感動的な別れかと思いきや結局オチがついてしまう横島だ
やっぱりコメディアンとしての宿命なのだろうか・・・・
しかし、今は心機一転!
まだ見ぬ異世界の美女に出会うため漢・横島!
今貴女のもとへ!!
ここはメルディアナ魔法学校。
ウェールズの山奥に建造された子供たちが立派な魔法使い"マギステル・マギ"を目指すために日々勉学に励む場所である。
ここに一人の生徒がいる。
"サウザンド・マスター"、ナギ・スプリングフィールドの息子であり、明日からこの学校に入学する少年、ネギ・スプリングフィールドである。
「明日から魔法学校に入るんだ。皆は死んだって言うけど・・・・あれは絶対お父さんだ。お父さんに逢うためにもいっぱい勉強しなきゃ・・・・さ、魔法の練習しよう。」
自分の身長の倍はある杖を握り締めていたネギはそれを置き、練習用の杖を持って家を人気のない丘で魔法の練習を始めた。
「プラクテ・ビギ・ナル
一心不乱に杖を振るネギ。
それはまるで何かに怯える様にも見える。
しばらく練習をしていると、夜空をの一筋の光が走るのを見た。
「あ、流れ星だ!!えぇ〜っと立派な魔法使いになれますように、立派な魔法使いになれますように、立派な魔法使いになれますように。」
流れ星に願い事を言うと願いが叶うというのは万国共通のようだ。
しかしその光は空中で二つに分かれて別々の方角へと流れていった。
「流れ星が分かれた・・・・離婚かな?」
ネギ、御年3歳。ちょっと生々しい言葉を知っているには早いかもしれないがそれは天才である所以か。
「ネギ〜〜晩御飯食べれるわよ〜〜!!」
遠くから1人の少女が駆け寄ってきた。
ネギの幼馴染であるアーニャである。
根は優しく面倒見がいい彼女は、ネギより1つ年上のせいかよくお姉さんぶるってくる。
先日の一件以来、ウェールズに移り住んだネカネとネギはアーニャを交えてよく3人で食事を取ったりしていた。
ネギの近くまで来るとアーニャは呆れたようにため息をつく。
「あんたまた魔法の練習してたの?明日はいよいよ入学式なんだから今日ぐらい休んだらいいじゃない。」
「う、うん。でもやらなきゃなんか落ち着かなくて。」
「はぁ〜仕方ないわね。早く戻るわよ。ネカネさんが待ちくたびれてるわよ。」
「わ、そ、そんな引っ張らないでよ。」
そういいネギの腕を引っ張り丘を下りていった。
「・・・・・・・・・うわぁぁぁぁぁぁぁーーーーーー!!!!!」
ここはイギリス某所上空。
横島たちはご覧の通り現在パラシュートなしのスカイダイビングを体験中である。
神魔の最高指導者に時空間転移をさせられ光が収まれば建物が米粒のように小さく見えるほど遥か上空。
転移の衝撃のせいなのかタマモ、メドーサの二人は意識がなく辛うじて横島にしがみ付いているだけだ。
「ははははははは、人がゴミのようだ!!じゃなかった、文珠〜〜〜〜!!」
何千年経とうともこの性格は変わらないようで。
意識下から文珠を取り出し『柔』の文字を込めると狙いを定める。
さすがにこんな上空から投げたところで空気抵抗やら何やらを考えれば、同じ場所に落ちることなど不可能である。
どんどん近づいてくる地面に恐怖感を抱きながら狙いを定める。
後数秒で地面到着というところで落下予想地点に投げると二人を腕の中に抱き寄せ背を地面に向けた。
抱え込んだときに何か違和感を感じたが今はそれどころではない。
そしてそのまま地面に落下した。
「痛ってぇ〜地面を柔らかくしてもあの距離からじゃ痛えよなぁ・・・・まったく、異世界に来て早々最悪だな。キーやんたちも最後の最後で詰めが甘いなぁ〜。」
普通の人間ならば例え文珠を使ったところで助かるはずがないのだがそれはさて置き。
横島は身を起こして辺りを窺う。
当たりは暗闇だがわずかに見える月のおかげで森の中だと確認できる。
「痛ったたたた、ったく何なのさあの衝撃は。」
「おう起きたかメド。身体の調子は・・・・!?」
横島はメドーサを見た途端驚いて固まってしまった。
「なんだい急に固まっちゃって?そんなに私に見惚れたかい?」
「メ、メド・・・・お前自分の身体を見てみろよ。」
「ん、なんだい急に・・・・なっ何で縮んでるのさ!?」
横島をからかうつもりが自分の体を見てそれどころではなくなった。
メドーサの身体は10歳ぐらいまで縮んでいたのだ。
「キュウ〜」
「タ、タマモ!?」
腕の中のタマモも出会った頃のような子狐でぐったりとしている。
「おや〜ずいぶん可愛くなったね。性格ももう少し可愛くなれば尚のこといいんだけどね〜。」
それに気付いたメドーサはタマモを覗き込みながらからかうように笑みを浮かべる。
「ウゥーーー!!」
メドーサの発言が勘に触ったのか低く唸ると前足でメドーサの顔を引っ掻いた。
「痛った〜〜こんの女狐!!なんて事してくれるんだい!?」
「ち、ちょっと二人とも落ち着け。今は争ってる場合じゃないだろ?現状を把握するほうが先だ。」
腕の中で暴れるタマモとからかい続けるメドーサを止め、現状把握を始める横島たち。
「パッと見た感じ、ここに来る前にキーやんたちに施された封印が時空間転移の影響で肉体的にも作用されたみたいだな。俺の身体も若くなってるしな〜。だいたい15、6ってとこかな。はぁ〜キーやんたちもどっか抜けて・・・・!?」
自分の身体を見回していた横島だったがふと、あることに気づき身体を強張らせた。
その顔は真っ青である。
そしてすぐに立ち直ると右手を左胸に当て眼を瞑った。
突然おかしな行動を取り始めた横島にメドーサたちは不審に思い声をかけた。
「急に黙り込んで一体どうしたんだっていうんだい?」
「・・・・いない。」
「キュ?」
「いないってなにが居ないんだい。」
「居なくなってるんだよ・・・・俺の中で眠ってるはずのルシオラが居なくなってる。」
絶望に駆られた表情をして今にも消えそうな声で呟いた。
「なっ!?そ、そんな馬鹿なことがあるかい!!あいつはあんたに取り込まれてるんだからあいつが居なくなったらあんただって死んじまうって自分で言ってたじゃないかい!!」
「そうだよ!でも命を助けられてからずっと感じていたあいつの気配がまったくしないんだ!!こう胸にぽっかりと空洞が出来たみたいで・・・・本当に居なくなっちまったんだよ!!」
半ばやけくそといった感じで叫ぶ横島だが叫び声が森に木霊するだけで現状が変わるわけもなく沈黙が漂うだけだった。
しばらくすると冷静になった横島が頭を下げた。
「すまん、二人だって今の状況に混乱してるのに俺だけ取り乱して・・・・情けないな。」
「気にするんじゃないよ。あんたに比べたら私らのことなんてちっぽけなもんさ。」
「コンッ。」
「それに向こうにいたときは確かにルシオラの気配を感じてたんだろ?ならきっとこの世界のどこかにいるさ。探すの手伝ってやるよ、あいつとも約束をしたしね。」
「・・・・ありがとう。」
二人の優しさに横島は静かに涙を流した。
「さて、行動する前にこの世界について少しは知っておかなきゃならないな。」
気を取り直した横島たちは現状の把握に戻っていた。
やはり最初にするべきはこの世界についての情報収集だろう。
なにをするにもこれが解らなかったら動きようがない。
街に着いたのはいいが言葉が通じないじゃ話にならない。
「といっても調べようにもこんな時間に森の中を歩くのは危険だ。今日は結界を張って休んで、明日森を抜けよう。一応ビック・イーターを偵察に行かせてくれるか?」
「あぁ、わかったよ。」
メドーサは自分の眷属"ビック・イーター"を呼び出した。
ビック・イーターは噛む事により相手を石に返る能力を持つ下等ながらも幻想種の一種である。
これをメドーサは自らの髪の毛を媒介にして呼び出すことが出来る。
だが呼び出された眷属に威圧感は微塵もなく、むしろデフォルメされたように可愛らしいものであった。
そんな眷属に顔を引きつらせながらいくつか指示を出す。
眷属は頷くと喜ぶように森の中へと消えていった。
「・・・・ビック・イーターってあんなに可愛かったっけ?」
それを呆けたように見ていた横島はポツリとこぼした。
「し、仕方ないだろ?霊力が予想以上に枯渇してるんだ。」
「いや、だからってあんな可愛らしさは出ないと思うぞ?」
「キュウ。」
「う、うるさい!ほら、もう寝るよ!明日は早いんだろ!?」
顔を赤くして怒るメドーサは見た目相応の可愛らしさが出ているのだが、そのことをからかうと収拾がつかなくなるのでやめておいた。
三人は近くにある大木の根元に身を寄せ合い『結』『界』の文珠を使うと、静かな森の中で眠りについた。
翌日、横島たちは日が昇りきらないうちからビック・イーターに導かれ森の中を歩いていた。
さほど深い位置に落ちたわけではないらしく、二時間ほど歩けば小さな町に着くという。
その間、ビック・イーターが入手した情報をメドーサから聞いていた。
科学技術が発達していてもとの世界の20世紀程度の文明であること。
話し言葉、書き言葉ともに英語であったこと。
そのほかにも、チャペルが存在しているなど、この世界が極めて元の世界に似ていることがわかった。
そんなことを話しながらも周囲の警戒を怠ることなく歩き続けた。
ちなみにタマモが横島の頭の上を陣取っているのはご愛嬌である。
半日ほど歩いて町に下りた横島たちは最初にしたことは服の調達だ。
時空間転移の影響で若返ったために、服のサイズが合わなくなっているのだ。
タマモは子狐だから問題ないし横島は裾を捲れば問題ない。
しかし問題はメドーサだ。
見た目10歳以上若返ったメドーサは服のサイズがまったく合わなかったのである。
今は横島の外套を借りて口元まで隠している。
まるで機械の身体を手に入れるため空飛ぶSLに乗った少年である。
服装を整えた横島たちは喫茶店で少し早いランチを楽しみながらこのあとの予定を立ていた。
「これからどうするのさ?」
「情報収集と行きたいんだがこんな田舎じゃ優良な情報は手に入らないだろうな〜。」
やらないよりはマシだろうけど、と付け加えながらも食べるスピードは一向に落ちない横島。
そしてコーヒーを飲みながら呆れた目で見るメドーサ。
横島の頭の上で休憩中のタマモ。
時折、尻尾が揺れているのがなんとも可愛らしい。
周囲の人もそれを微笑ましく見ており、尻尾が揺れるたびに『可愛い』や『抱きしめたい』など歓声が上がっている。
「とりあえず、手分けして情報を探すか。メドーサたちはこの世界の表側を調べてくれ。裏側は俺が調べる。キーやんたちの口ぶりからすると厄介ごとがない世界ではないようだしな。世間に知られていない危険なこともあるんだろう。2時間したら一度広場の噴水前に集合しよう。」
食事を終え店を出た横島たちは二手に分かれて情報収集にあたった。
先ほどまで横島の頭の上にいたタマモは今はメドーサの腕の中で暴れている。
メドーサがタマモと二人で行動すると言ったので横島が渡したのだ。
決して子狐のタマモを抱きしめたいわけではない・・・・・・たぶん。
ちなみに洋服とランチの代金をどうやって払ったかというと、昨夜のうちにビック・イーターが心優しい人から寄付してもらったのを使った。
その後、二人と別れた横島は表通りに来ていた。
横島自身この町で裏の情報が掴めるとは思っていない。
そういう情報はもっと大きな街に行かないと掴めないだろう。
では、なぜ横島が別行動を取ったかというと・・・・
「お嬢さん方、僕と一緒に遊ばない!!??(日本語です)」
「そこの綺麗なお姉さん、僕と一緒に素敵なアフタヌーンティーでもどうでしょう!!??(日本語です)」
ナンパに勤しんでいたりする。だがもちろん結果は
「はぁ?消えな!うざいよ!(英語です)」
「ふふふ、顔を見てから出直してきてくださいね。(英語です)」
「ぢぐじょーーー!!男はやっぱり顔なのかーーー!?」
惨敗である。
昨夜はあれだけ落ち込んでいたのになんというか、心配したこっちが損した感じである。
しかし言語が違っても通じてしまうのは横島たる所以か。
お構いなしにナンパをし続けた横島は涙を流しながらベンチに腰をかけ行き交う人を眺める。
と、その場に不釣合いな人が通ったのが見えた。
手をスーツのポケットに入れタバコを吹かしながら歩く髭を生やした男。
一見どこにでもいそうな男だが、醸し出す雰囲気が一般人じゃないことを示している。
巧妙に隠しているが只者ではない。
「―――優雅に観光ってわけじゃなさそうだな。」
やれやれ、とため息をつきながら立ち上がり後をつけ始めた。
気配が気配だけに霊力で視力を強化することにで、50m近く距離を置いてあるのでばれる事はまずない。
男はこちらに気付いた様子もなく、通りでやっている市場を眺めながらゆっくりと町の外にある森の中へと入っていった。
辺りを観察しながら2時間ほど歩いていくと男は止まり辺りを探り始めた。
すでに約束の時間を過ぎていたがそれどころではなくなった。
なぜなら男が探っているその場所は昨夜横島たちが落ちた場所である。
「なるほど、さしずめ昨日発生した巨大な霊力についての調査ってところか。・・・・そして、昨日のあれを察知したのはあの男だけじゃないって事か。」
男もその気配に気づいたのか、森の奥を睨み付けている。
すると、視線の先から続々と異形の者たち―――悪魔が現れた。
悪魔とは下級魔族ほどの力を有していないが同種族と考えられているものたちの総称である。
上から順に上級魔族、中級魔族、下級魔族、悪魔とカテゴライズされている。
その悪魔が100体以上、一人で相手をするには手に余る数だ。
「さて、男の力量でも拝ませてもらうとするか。」
横島は手を出すつもりはないらしく多少見づらいのを我慢して木の陰に身を潜めた。
決して、面倒事に巻き込まれるのがいやなわけではない。
男は自分から向かっていく気がないのか、手をポケットに入れたまま自然体で悪魔たちと対峙している。
そこに一体が襲い掛かる・・・・が、突如何かに吹き飛ばされ倒された。
横島はまだ仲間がいたのかと周囲を探るがどこにも気配はなく、やはりあの男一人であった。
「ということはあの男がやったのか?」
今度は1体ずつではなく一斉に襲い掛かかる。
それに慌て事なく軽いステップを踏むとやはり先ほどと同じように次々と吹き飛ばされていく。
5体ほど倒されるのをじっと見ていた横島は確信した。
「なるほど、気を凝縮させた拳圧か。拳が刀でポケットが鞘の役目をして抜刀術の要領でやっているのか。あんな戦い方初めて見たな。」
などと、野次馬根性丸出しで成り行きを見ていると、自分の背後にも悪魔の気配を感じた。
すぐに立ち上がり殺気を気配のする方へ飛ばす。
それに反応したのか薄暗い森の中かぞろぞろと湧き出てきた。
数はおよそ100。
『くくく、なかなか心地よい殺気ではないか。そこらの魔法使いよりはやるようだな。しかし、この数相手に勝てるのかね?』
「悪魔がたくさんに下級魔族が数体・・・か。確かに今の状態でこの数とあんたみたいなのとやりあったらただじゃ済まないよなぁ〜。」
『では、おとなしく殺されたまえ。なに、痛いのはほんの一瞬だよ。』
「いや、痛いの嫌いだし。ってなわけで、ここは引いてくれたら嬉しいなって思ったりするんだけど?」
『それは出来ない相談だな。我々は呼び出された存在だ。ならばその意義を全うせねばならんのでね。』
「そうか、それは残念だ!!」
横島は瞬動術を使用し、先程声を掛けてきた悪魔の前に移動すると霊波を纏った両手を叩いた。
「サイキック猫だまし!!」
ネーミングはアレだが性能は折紙付。
強烈な光と音で相手の視覚と聴覚を麻痺させる技である。
横島は相手が一瞬怯んだ隙に第二の手を放つ。
『爆』『拡』『散』の文字の入った文珠を密集部に投げ込む。
爆音が響き渡り、熱風が吹き荒れる。
これで結構な数に痛手を負わせただろう。
今の文珠は過去に比べて霊力の霊力の凝縮率が上がっているため、その性能も格段に上がっている。
昔が10とするなら今は50〜100近くまで上がっているのだ。
横島は文珠を投げ込むと同時にその場を離脱し森の奥へと駆けて行く。
あの男のいる場所まで。
高畑・T・タカミチは悪魔を倒しながら昨日のことを思い返していた。
高畑が所属しているNGO団体「悠久の風」は表向き難民救援などの福祉団体とされているが裏では魔法絡みの事件などを取り扱っている団体である。
その日、高畑は悠久の風の仕事を終え本国へ帰還していた。
仕事に内容は魔法テロを計画している組織の壊滅。
その組織自体は小さく高畑一人で終わる仕事だった・・・・もちろんそれは戦闘ランクAを持つ高畑だからできる芸当であったが。
報告も終え臨時講師をしている麻帆良に帰ろうとしていると本部から緊急召喚を受けた。
何事かと思い足早に向かうとウェールズのある地点で膨大な魔力の反応を感知したと言う。
かの大戦以来感知していないほどの魔力らしくその調査に行くよう言い渡された。
高畑はすぐさまウェールズに飛んだ。
(あの近くにはネギ君が通う学校がある。なにも起きてなければいいが・・・。)
そして今に至る。
数だけの相手に負けるはずもなく着実に減らしていった。
残りが半数を切った時、背後から敵が現れた。
力にして下級。
先程までの悪魔と違いすばやい攻撃だったが、それを軽やかにかわすと本気の居合い拳を放つ。
しかし、それが当たる前に突如現れた少年が手に纏った光の剣で切り伏せられた。
そして、行き場を失った居合い拳は吸い込まれるように・・・
「へぶろっ!!??」
少年―――横島に命中した。
〜〜あとがき〜〜
タカミチのランクが低いのは原作開始より5年前のためです。