけあるかいっ!!見ろここ、たんこぶできたじゃないか!!せっかく助けてやったのに酷いやないか〜!!」
涙を滝のように流しながら頭を指差す場所には綺麗なたんこぶがある。
予想外の反応に高畑は冷や汗を垂らしながら頭を掻いて謝った。
「ははは、いや〜ゴメンゴメン。」
「ったく、こっちに来て早々厄介ごとに巻き込まれちまった。ってもともとこれは俺らのせいか。」
「・・・・?ところで君はなぜここへ?」
「は、そうやった。あんたの戦い見てたら、俺の所にも悪魔が来たんすよ。んで、下っ端をある程度減らしたんすけど、残りは一人でやるのがちょっとばかしきつかったんで、逃げてきました。」
逃げ足だけは自信ありますからね、と笑いながら話す横島を呆れながら見ていた高畑だったが、今の現状を思い出しすぐさま向き直る。
見渡せば横島ところに現れた悪魔も集まって着ておりかなりの数が所狭しと並んでこちらを睨み付けていた。
「じゃあ、せっかくだから二人で戦おうか。君も結構腕が立つ様だし、僕も一人じゃこの数はきつかったからね。僕の名前はタカミチ、高畑・T・タカミチだ。タカミチと呼んでくれ。君の名前は?」
「野郎の名前なんて興味ないんすけどね・・・まぁよろしくッス、タカミチさん。俺の名前は横島忠夫。GS・・・ってわからんか退魔師です。」
横島の発言に苦笑いをしながらタバコに火をつける。
「それじゃあ、」
「そろそろ、」
「「行きますか。」」
2人は100を超える相手に立ち向かっていった。
2時間後・・・・あれだけいた悪魔たちの影はどこにもなく、森だったその場所は木々がなぎ倒され所々掘り返したような後が出来ており土埃が舞うだけの見るも無残な姿に変化していた。
そのなかで二人の男が少しかすり傷を負いながらもその場に立っていた。
「お疲れさまッス、タカミチさん。つーかに最後の大技凄かったっすね。アレなんて言うんすか?」
横島は服に付いた土をほろいながら興味深そうに高畑に尋ねた。
「ああ、あれは咸卦法といってね。気と魔力を合成させて放った技だよ。それを言うなら君のあの光る剣や盾だって凄いよ。あれは何なんだい?見たところ気の一種のようだけど・・・・」
「ああ、これは霊波刀っていって霊力を凝縮させて刄状にしたものですね。俺は『栄光の手』って呼んでますけど。んでこっちはサイキックソーサーといってこれも霊力を凝縮させて楯状にしたものです。」
「霊力?それは気と違うのかい?」
「ええ、気は体、いわゆる肉体の持つ力っすね。霊力は魂そのものが持つ力なんすよ。だから質としては似ているかも知れないっすがまったくの別物っす。だから気は修行しだいでその量は増えますが、霊力は魂そのものを鍛えない限り絶対量が決まっていて、誰もが持っているわけじゃないんすよ。それにたとえ持っていても個人差があるし成人しちまうと伸びないんすよ。」
本来気とは肉体がある者全員が持っているもので普段は体の奥底に眠っている。
それが危機的状況などで発せられることはある―――火事場のクソ力がいい例である。
その気を自由に使うには長い修業が必要なのだ。
逆を言えば鍛えさえすれば誰もが使える。
それに対し霊力は個人差がある上に魂そのものが持っているため斉天大聖老師が使った修行部屋などでなくては鍛えようがない。
長い間この世界に生きているがそんな力が存在していることを知らなかった高畑は興味深そうに聞いてしているが内心驚いていた。
「なるほど、じゃあ今からやっても僕には出来ないってことか・・・・それは残念だよ。横島君はどこでそれを?」
「俺は師匠に教えてもらいましたね。ただ他の人に比べて凝縮という方面に特化していたみたいで、武器に気や霊気を纏わせたりするのはからっきしっすから・・・・器用貧乏ってやつですよ。」
「はははっ、そうなんだ。それでも自信は持ってもいいんじゃないかい?・・・・で、話は変わるがなぜ僕を付けてきたんだい?」
「あれ、気付いてたんすか?おっかしいなぁ〜気配遮断は怠ってなかったのに。」
高畑は殺気を込めた視線を飛ばすが横島は意に介した様子はなく、ただ気づいたことに驚いた様子で立っていた。
「いや、町中にいるとき後ろでずってナンパしなから僕を付けてきてたら普通気付くよ。まぁ森に入ってからはまったくしなかったら気のせいかと思ったんだけどね。」
「あ、あは、あははははははーー。」
美女を見つけては声をかけるという己の信念を曲げずに尾行をした素晴らしき漢である。
「いや、町中であれだけ雰囲気を出していたからちょっと気になっちゃいまして。あ、別にタカミチさんに敵意があるってわけじゃないっすよ?」
「確かに敵意はなかったね。・・・・とりあえずそういうことにしておいてあげるよッ!?!?」
高畑はタバコを銜えようとした瞬間、上空から物凄い殺気を感じてその場から飛び退く。
横島もそれに続くようにその場から飛びのいた。
それと同時に1体の魔族が砲弾のごとく拳を振り下ろしてきた。
地響きとともに大きなクレーターが出来上がり土煙をあげる。
横島たちはその威力に冷や汗を流しながらその場を睨み付けた。
煙が晴れ、その場にいたのはここに来て横島が最初に出くわした下級魔族。
『よくぞ避けた退魔師たちよ。先程の戦いゆっくりと見させてもらった。もっともそちらの少年は戦いの間、終始私に殺気を放ってたがね。熟練の戦士でもあれほどのものは出来まい。』
「はっ、少し気を外してやるだけでかかってくる奴が何を言ってやがる。最初に逢ったのにいなけりゃ誰でも感付くわ!」
『はははっ言ってくれる。・・・・だが勘違いしてないかね?私は不意打ちを出来なかった訳ではなく、しなかったのだよ。キサマら人間如きに不意打ちなどする必要もない。』
二人を虫を見るかのような眼で見下す。
その威圧感に高畑は冷や汗を流すが、横島はどこ吹く風といった感じで小馬鹿にした笑みを浮かべた。
「いるねぇ〜自分の力を過信して死んじまうバカってよ。」
『・・・・ほう、それは私のことを言ってるのかね?』
「おまえ以外に誰がいるってんだよ、腐れ魔族が。」
『キ、キサマッ!!八つ裂きにしてくれる!!』
「そりゃ無理な話だな―――最後にいい事を教えてやる。俺は戦士なんて誇りのあるもんじゃない。・・・・俺は」
横島が言いおわる前に魔族の胸から腕が生える。
いや、背中から打ち抜かれたのだ。
その魔族特有の紫血が滴り落ちる手には、魔族にとって心臓と同義の核が握られている。
それをやったのは
「「ピエロだ。」」
横島である。
『ガハッ、バ、バカな!?なぜキサマが二人いる!?』
「答える義務があるか。黙って消えやがれ。」
魔族の疑問を一蹴し、霊力を纏わし握りつぶした。
『グギャャャャャャャーーーーーー!!!!!!』
叫びながら消えていく魔族を目の前にその表情に嬉しいや、まして楽しいなどという表情は一切見せない完全に無表情だった。
「・・・・お疲れ横島君。ああも簡単に下級魔族を倒したのには驚いたよ。それにしてもよくできた人形だね。気配まで同じでさらに喋るなんて。どこに隠してたんだい?」
「人形じゃないっすよ。これは式神ですよ。」
さらりと言う横島。
その顔は先程までの冷たい表情は消え、温かみのある優しい表情をしていた。
「式神って陰陽術で使われているあれかい?しかし、あれは気配なんて真似れないはずだよ?」
「ええ、ある道具を使って俺の気配を模写したんですよ。」
「も、模写?その道具っていうのはなんだい?」
「それはさすがに言えないっすね。タカミチさんのことは信用はしてますが信頼はしてませんから。」
「確かにそうだね、いやゴメンゴメン。」
高畑は頭を掻きながら苦笑いを浮かべた。
しかし内心では驚いてばかりである。
横島は中学生程度の年齢にもかかわらず数十年修行し続けた自分並に、いやそれ以上の実力がある。
下級魔族とはいえ、気配も悟られずに一撃で倒したのがいい証拠である。
もしかしたら『紅き風"アラルブラ"』のメンバーに匹敵するかもしれない。
この歳にしてこの力―――はっきり言って異様である。
魂の持つ力を用いて物質化した剣や盾を作り、謎の道具を持ち、誰にも気づかれることなく一瞬にして自分そっくりに模した式神と入れ替わり、敵の注意が式神に行っている隙に背後に回りこむと躊躇なく敵の核を破壊する。
その手際の良さはピエロというよりもアサシンそのものだ。
(この子は危険すぎる。それに今はまだ大丈夫のようだが、道を踏み外してしまったら大変だ。今のうちにこちら側に引き入れたほうがいいかもしれない。)
高畑はこの目で巨大な力を持った人間の末路を数多く見てきた。
一つは『悠久の風』のように影から人々のためにその力を役立てる。
そしてもう一つは修羅となりその力に溺れ、最後には死を迎える。
大半の人間が後者だった。
故に高畑は横島を案じている。
しかし、高畑は大きな勘違いをしていた。
無表情と無感情は同意ではない。
無表情の中にかすかな悲しみ、嘆き―――付き合いの長いタマモやメドーサならともかく、逢って2時間足らずの高畑に見抜けというのも酷である。
元来、横島は平和主義だった。
殴るのも殴られるのも嫌い。
昔、色香に惑わされるようにして事務所に勤め始めた頃は、痛いのはいやと美神に泣きつき、折檻覚悟でセクハラをするほどの煩悩少年だった。
しかしルシオラの死で彼は大きく変わった。
身近な人が危険にさらされることに人一倍怯え、皆を守るために力を身につけた。
自らを犠牲にしてまで仲間を守り、向かってくる敵を倒していった・・・・自分の心を傷つけながら。
―――もしかしたら、こいつも守りたい人がいるんじゃないだろうか。
理性を亡くした悪霊や戦いに快楽を求める戦闘狂ならいざ知らず、あの戦い。
向かってくる敵は神族や魔族、そして・・・人間。
自分たちと同じ知力のある者だ。
横島がそんなふうに考えるのも無理はない。
なぜなら自分も同じなのだから。
だからと言って躊躇すれば守りたい仲間が死ぬかもしれないし、全力で向かってくる者との戦いで手を抜くことは戦いに赴く者への侮辱でしかない。
故に横島は決意した。
他者の命を奪うということに悲しむも己が道を阻むものには容赦しない。
そして向かってきた者たちの想いを背負い歩き続ける。
そんな決意を持つ横島が修羅の道へ行くだろうか・・・・。
そんなことを知る由もない高畑は仲間にならないかと声を掛けた。
「どうだい横「さて、タカミチさんにお願いがあるんすけどいいっすか?」・・・・なんだい?」
「ここで俺に逢ったことを誰にも話さないでください。仲間にも、家族にも、上司にも。・・・・俺はまだこの世界で目立つのは早いんすよ。」
突然の願い出に少し驚くも高畑は少し考え、やがて首をゆっくりと横に振った。
「残念だけどそれは呑めないよ。僕の上司は勘が鋭くてね。それに僕も嘘は苦手なんだ。それに敵か味方か判らない実力者を野放しにはして置けない。」
「・・・・そうっすか。しゃーないっすね、それじゃあ記憶は消させてもらいます。」
少し残念そうに言う横島。
それを聞いた途端、高畑の気配が変わる。
「・・・・それもお断りするよって言ったら?」
殺気を飛ばし横島を威圧する。
横島はそれを微塵にも感じさせず肩をガックリ落とした。
「はぁ〜、やっぱりそうなるんか。けど残念すけどそれは無理っすね。」
次の瞬間高畑の足元で何かが眼を瞑りたくなるような光が放たれた。
高畑は咄嗟に逃げようとしてもすでに遅く、体はピクリとも動かせない。
唯一動く視線だけを下を動かすと『縛』の文字が浮かび上がっている珠が転がっている。
「こ、これはいったい・・・・いつの間に仕掛けたんだい?」
「式神と入れ替わるときに。」
「そ、そんなに早くにかい!?しかもなんて拘束力だ・・・・ははは、負けたねこれは。破ろうとすれば破れるかもしれないけどそんな暇を与えさせてはくれないんだろ?こうなったらおとなしく記憶を消されるとするかな。」
あきらめた高畑は殺気を納め苦笑しながら横島を見た。
「こんな手荒な真似はしたくなかったんすけどね。それじゃあタカミチさん、お元気で・・・・」
そう言って横島は『忘』と『眠』の文字の入った文珠を押し当てた。
「おつかれさん。」
文珠によって眠った高畑を木の根元に横にさせると背後からメドが声を掛けた。
それに驚いた様子もなく、ただ深いため息をついて向き直った。
「ああ、マジで疲れた。自分たちが蒔いた種だからしゃーないっちゃしゃーないんだけどな。・・・・そっちはどうだった。」
「前の世界とほぼ同一世界ってとこ以外、特にめぼしい情報はなかったね。」
そうか、と呟くとタマモを抱きかかえ優しく撫でる。
タマモは腕の中で幸せそうな表情で胸に顔をこすり付けている。
「それでこれからどうするんだい?」
「そうだな。ここらへんでもっとも大きな街までの距離は?」
「東へ約50キロ。」
「そこに行ってこれからの準備をしよう。さっきの町じゃ揃えるのは無理だからな。―――さあ、これから忙しくなるぞ。」
「ハン、誰に言ってるんだい。私は手伝わないよ。」
「キュウ。」
「なっ、なに!?お前ら俺に全部やらせる気か!?」
「この体でどうすれって言うんだい?」
「コン。」
「お、横暴じゃ〜〜〜〜!!??」
その日、久しぶりに仕事もなく横島たちは家で溜まっていた郵便物をめんどくさそうに確認していた。
この世界に着てからもうすでに5年。
あのあと横島たちは世界各地を転々としながら様々な裏の仕事を引き受けていった。
最初の頃は苦労もしたが、すぐに横島たちの知名度は上がり仕事に困るようなこともなくなった。
ただ、この世界ではすでに失われたとされる霊力を使うこともあり、メドーサの案で自らの正体を隠して活動している。
そんなことを考えながらふと視界の端にタマモの姿が見えた。
窓辺に蹲り気持ちよさそうに寝息を立てている。
それに小さく笑みを浮かべ、次々に郵便物を処理して行った。
しかし、ある一通の手紙を見てピタリとその動きを止めた。
そして横島は目の前で一緒に郵便物を確認していたメドーサを見て、
「メド、仕事が入った。」
「ん、今度はどこだい?」
「・・・・麻帆良だ。」