アシュタロス事変・・・・ソロモン72柱の魔王の1柱"恐怖公アシュタロス"が人間界と神界、そして魔界をもその手中に収めようと三世界に宣戦布告した戦いである。
アシュタロスは世界中に点在する冥界チャンネルを次々と破壊、さらにはアメリカ軍の核兵器を強奪し人類全てを人質に捕るという非道な行為を行った。
神界との接触も遮断され、孤立無援の人類だったが、最終局面において当時世界最高のGSとされた美神令子ら12名と人間界に駐留していた神魔族3名でアシュタロスの切り札である"魂の結晶"を破壊、さらには"究極の魔体"を撃破し人類は勝利を収めた。
<六道女学院霊能科・霊界の歴史より抜粋>
上を見れば空には黒く雲が覆い雷豪が鳴り響き、下を見れば地は瓦礫と化したビルと草木が1本も生えていない荒廃した地上。
そんな中、辛うじて原形を留めたまま残る赤い塔。
その塔も周囲の瓦礫とはいかないまでもぼろぼろで、全体を綺麗な赤で塗られていた塗装も剥げ落ちていて、いつ倒壊してもおかしくない状況にある。
その塔はかつてこう呼ばれていた、"東京タワー"と。
その東京タワーから少し離れた場所に倒壊したビルに囲まれたその中に、原形を留めたまま残る建物あった。
周囲に残る建物の名残と比べても前時代的なレンガ造りの建物。
窓には所々板が張られており、その隙間から見える窓ガラスはヒビが走っているが倒壊する気配もなく静かに時を刻み続けている。
その建物にゆっくりとした足取りで近づく3つの人影があった。
一人は白い肌に金色の瞳と髪の毛を腰まで伸ばし、狐の耳を付け九房の尻尾を持つ着物を着た20代半ばの女性。
また一人は腰まで届く薄紫の髪に赤い瞳をし、手には二股の真紅の槍を持つ20代後半の女性。
そして最後の一人は左手首に赤いバンダナを巻き、漆黒の服に赤い外套を羽織った20代前半の男性。
『お久しぶりです、皆さん。どうぞお入りください。』
建物の前に着くと、どこからともなく声が聞こえてくる。
それに3人はいぶかしむ様子もなくむしろ懐かしそうな表情をして声を掛けた。
「久しぶりね。変わりはない?」
『ええ、最後にここを去る時に張って頂いた結界のおかげで特に異常はありません。』
「こいつが張ったんだからそう簡単には破れるもんじゃないだろ。」
「おいおい、そんな過大評価されても何も出ないぞ?しかし本当によかった。来たのはいいけどいなくなってたらどうしようかとドキドキもんだったんだ。」
男は苦笑いを浮かべるもすぐに小さく笑みを浮かべて嬉しそうに呟いた。
『心配していただきありがとうございます。たいしたお持て成しも出来ませんがどうぞ入りください。』
そう姿無き声がすると目の前の扉がひとりでに開いた。
『お帰りなさいませ、タマモさん、メドーサさん、横島さん』
「ああ、ただいま人口幽霊1号。」
数いる妖怪の中でその頂点に君臨する九尾の狐"タマモ"。
かつては一柱の魔王に忠誠を誓った蛇龍神"メドーサ"。
姿無き声の主、否、目の前に建つかつて美神除霊事務所と呼ばれた建物"人口幽霊1号"。
そして最愛の女性の命を犠牲にして世界を救い、文珠という『魔法に最も近き霊能』を使いこなす青年"横島忠夫"である。
「久しぶりだな、ここに来るのも・・・・」
「ええ、もうかれこれ100年近く来なかったしね。」
「こうやって落ち着ける場所があるってのはいいね。あんたらに逢う前の事を考えたら嘘のようだよ。」
「なに急に年寄り臭いこと言ってるのよ?外見だけじゃなくついに思考までオバサン化したの?」
「オバッ!?・・・・やれやれこういう場所の有難味がわからないからお子様にとやかく言われたくないね。」
「ウッ・・・・わ、わかるわよ。この場所の重要性ぐらい。というよりもお子様扱いしないでくれる。」
かつて事務所として使われていた部屋で一息ついていると早速、いがみ合いを始める二人。
その構図はまるでシロとタマモのいがみ合いのようだった。
それを横目に横島は小さく笑いながら手短の窓を開ける。
そこから見えるのは赤い塔。
それに懐かしさを感じながら二人のことを考えていた。
彼女たちはまだ横島が人だったころからの唯一の知り合いである。
タマモは転生したばかりの頃、不当な理由で殺されそうになっていた時に横島が保護をしたのがきっかけで、事務所のメンバーに加わり、黄金時代を築き上げるのに一役買ってきた。
そして今、数多くの仲間が寿命で、または戦いで命を落としてきた中の唯一の生き残りである。
片やメドーサはかつて魔王の部下であり幾度となく横島たちに牙を向き、そして滅ぼされた存在。
コスモプロセッサによって復活し、再び横島の前に現れたものの瀕死の重症を負い、魔界に戻り傷の回復に専念している間に魔王は倒れ、今度はその残党狩りから逃げ続ける生活を送っていた。
しかしそれも失敗に終わり、死に掛けていたところを横島が助けたのがきっかけで同行している。
あの戦いから2000年余り。
振り返って考えるとなんとも可笑しな面子ではあるが横島にとっては大切な家族でもあった。
そんなことを考えていると、ふっと真剣な表情をした。
『横島さん、お二人がお見えになられました。いかがいたしましょう?』
「・・・・来たか。この部屋に通してくれ。」
わかりました、と人口幽霊は答えしばらくすると二つの人影が部屋に入ってきた。
『えろ〜遅くなってスンマセン。』
『本当に遅くなりました。なかなか意見がまとまりませんでしてね。サッちゃんとこの面子が色々言ってくるもんですから。』
『何を言うてんのや。キーやんとこだってブツクサ言っとたやないか。』
『まぁそれはそうですが。』
このやけに軽いノリの二人―――いや二柱は神魔最高指導者ことキーやんとサッちゃんである。
こんな性格でよく人の上に立てるなとお思いかもしれないが二柱曰く、上層部に行けば行くほど軽い性格らしい。
たった今まで彼らは現在生き残っている神魔の上層部を集め今回の戦争ついて審議していたのである。
アシュタロス事変の後、アシュタロスは自らが望んだ"魂の牢獄からの開放"を得、心置きなく眠りに着く事ができた。
しかしその結果、デタントのバランスが大きく崩れ神族強硬派による魔族殲滅思想が活性化してきた。
これに慌てたのは神族穏便派であった。
もし二つの勢力がぶつかったとしてその戦場はどこになるだろか?
科学兵器が人類ほど発達していない神魔族が神界から魔界へ、魔界から神界へ直接攻撃が可能な兵鬼を所持しているはずも無く、必然的に空間を越えてからの戦闘となる。
しかし神魔界間の移動は強固な防壁によって越えることは難しい。
無理やり突破しようとすれば突破前に敵部隊に待ち伏せされる可能性が出来てしまう。
そこに大部隊を送ったとしても返り討ちにあうのがオチである。
ではその被害を最小限にとどめるにはどうすればよいか?
それが人間界にある冥界チャンネルがある。
これは何も神界のみを繋げるわけではなく、魔界と繋ぐ場所があるのだ。
これを抑えることが戦いの鍵になる。
そうなれば自然と戦場は決まってくる。
自らが守護すべき人類を巻き込んでの戦いに何の意味があるのか。
そう声を上げても耳を傾けることはなかった。
そうして始まった戦争それはまさにハルマゲドンと呼ぶに相応しいだろ。
「開戦から1800年・・・・もう人類の生き残りは数えるほどしか残ってない。なぜこの戦いの無意味さをもっと速く気づくことが出来なかったんだろうな・・・・で、審議の結果は?」
横島はどこか遠くを見るような目で窓の外を見た。
景色を見ているような雰囲気ではない。
『・・・・結論から言いますとこの時間軸、つまりはこの世界は凍結されることになりました。』
『現在の戦況からしてどちらが勝者ってのが決まるよりも先に他の時間軸にまで影響を与えてしまう可能性がえろう高いことがわかったんや。』
二柱もそれを感じ取っても何も言えるはずも無く、流す形で話を進めた。
それに異論は無いのか横島はすぐに視線を元に戻した。
「やっぱり、そういう結果になったか。」
『なんや予想してたんかいな?』
「ま、ある程度は・・・・な。」
『そうですか・・・・それではあなた方に伝えなければならないことがあります。』
『そうやった。今回の件であんたら―――特に横っちにはめっちゃ迷惑をかけてしもうた。そのお詫びと言っちゃなんやけど、プレゼントを渡そ思っとったんや。』
「へぇ〜あんたらもなかなか気が利くじゃない。」
「それで、プレゼントって何よ?」
「・・・・」
素直に喜び二人に対し、横島は一人顔を俯かせた。
『どないした横っち?腹でも壊したか?』
『ゴキブリ以上の生命力のある横っちがお腹を壊すわけないじゃないですか。』
「どうしたのヨコシマ?」
「あんたらしくないね〜一体どうしたってのさ?」
辛口なキーやんを横目に二人は横島を気遣った。
もっともゴキブリ以上の生命力を持っているのは事実だが。
「いや・・・・なんでもない。んで?そのプレゼントってのは何なんだよ?」
横島は小さく首を振りいつもの軽い表情を取り戻す。
タマモとメドーサも心配そうな表情を見せるも追求はしてこなかった。
『そうですね。簡単に言えばあなたたちには二つのうちどちらかを選んでもらいます。一つは時間移動をして過去に戻ってもらう。そしてもう一つは異世界に行ってもらう。』
「「!?!?」」
「やはりな・・・・時間移動はわかるとしてゼル爺さんでもないのに俺たちが異世界に行くなんてそんなことできるのか?」
ある程度予想していたのか横島は他の二人と違い落ち着いて疑問を口にする。
『えぇ、私たち二人は他の神魔族と違いこの時間軸だけではなくほかの時間軸も統括しています。まあ、そのほとんどが不干渉でしてこの世界のように現れることなど皆無なんですけど。私たちが行くときに使う方法を応用してこことは違う世界に飛んでもらうってわけです。』
『そして時間移動の件なんやけどな〜簡単に言えばやな、今回のハルマゲドンの始まりはアシュタロス事変や。せやからそれより前に戻ってそれを阻止して欲しいんや。ワイらとしては時間移動をしてもらいたいんや。』
「・・・・・・」
『どうですか?』
「ヨコシマ・・・」
「・・・」
「わかった」
『おお〜〜そう言ってくれると思ったで。ほなこれから準備「とでも言うと思ったか?」!?』
横島の発言に驚く二人と二柱。
『な、なんでや?やり直すって事はルシオラはんとまた逢えるって事やで?そのチャンスをみすみす逃すなんて「それがそもそも間違ってるんだよ。」・・・・。』
「確かに俺はあの時ルシオラを失った。いや、この手で殺した。あれから2000年。いつもほんわかとしていた冥子ちゃん。自分や他人に厳しく、それでも最後まで愛する我が子を守りぬいた隊長。俺を本当の兄のように懐いてくれたひのめちゃん。俺のことを誰よりも最初に認めてくれた小龍姫様。弱い俺をここまで強くしてくれた老師。迷ったときにいつも導いてくれた神父。掛替えのない戦友だった雪之条、タイガー、ピート、エミさん、カオスにマリア、ヒャクメ、ジーク、ワルキューレ、パピリオ、べスパ、士郎、志貴、魔法使いの面々、アルクちゃんにアルト。いつも背中を支えてくれたおキヌちゃん、シロ、令子、そして蛍。多くの仲間や愛する者に出会い、共に戦い、そして死んでいった。自らの誇りに掛けて戦いに挑んで来る者も数多く俺は殺してきた。俺はその多くの想いを背負いここまでやってきた。それなのにここでやり直すなんてそれは死んで逝った者たちへの冒涜でしかない!!!失ったものは戻らない。でも、その想いは忘れない限り失われない!!・・・・だから俺は過去へは戻らない。」
真剣な表情で語る横島を見てタマモも決意を固め二柱を見た。
「私も戻らない。私もヨコシマの様に色々と背負ってるんだから。それに戻ったとしても私の知っている人は誰もいない。皆似ているだけで同じじゃないのよ。」
そんな二人を見てメドーサは呆れたように、しかしどこか納得いった表情でため息をついた。
「やれやれ、あんたらが戻らないのに私一人戻ったところでつまらないしねぇ〜私もやめとくよ。」
そんな三人を見て二柱は顔を見合わせため息をついた。
『仕方ありませんね。』
『そうやな。本人たちがそう言うんやから仕方があらへん。今の横っちなら戻ればハーレムも夢やなかったのに。』
「ふっ、甘いなサッちゃん。ハーレムなら異世界で作ればいいんだよ。知っている人を落としたって面白くない!新たな地での出会い。そしてそこで育まれる愛!そして今度こそ『
「「このバカたれがーーーー!!!!」」
さっきまでのシリアスはどこへ行ったのか。
女性二人にシバかれる横島を見てやはり横島は何千年経とうとも横島であったと思う二柱であった。
『さてそろそろええか?こっちも時間が押してきよった。』
「ええ、いいわよ。」
タマモの言葉にメドーサもうなずく。
視界の端にはモザイク処理が必要な物体Xが放置されているが気にした様子はない。
『さて、異世界に行く前にあなた方の力を封印させてもらいます。これは向こうに行ったときに世界からの修正を防ぐためです。』
「修正?」
『向こうにいてから徐々に力を開放せな突如現れた異物に世界が反応して最悪消される可能性があるからや。』
『それではいいですか?最初にお二人の力を封印します。』
『悠久たる時の流れよ。その身に宿りし力の流れを止め、己が内に封じ込めよ。蛇龍封印!!』
『悠久たる時の流れよ。その身に宿りし力の流れを止め、己が内に封じ込めよ。妖狐封印!!』
二柱は手を翳して言霊を発すると二人の体を一筋の光が取り巻き次第に消えていった。
『はい、終わったで。身体能力を一般人より高い程度まで抑えといたから余程のことがない限り問題ないはずや。あとは向こうに行って徐々に解かれていくやろ。』
二人は身体を動かしながら調子を確かめる。そんな二人をいつの間にか復活した横島が興味深そうに見ていた。
『さて、次は横っちの番です。横っちの場合はルシオラさんの力・・・つまり魔族としての力を封印します。しかし、その左腕のバンダナは外さないでください。いくら魔族の力を封印してもそちらまで封じきることは出来ませんので・・・・では行きますよ。』
「ちょっと待ってくれ。なあ人口幽霊1号、おまえはどうする?よかったら俺たちと一緒に来ないか?」
「そうね、このまま一人だけ残していくのはかわいそうな気がするし。」
横島はキーやんを遮って天井を向く。
横島にタマモが賛成して天井を見上げた。
メドーサはどちらでもいいのか壁に寄り掛かったまま黙っている。
『・・・・お言葉は嬉しいのですが生憎と私には身体がないのでどうすることも出来ません。たとえ霊体で行ったとしても時空間転移の際に消滅してしまうでしょう。』
「確か昔橙子さんに頼んで作ってもらった人形が無かったか?あれに入ればいいんじゃないか?人並み以上の耐久力があるって言ってたから問題ないだろ。」
『・・・・いえ、それでもお断りさせていただきます。』
「どうしてよ?このままここにいたら止まっちゃうよの?ここにいたって何の意味も無いじゃない。」
『意味はございます。たとえ時が止まろうとも、あなた方が違う世界に行こうとも、美神オーナーをはじめとする事務所の面々、美知恵さんやひのめさん、そしてパピリオさんにルシオラさん・・・・様々な人がここに生きていたという証として私はここに残らせていただきます。お聞きいただけませんでしょうか?』
辺りに沈黙が漂う。
キーやんたちも時間がないのはわかっていたが何も言わずにことの成り行きを見守っている。
そしてその沈黙を破ったのは意外にもメドーサだった。
「別にいいじゃないかい。本人が残りたいって言ってるんだから周りがとやかく言う筋合いはないよ。」
「・・・・そうだな。キーやん始めてくれ。」
メドーサの言葉に頷くと横島は二柱に向き直る。
タマモはまだ諦め切れていないようだが、渋々と引き下がった。
『よろしいですか?では改めて』
『『悠久たる時の流れよ。その身に宿りし一つの魂の流れを止め、己が内で一時の休息を与えよ。人魔封印!!』』
二柱はタマモたちのように横島にも封印をかける。
(お休みルシオラ、今日までありがとう。またおまえの力を借りるときまで今はゆっくり休んでくれ。)
光に包まれた横島は自分の中に眠るルシオラに最後の挨拶をする。
そのとき、光の向こうでルシオラが微笑み手を振っているのが見えたのは横島だけだった。
『よし準備OKやな。ほな表出よか。』
光が収まるとサッちゃんは一同を外に連れ出した。
外に出ると事務所前にすでに複雑な魔法陣がすでに用意されていた。
「・・・・時間移動の魔法陣と似ているな。」
「そう?私は第二魔法の魔法陣に似てると思うんだけど・・・・」
『お二人とも正しいですよ。これは時間移動と第二魔法の魔法陣を応用して作られた時空間転移の魔方陣です。これにより"個"としての存在を維持したまま異世界に行くことができます。おそらく向こうでは貴方のような人が必要とされています。どうかそのような人たちのために力を貸してあげてください。』
そういうと二柱は両手をかざし、魔力と神力を込め始めた。
『それでは皆さん、魔法陣の中に入ってください。』
「ちょっと待ってよ、どんな所に行くのか聞いてないわよ!?」
『それは行って見ないことにはわからんわぁ〜。』
「はぁ〜?なんだい中途半端だねぇ〜。」
『すみません。でも、人が住めない環境の世界には送りませんので・・・・・・たぶん。』
「ち、ちょっと待ったーーーーー!?たぶんってなんだたぶんって!?それぐらい真面目にやらんかーー!?」
『そ、そんな動かんといてな。失敗したらどないすんねん。』
『そ、そうですよ。そろそろ転移が始まるので皆さん離れないでください。』
そういうと、ブツクサ言いながらも三人はぴったりと寄り添ってレンガ造りの事務所を見上げた。
「じゃあな人口幽霊1号。もう二度と逢えなくなるけど、ここで過ごした日々は絶対に忘れないからな。」
「元気でねって言うのもなんか変だけど、とりあえず言っておくわ。あなたのこと絶対忘れないから。」
「横島のことは任せな。私がきっちりと面倒見てやるよ。」
『ありがとうございます。私もあなた方と過ごせた時間を忘れません。どうかお元気で・・・・』
『・・・・別れはすみましたか?』
「ああ、やってくれ。」
『ほな逝くで!』
「ち、ちょっと待て!!字が違うぞ!?」
『そんなこと気にしたら生きてけませんよ?ではお元気で。』
「気にするわーーーーーー!!!!せっかくの雰囲気が台無しやぁぁぁーーーー!!!!」
サッちゃんの声とともに魔方陣が発する光が強くなり、叫ぶ横島を余所に空へ一筋の光が走る。
その光は雲を突き破り天高くまで昇ると静かに消えていった。
『行ってもうたな。』
『えぇ、もう彼らに会うことはないでしょう。それだけが心残りですけどね。』
『ホンマやなぁ〜。しゃ〜ないっちゃしゃ〜ないんやけど寂しくなるわ。にしても最後の最後まで締まらんやっちゃな。』
『彼らしくていいじゃないですか。しんみりして泣いて別れるなんて相応しくありませんよ。』
なんとも酷いことをおっしゃる二柱である。
もっとも否定できないのが悲しいが。
『そういや、なんか3人とは違うもんも一緒に飛んで行った気もするんやけどキーやんなんか気いついた?』
『いえ、私は何も気がつきませんでしたよ。サッちゃんの見間違いではありませんか。』
『そうなんかな〜まあええや、ほな戻るか。もうそろこの時間軸も凍結されるやろ。あんさんはホントにこのままでええんか?』
そう言ってサッちゃんは事務所を見上げた。
『はい、このままでかまいません。私はここで生まれ、ここで終えるのです。』
『そうですか、ではお元気で。』
『ほなな。』
そう言って二柱は消えていく。
あとに残ったのはその役目を終え静かに佇むレンガの家と夕日に照らされる赤い塔だけであった。
〜〜あとがき〜〜
初めての方は初めまして。以前読んだことのある方はお久しぶりです。
いろいろな方からご指摘いただいたので自サイトで公開することにしました。
矛盾等がないよう精一杯がんばるので温かく見守ってやってください。
ちなみにアシュタロス事変で最終局面で活躍した人数は横島を抜いた人数です。